2007年03月


 国会の裏手には、衆院に二つ、参院に一つの計三棟の国会議員会館があります。ここには各議員の事務所が置かれているのですが、食道や理髪店、売店、会議室などもあります。この中小の会議室を議員が借りて、市民集会や勉強会が開かれているのですが、本日はその一例を紹介します。議員会館にわれわれ記者が入るには、国会の記者バッジと帯用証を提示しなければならず、記事を書く際には丸めてここも「国会内」と表記することもありますが、実はこうした「公」の場でも反日集会が開かれているのです。

 ちょっと以前の話ですが、2005年2月1日には、衆院第2議員会館で「女性国際戦犯法廷に対する冒涜と誹謗中傷を許さない日朝女性の緊急集会」という集会がありました。例の、朝日新聞が安倍晋三氏と中川昭一氏がNHKに圧力をかけて慰安婦番組の放送内容を変えさせたと報じたアレについてですね。

 この集会には、戦犯法廷を主宰したバウネット関係者のほか、民主党の石毛えい子前衆院議員、小林千代美前衆院議員、社民党の福島瑞穂党首、近藤正道参院議員、北朝鮮の国会議員(最高人民会議代議員)である金昭子氏、朝鮮新報記者らが集い、参加者は計200人にも上ったといいます。

 弊紙は残念ながら当日、会場にもぐりこめませんでしたが、当時、某所から参加者のあいさつ内容を入手していましたので、以下に記します。国会の一角では、白昼堂々とこんなことが語られているのだという参考にしてください。

 《石毛氏 私たち民主党、そして社会民主党、共産党の野党3党で、立法府議員の方から日本軍慰安婦の方たちに対する日本の国家としての謝罪と補償を実現するための「戦時性的強制被害者問題解決促進法案」という法案を、この3国会続けて出しております。
 国会の中でも、日本軍慰安婦は商業的にはあったかもしれないけれど、日本軍が関与していたというのは嘘ではないかという嘘が、いまだもって蒸し返されている状況があります。(中略)
 そして、NHKで放映された国際法廷の中身と、朝日新聞とNHKとを競わせて表現の自由を抑圧していこうという動きが重なって、私はとても今の状況を危惧しております。(後略)

 小林氏 最近になってNHKの職員の方の内部告発によりまして、この問題が大きくクローズアップされるようになりましたけれども、この問題はETVの番組が放送される前から議論になっていた問題です。
 実は私は当時は北海道の札幌選出の民主党所属の衆院議員なんですけれども、ちょうど2001年3月8日の国際女性デー札幌集会というのを、私も実行委員をやって開催いたしまして、この国際戦犯法廷に関する集会を行いました。
 そのときに松井やよりさん(※、バウネット代表、元朝日記者)に札幌に起こしをいただきまして、この問題について勉強会を当時行ったことをよく覚えております。その後に、松井やよりさんが亡くなられたことを残念に思っております。
 しかしながらこの問題、国会議員の介入により番組の改組がさせられた、それももちろん問題ですけれども、これだけ世界的にも大変評価を受けている国際法廷について、一部の議員の中にはまるで裁判ごっこではないか、そのような内容だったのではないかというように誹謗中傷されていることに対して、私も大変強い憤りを持っている。(後略)

 福島氏 (前略)この女性戦犯国際法廷につきましては、もともと私自身も、いわゆる従軍慰安婦とされた人たちの裁判を担当する弁護士で、この女性国際法廷にも、傍聴人として一般の市民として、あそこの会館のところに出席しておりました。今回、ものすごい危機感を持っております。ファシズムというのは、こういう形で起きていくのだということを痛感しております。(中略)
 今回のケースは、もちろんNHKもしっかりしてほしいとか一杯思いもあります。ただ、政治権力によるメディアへの介入の問題である、政治家によるパワハラだと思っております。こういう形で恫喝をし、メディアの問題を私物化していくこと、安倍晋三さんがこれで何も問題はなかったと居直ることを許してはいけないと。(後略)

 金氏 (前略)安倍、中川両議員と多くのマスコミは、報道に対する政治介入があったかなかったかに目を向けていますが、ことの本質は朝鮮をはじめ、多くの女性たちに強要した性奴隷という旧日本軍による国家犯罪を認めるかどうかにあると思います。
 安倍氏は女性国際戦犯法廷に対しても、とんでもない模擬裁判だったと中傷していますが、これは数十万の性奴隷被害者に対する許し難い冒涜であり、戦前の日本軍国主義の犯罪行為を公正に断罪しようとする世界の良心を踏みにじるものです。
 同じ戦犯国であるドイツは、ナチスの被害者に対して、現在も国家が補償を続けております。しかし、日本の場合は、最近、韓日条約締結のための会談記録が公開され話題になっていますが、半世紀に及ぶ植民地支配に対する公式謝罪も国家としての賠償、補償もなく、個人補償もまったく拒否されていることが外交文書として明らかになりました。(後略)

