安倍晋三首相と小泉純一郎前首相ら新旧首相、新旧自民党幹事長は29日夜、自民党の1回生議員でつくる「83会」との懇親会に出席し、郵政造反議員11人の復党について理解を求めました。
特に、頼みの綱の小泉氏から、「(造反組は)白旗を上げたのだから」と説かれたことには、新人たちの心境も複雑だったようです。そりゃそうでしょうね。「83会」のうち、井脇ノブ子氏、近藤三津枝氏、杉村太蔵氏ら18人は、議員連盟「復党問題を考える会」を立ち上げて復党に反対していましたし。
「考える会」の設立趣意書には、「国民の納得や理解なしに復党させることは、自民党、ひいては政治そのものに対する信頼を失わせる結果となりかねない」と書いてあります。悲愴感が伝わってきます。
それで、本日は、昨晩の夜回りで彼らの話を聞いた後輩記者のメモを紹介します。メモからは、「政治の世界」とは何なのだろうかと、翻弄され、揺れる新人議員の心境が伝わってくるようです。
まずは、京都3区で民主党の泉健太氏に惜敗した「考える会」の一員である清水氏から。
《■清水鴻一郎氏(比例代表・近畿、60歳)
記者:小泉さんはあいさつで新人議員にどんな話をしたのか
清水氏:使い捨てという風にこのあいだ(小泉氏が)言ってましたよね。あれは「使い捨てというのは国民が君たちを使い捨てにするかどうかの勝負だから、使い捨てというのは関係ない」と。「自分たちが今度生き残れる方法は、今度復党した人たちをどれだけ味方につけられるかということだから、それだけウイングが広がったんだから、そういう考え方をしろ」、というようなことを言ってました。
記者:土下座という言葉が出ていたそうだが
清水氏:それは要するにですね、「郵政に反対して信念を貫いた人が、それを降ろし郵政に賛成するということは、もう白旗を揚げたんだ」と。「その人たちに対して、それをもだめだといいうような自民党であってはならないじゃないか」、そういう風な言い方でしたね。
記者:新人議員の中には復党に反対の方もいるが、小泉さん、安倍さんにそういう思いを伝えた人はいましたか
清水氏:まあ、武部前幹事長があいさつで、「今からいうことはちょっと酔っぱらっているかも知れないから、アイムソーリーだ」と先に断った上で、「復党に関してやっぱり筋を通さないと自民党が安倍総理を選んでるんじゃないんだ」と。「国民が選んでるんだから、国民に対するちゃんとしたメッセージを届けなければ、国民に対して説明がつかなければだめだ」ということもおっしゃってましたね。
記者:新人議員から小泉さん、安倍さんに直接言った人は?
清水氏:僕は、小泉前総理には「本当にあれでいいんですか」ということはちょっと言いました。そしたら、「それはあいさつで言う」と言っていましたけど、それはあいさつの中で「安倍親衛隊になって安倍さんを支えることが改革を進めることなんだから、ぜひ頼む」という言い方でしたね。
記者:安倍総理に対して新人から、意見をいうことは
清水氏:スピーチする場面はなかったので、そういうことはなかったですけども、特に造反議員と同じ選挙区の人たちはこれで、いわば「国民から自民党が見捨てられるのではないか、こういう筋の通らないことでいいのか」ということは雑談、話の中で出ていましたね。
記者:それに対して安倍総理は
清水氏:安倍総理に直接言った人はいないんじゃないかな。安倍総理はそのこと気にされてるようですけども、要するに「今、開かれた自民党というのはいつまでも政治課題が一つじゃないんだ、たくさんある中で、いい日本、美しい日本をつくっていくためには、一つのことを乗り越えていかないといけない。今が転換期だと。戦後60年、人生で言えば還暦を過ぎたこのときに新しい日本をつくっていくために、もっと広い心を持って一緒にやりましょうと。ぜひ、協力してください」と。そんな感じでしたね。》
次は、故橋本龍太郎元首相の地盤を引き継ぐも、岡山4区で民主党の柚木道義氏に敗れた橋本岳氏です。
《■橋本岳氏(比例代表・中国、32歳)
橋本氏:復党問題に関し、中川幹事長が「多少支持率が下がっても最終的に国民のためになる議論、判断をしたんだ」という趣旨の発言をした。小泉さんは、「道路特定財源の問題を通じて自民党は改革政党であり続けるし、安倍政権もがんばるから83会のみんなで支えてほしい」という話。
記者:新人で復党にふれた人は
