小泉首相が6月18日までの今国会の会期延長を否定しているため、約60年ぶりの実現が期待された教育基本法は、やはり先延ばしになったようです。新聞は、成立しそうにない法案の審議には冷たいので紙面ではまともに紹介できませんでしたが、5月30日の衆院教育基本法特別委員会で行われた参考人質疑はなかなか興味深いものでした。
なかでも、鳥居泰彦・中央教育審議会会長(慶応義塾前塾長)が教育基本法に関する〝本音〟を明らかにしてくれたことが収穫でした。鳥居氏は、同法が連合国軍総司令部の強い影響下で占領政策の一環として制定された事実や、中国の愛国教育の実態の一部に言及しています。
日本社会では戦後、ある時期からGHQの諸施策とその影響について国会で論じることはほとんど「タブー」となっていたようだし、社会的地位のある人物が中国の異様さを一部でも指摘することは珍しかったので、とても新鮮でした。
教育については一般論を語るだけで、教育の現状やその背景、諸外国の実情をほとんど知ろうともしない小泉首相にこそ聞かせたい内容でしたが、この日の特別委は首相出席ではなかったので残念です。
鳥居氏は、現行の教育基本法制定の経緯について「占領軍のお墨付きをもらいながら、原案を書いていったことが次第に明らかになってきた。占領軍の影響下にあったことは否めない事実だと思う。だから現行法はできるだけ早く見直した方がいい。(中略)そういう状況下でこの法律がつくられ、公布されたことを改めて国民みんなが思い起こす必要がある」とはっきり語りました。
教育基本法が憲法と同じく米国製であることは明確なのですが、これまで文部科学省をはじめ、政府はそこをごまかしてきました。
鳥居氏はまた、「愛国心」教育への懸念を表明する社民党議員に対し、「一番極端な例は、私の知る限り中国の教育法だ。教育法では第6条に『国家は、教育を受けるものに対し、愛国主義、集団主義、社会主義の教育を実施し、理想、道徳、規律、法律、国防及び民族団結の教育を実施しなければならない』と規定している。(今回の政府の改正案が)思想、イデオロギーの強制につながるということはできないと思う」と指摘しました。
自分たちが崇拝する中国や北朝鮮の空恐ろしい現状には目をつぶり、日本だけを危険視し、糾弾する人々に対し、痛烈な皮肉を浴びせたといったところでしょうか。
このほか、特別委ではジャーナリストの桜井よしこさんが、戦後、さきの大戦と無理に結び付けられて軍国主義の手引文扱いされてきた教育勅語について、熟読してみたら何も問題がなかったという趣旨の話をしていました。教育勅語に関しては、麻生太郎外相も最近、「当たり前のことが書いてある」と述べており、「変な言論タブーが少しずつ溶け消えてきたな」と少し喜んでいます。