 近藤氏 去年の7月の参院選挙で新潟から選出をされました。女性国際戦犯法廷、私は、私たち日本国民の良心的な企画だというふうに思っておりました。新潟からもたくさんの女性たちが参加し、あるいは賛同の声をあげておりました。(中略)
 この問題をまた逆に契機に、歴史の真実を捻じ曲げる動きがどんどん出ているという風に、本当に危惧の念を深くしております。とりわけ安倍さんの発言などはですね、むしろ完全に居直って、この女性国際戦犯法廷そのものを真っ向から冒涜している。この法廷が拉致問題を覆い隠すものだと、こういったことを公然と言う。本当に私たちは引くわけにはいかない。(後略)

 朝鮮新報記者 (前略)先日、アウシュビッツの60周年でEUの首脳たちが集まったんですが、安倍だとか中川だとか、向こうで言えばナチスの戦犯の子孫というものがですね、普通の一般の生活とか一般の発言はできると思うんですが、政府の中枢、政治を司る中枢に入って過去の侵略戦争責任を否定するとか、植民地支配に対して肯定するとか、こういうことは絶対に許されないことであります。ドイツとかヨーロッパでは、こういうことに対しては刑事罰が、アウシュビッツは嘘であるなどというと民衆煽動罪で逮捕される、刑事罰が下る。(中略)
 私たち朝鮮民族として許し難いのは、もう一つは安倍だとか中川たちがテレビ、メディアを利用して北朝鮮というキーワードを使って戦争を起こそうとする、ことを構えようとしている。これが一番問われている問題だと思うんです。(後略)》

 この短い引用の中に、みなさんはいくつの嘘、事実誤認、すり替え、誇大表現、根拠不明の数字、決めつけ、偏見を見つけられたでしょうか。あまりにもたくさんありすぎて、一つひとつ指摘する根気がないので、一言、「でたらめ言うな!」と述べておきます。紹介した以外でも、参加者から安倍氏への批判は相次ぎ、「私は嘘をつきません。彼がどうして歴史を直視しないで戦争を賛美するのかというと、A級戦犯の孫だからです」という意見が出ると、「そうだ!」と賛同する声が上がったそうです。正しくは安倍氏はA級戦犯容疑者(不起訴)の孫ですが。

 でも、これを見ても、安倍、中川両氏がいかに北朝鮮やそのシンパから警戒され、嫌がられていたかがよく分かりますね。また、この集会で発言した石毛、小林両氏は次の選挙で落選しており、有権者の良識を見る思いがします。それにしても、こういう集会を、何も国会議員会館内でやらなくてもいいのに。ある意味、日本はどこでも何でも自由に発言できる素晴らしい国だということを表しているエピソードかもしれませんが、やはり納得できません。


 一昨日のエントリで、10年ほど前に慰安婦の「強制連行の話などなかった」と自らの見聞について話しただけで、自宅や友人宅が家宅捜索を受けたある韓国人の話を書きました。慰安婦の強制連行に疑義をはさむことは、韓国では決して犯してはならないタブーとなっているようですね。でも、ずっと前からそうだったかというと、必ずしもそうではなかったのだと思います。

 というのは、慰安婦問題で韓国・済州島に現地調査をした現代史家の秦郁彦氏らが紹介していることですが、以前の韓国紙は結果的に強制連行を否定することになるような記事も掲載しているからです。東京基督教大の西岡力教授の15年前の著書「日韓誤解の深淵」(亜紀書房)から、ちょっと引用させてもらいます。

 今日の慰安婦問題の発端となったのが、職業的詐話師といわれる吉田清治氏が書いた「朝鮮人慰安婦と日本人」「私の戦争犯罪 朝鮮人強制連行」の2冊の著書ですね。この中で、吉田氏は軍の命令で済州島で慰安婦狩りをしたと「告白」し、朝日新聞などがウラもとらずに真実であるとして報道し、話を大きくしていきました。

 で、「日韓誤解の深淵」には、この吉田氏の本の韓国語訳が出版された際の地元紙、「済州新聞」(1989年8月14日付)の記事が西岡氏によって日本語訳されたものが載っています。それは次のような内容でした。

 《解放44周年を迎え、日帝時代に済州島の女性を慰安婦として205名徴用していたとの記録が刊行され、大きな衝撃を与えている。(略)しかし、この本に記述されている城山浦の貝ボタン工場で15~16人を強制徴用したり、法環里などあちこちの村で行われた慰安婦狩りの話を裏づけ証言する人はほとんどいない。島民たちは「でたらめだ」と一蹴し、この著述の信ぴょう性に対して強い疑問を投げかけている
 城山里の住民のちょん・たんさん(85歳の女性)は「そんなことはなかった。250余の家しかないこの村で、15人も徴用したすれば大事件であるが、当時そんな事実はなかった」と語った。
 郷土史学者の金奉玉氏は「(略)83年に原本(私の戦争犯罪…)が出た時何年かの間追跡調査した結果、事実無根の部分もあった。むしろ日本人の悪徳ぶりを示す道徳性の欠けた本で、軽薄な商魂が加味されている思われる」と憤慨した。》

