本日、日本国憲法は施行から66年を迎えました。現在、政界ではかつてないほど憲法改正の機運が高まっていますが、それだけに旧態依然とした護憲勢力もなりふり構わず、必死になってきたという印象があります。

 

 参院選に向け、国民がどう判断していくのか、日本と日本人のあり方自体が問われる重大局面だと考えますが、それはともかく、今回は読書エントリです。

 

 まずは、「はずれ」のない池井戸潤氏の「ルーズヴェルト・ゲーム」(講談社、☆☆☆★)から。タイトルは、野球を愛したルーズヴェルト大統領が「一番おもしろい試合は、8対7だ」と語ったとされるのが由来で、要は逆転、また逆転の大接戦を表しています。

 

     

 

 長引く景気低迷の中で危機を迎えた会社と、その所属野球部の人間模様、ライバル企業との熾烈なやりとり、新製品開発に真摯な現場……などが、池井戸氏一流の手に汗握る筆致で描かれており、読み出すと止まりません。私はホント、「正義は勝つ」という予定調和、勧善懲悪の話が好きですね。現実は必ずしもそうではないだけに、物語の中ぐらいこうあってほしいと。

 

 次に、同じ企業小説ということで、久しぶりに江上剛氏の作品を手に取りました。この「銀行支店長、走る」(実業之日本社、☆☆★)がそれですが、この本は妙にタッチが軽いというか、軽妙さを狙うばかりにかえって感情移入ができないというか……。

 

     

 

 主人公の支店長が盛んに孫子を引用したり、銀行支店の「女番長」などというキャラクターが出てきたり、ヤクザだ政治家だのと悪役の設定も類型的で、なんだかなあ、という後味が残りました。以前けっこうまとめ読みした江上氏の小説は、必ずしもそうではなかったのですが。

 

 で、この読書エントリの「常連」作家である原宏一氏の「握る男」(角川書店、☆☆☆★)についてです。これは作者の意欲作というのか何というのか、帯に「これが本当に、原宏一の作品なのか」とあるように、今まで紹介してきたものとは作風がガラっと変わっています。

 

     

 

 タイトルは象徴的で主人公は両国の寿司店の小僧としてまず寿司を握り、やがて日本の「キン◯」を握ろうとするのですが、その過程の描写が「黒い」というかえげつないというか。読んでいくうちに気持ちが前向きになる作品が多かったこれまでの原氏のストーリー展開と全然違いますが、面白い。

 

 食べ物つながりで読んだ山本一力氏の「おたふく」(文春文庫、☆☆☆)は、いつもの「一力節」満開でした。それが分かっていて読んでいるのでもうあれこれ言いませんが、若干、本当にそうなるかなあ、これでいいのかなあ、という疑問は残りました。

 

     

 

 山本幸久氏の「渋谷に里帰り」(新潮文庫、☆☆☆)は、やる気の見えないサラリーマンである主人公が、ずっと避けてきた故郷・渋谷地区での営業を命じられ、旧友らに再開したり、過去をたどったりするうちに、仕事のおもしろさに目覚めます。

 

     

 

 最後に、おそらく初めて読んだ真山仁氏の「プライド」(新潮文庫、☆☆☆★)を紹介します。7編の短編集が収められた短編集なのですが、それぞれが事業仕分け、農家の戸別補償制度など民主党政権の批判になっている部分があって楽しめました。

 

     

 

 特に、わずか3ページの短編「歴史的瞬間」は、ある人物をモデルにしているのが明らかで、ニヤニヤしながら読みました。例えば、こんな描写が出てきます。

 

 《総理大臣になるのが夢だった。そのためには、あらゆる卑怯な手段も躊躇なく選んできたし、どんな顰蹙を買っても目立つことは何でもやった。そして俺は総理の座を手に入れたのだ。夢は叶った。だが、まだ物足りない。歴史に名を刻むような実績がないからな。それどころか、このままだと汚名を残しかねない。閣僚の舌禍が続き、内閣支持率は10%を切ろうとしている。でも俺は辞めない。この粘り腰こそが身上だからだ。そして起死回生のチャンスが巡ってきた。》

 

 ……どう考えてもモデルはアレですね。アレは望み通り、歴史の教科書に「原発対応の不手際」で名を残しました。一個人の人生としてはある意味、完結しており、立派なものです。国民にとっては大迷惑で、いい加減にしてほしいのですが。