橋本氏:みんなの前では土屋会長が代表して、4人にお礼を言っただけ。特段復党には触れていなかった。83会分裂のような話もあったが、きょうはみんな集まって新旧首相、幹事長が集まって補選のお礼とかだった。》
次の篠田陽介氏も「考える会」に名を連ねています。愛知1区で民主党の河村たかし氏に破れた篠田氏は、どうも納得がいかない様子でした。
《■篠田陽介(比例代表・東海、33歳)
記者:小泉総理は復党に理解を求める発言をしたそうだが
篠田氏:小泉前総理は「それぞれが持ち味を発揮してやればいい。安倍総理がトップとして決めたことだから、安倍さん自身が支持率が低下するとかを踏まえての安倍さんの考え方だから、君たちがどうこういうことではない」と。
記者:早期の復党に反対してきたが、復党を認めた安倍さんに思いを伝えられたか
篠田氏:私は個人的に話をしていない。話を聞いていて、前幹事長、前総理、現総理、現幹事長の話を聞いて・・・。私が青臭いのか、まだ理解できないところが正直いってある。ただ、それが政治なのかなあと・・・。若い考え方としたら正直理解できない。しかし、理解しろというのであれば、逆にどうやって説得できるかも考えていかなければいけないし、政治はそういったものかなあということであれば、それについて私は屈することなく、自分の言うことはこれからも言っていきたいと思う。
記者:新旧2人の総理が理解を求めたが、まだ理解できないところがあるのか
篠田氏:ある。やはり手続きが本当にオープンだったのか。マスコミに状況を流したというが、我々に対して特に何も言わないまま、マスコミにあれを流したのか。そこが完全にオープンだったのか疑問が残る。
記者:今日の会合は反対している議員のガス抜きではないかとの指摘もあるが
篠田氏:執行部の考え方を聞いたのかなあ・・・。ギリギリの線だったのかなあと思うが、やはり私はちょっと違う思いを持っている。それは世代の考え方の違いではないかなあと思っているので。世代の違いを言っていくことも我々の仕事だと思う。我々若い議員の仕事は、世代間の考え方の違いも上に伝えていくのが私の仕事だと思っているから、そういった思いでこれからもやっていく。
記者:安倍総理は復党について、具体的にどういっていたか
篠田氏:(しばし沈黙)「新しい時代に向かって新しい日本をつくっていくために、それは今まではいろいろ考え方が違ったかもしれないが、そういった人たちもこれから一緒にやっていこう。私も一緒にやっていきたい。その時々に政権運営の中で協力したい人については、それは受け入れてやっていきたい。今回の問題についても、いったん終止符を打って、新しい枠組みで取り組んでいきたい」と言っていた。
記者:小泉さんの言葉でほかに心に残ったことは
篠田氏:「今回復党問題がなくても、違った問題が出てきたかもしれない。支持率はその時々のものだから、別にあまり我々が一喜一憂することはない」と。》
最後は、埼玉5区で民主党の枝野幸男氏に破れた牧原秀樹氏です。この人も「考える会」に入っています。
《■牧原秀樹氏(比例代表・北関東、35歳)
記者:小泉氏が、土下座したんだから許してやれと言ったようだが
牧原氏:土下座? というか、「政治家としては極めて重いことをしたから、とにかく安倍総理を自分たちで投票したということをもって支えるというのが大事だ」という話はしていた。
記者:それについてどう感じたか
牧原氏:復党問題がどうあろうと、安倍総理に我々は支持をして、投票して支えなければならないという思い、そこは共有しているので、そこは「今後美しい国造りに向けて協力してほしい」という言葉もあったので・・・。》
また、オフレコなので名前は出せませんが、出席者の一人は「新人にとってもいい経験だよ、今回は。これは権力闘争だから。でも第一幕は終わり。第二幕はもう始まっている」とも述べていました。確かに、ね。
私もまだ、8年4か月ほどしか、政治の世界を見てきていないので、あまり大きなことは言えません。ですが、政治の世界は死屍累々、言葉の本当の意味で「一寸先は闇」だと感じています。その中で長年生き残ってきた人は、とてつもない生命力と強運に恵まれた人だけだとも。
政治家にとっては、まさに権力闘争に勝ち抜いて権力を得ることこそが、自分の政策を実現することなので、仕方がないのかもしれません。政治家とは、落選したら何の保障も受けられない人たちでもあります。
私のような安楽に流れる人間には、心身ともにとても務まらない職業だと心から思います。まあ、弊社の将来にも何の保障もありませんが…。