 少なくとも、この記事が出た当時は、韓国でも「なかったことはなかった」とごく当たり前に言えたわけですね。この済州新聞は日本軍による強制連行全体を否定するものではありませんが、少なくとも、吉田氏が慰安婦狩りの舞台として描いた済州島においては、それを否定していると言えます。

 そもそも、日本軍・官憲による慰安婦狩りが実際にあったとすれぱ、「実は、この吉田氏のようなことは私もやった」「私も目撃した」という証言が必ずどこかからか出てくるものだと思いますが、これまでこんな証言をしているのは吉田氏だけです。中国戦線で捕虜を殺しただとか、他の残虐行為については自責の念にかられて告白する人が後を絶たないのに、どうして強制連行に限って誰もほかに名乗り出ないのか。この一点をもってしても、強制連行説はいかにも不自然に思えます。

 …ともあれ、この吉田という人の書いた虚構が、1996年に国連人権委員会に提出された慰安婦を軍事的性奴隷と位置づけたクマラスワミ報告のベースとなり、現在審議中の米下院の対日非難決議案へとつながっているわけです。信じられない思いに頭がくらくらしますが、これが現実なのです。

 この吉田証言に基づいて、旧社会党は国会質問で取り上げて政府を追及し、朝日新聞は論説委員のコラムなどでまるっきり事実であるかのように書き、「勇気ある告白」として持ち上げました。そして、吉田氏の本がフィクションであることが明らかになってからも、訂正も謝罪もしようとはしません。最近は、慰安婦問題とはつまるところ朝日問題ではないのかと指摘される方も多いようですが、全く同感です。

 となると、本来、批判すべきは韓国のあり方よりも、韓国まで巻き込んでひたすら日本の立場を悪くしようと長年努めてきた国内の反日勢力なのでしょう。なんとも消耗させられる現実だなあと、嘆息するばかりです。 


 きょうの在京夕刊各紙の1面トップは、それぞれ見事にバラバラでした。毎日は公務員制度改革もの、朝日は不二家の洋生菓子販売再開、東京は弾道ミサイル緊急対処要領、日経は旅行会社やホテルの新入社員研修特需、読売はライブドア事件判決…と、一つも同じ話題がありません。では、東京本社管轄内で夕刊を廃止した産経の大阪夕刊はというと、大阪国税局の話題ものでした。

 人のうわさも75日と言いますが、マスコミは次々に飛び込んでくるニュース取材と執筆に追われて、それまで大々的に取り上げてきたテーマをすぐ忘れます(私も往々にしてそうなりがちです。反省)。あれほど狂騒状態を続けた柳沢伯夫厚生労働相の失言追及も、いつの間にか収まっていますし。何が言いたいのかというと、ここ数日は、昨年末から連日のように各紙が取り上げてきた「政治とカネ」をめぐる報道があまりないなあ、ということです。

 この問題については、私自身、うんざりしていてあまり考えたくない気分になったりもしたのですが、やはり、これからもちゃんとウォッチしていかないといけないな、と思い直した次第です。そこで、政治とカネについて再び考えてみることにしました。

 国会は週明けの26日に平成19年度予算が成立する予定です。となると、メーンの論戦の場である予算委員会は開かれなくなりますね。あとは、論戦の場は重要法案を審議する文部科学委員会だとか厚生労働委員会などに移ることになります。予算委員会よりも細分化された政策ごとの論戦になりますし、基本的に関係大臣しか出席しませんから、野党側としても、これまでのように、政治とカネをめぐるスキャンダルの追及を続けるのは難しくなるでしょう。

 国会で追及されないとたいしたニュースにはならないので、政治家は国会閉会中にスキャンダルが発覚しても、比較的平然としていることがあります。次の国会で仮に質問されても、そのときには話題が古くなり、インパクトが薄れていることが分かっているからです。

 そうすると、1本5000円の高価なミネラルウォーターを飲み、その分を政治資金収支報告書上の光熱水費に計上していたとされる松岡氏は、ひとまず「逃げ切った」ということでしょうか。疑惑の目を向けていた国民には大いに不満でしょうが、松岡氏をめぐる新しい疑惑が出てこなければ、この話はとりあえず沈静化していくのかもしれません。

 私がそう考える理由はもう一つ、この問題に対する民主党の足並みが、どうも大きく乱れているように見えるからです。多額な光熱水費を計上していた議員としては、松岡氏のほかに民主党の中井ひろし元法相の名前が上がっています。中井氏は一応、記者会見して釈明しましたが、この件をめぐって党内がぎくしゃくしているようです。

 私は野党担当ではないので、あまり核心的な情報は直接入手できないのですが、ここ数日の各紙のベタ記事を繋ぎ合わせて見ると、雰囲気が伝わってきます。まず、20日の朝日の記事からです。見出しは「中井氏の光熱水費問題」「責任果たした」「小沢代表が見解」とあります。

 《民主党の小沢一郎代表は19日の松山市内での記者会見で、同党の中井ひろし・元法相が自身の資金管理団体の光熱水費を付け替えていた問題について「単純な記載ミスとはいえ、ミスがあったのは事実。本人が公表して国民に謝罪したということなので、説明責任はきちんと果たした」と述べた。中井氏は党常任幹事会議長を退く必要はないとの認識を示したものだ。》

 なるほど、小沢氏は見事なブーメランを投じた中井氏はもう説明責任を果たしたので、これで一件落着と言っているわけですね。現在の党の役職も辞する必要はないと。まあ、自分も写真もコピーもだめで閲覧時間は30分だけという領収書の「公開」で、政治資金による10億円を超える不動産購入問題の説明責任を果たしたつもりでいらっしゃるようですから…。ところが、翌日の各紙を見ると、党内からも違う意見が出ていたようです。21日の読売は「民主・小川氏『中井氏は責任を』」と書いています。

 《民主党の小川敏夫参院幹事長は20日の役員会で、同党の中井ひろし・元法相の資金管理団体が政治資金収支報告書の光熱水費を虚偽記載した問題について、「きちんとした責任を取る必要がある」と述べ、常任幹事会議長を辞任すべきだという考えを改めて示した。》

 朝日が「付け替え」と書いた部分を、読売は「虚偽記載」とストレートに書いていますね。それはともかく小川氏は、中井氏が記者会見を開いた程度ではだめだいう考えのようですね。中井氏がもっとけじめをつけないと、松岡氏を追及できないということでしょうか。民主党の衆院側には威光をとどろかしている小沢氏ですが、参院側には抑えが効かないようです。民主党の参院のドン、輿石東議員会長は、参院自民党とつながっているとされ、青木幹雄参院議員会長ともパイプがあると言います。

 それだけでなく、この日の朝日は「中井氏光熱水費」「すべて公表を」「鳩山幹事長」という記事も載せていました。ほう、衆院側からも小沢氏の結論に異論が出たのかな。中身はこうです。

 《民主党の鳩山由紀夫幹事長は20日、CS放送・朝日ニュースターの収録で、同党の中井ひろし・元法相が光熱水費に別の経費を付け替えていた問題で「05年に関しては公表したが、その前に数年間同じようなことをしていた、と言っている。これをさらに公表してもらう」と述べた。その上で「全部公表した時に党としてどうするかは私の責任で考える」と語り、中井氏の処分を一任されたことを明らかにした。
 中井氏は03年と04年分の光熱水費についても付け替えを認めている。》

 さて、小沢氏の言葉との食い違いも興味を引きますが、果たして中井氏が鳩山氏の言うように以前の分まで改めて公表するかは疑わしいと思います。ただのカンですから、外れるかもしれませんが、これまでのいろんな問題に対する民主党の対応を見ていると、このままうやむやになりそうな気がします。そして本日の産経には、「松岡氏追及チーム設置見合わせ」というミニニュースが出ていました。

 《民主党は22日、松岡利勝農水相の光熱水費問題に対する社民、国民新両党との疑惑解明チーム設置を当面、見合わせることを決めた。社民党の又市征治幹事長が同日、調査対象に民主党の中井ひろし衆院議員の光熱水費問題を含めるべきだとの考えを示したことに反発した。》

 野党間でも歩調がそろわず、腰砕けになりつつあるということでしょうか。民主党執行部としては、ここで無理して松岡氏の件をつつけば、せっかく世間が忘れてくれるかも知れない角田義一・前参院副議長の朝鮮総連傘下団体からの献金疑惑や、小沢不動産問題が再燃することを警戒しているのかもしれません。

 私は以前のエントリで、小沢氏の資金管理団体「陸山会」が計13カ所に総額10億円以上の不動産を持ちながら、毎年約2400万円もの借料損料(地代・家賃等)を支払っていることに疑問を呈しておきましたが、これについても理由が判明してきました。まあ、本当によくやるというか…。

 政治とカネの問題の追及は、国民の政治不信を増大させただけで下火になってきているようですが、何かが解決したり、終わったりしたわけではありません。自民、公明両党は今月中にも政治資金の透明化に関する合同チームを立ち上げるといいます。また、きょう昼には、公明党の太田昭宏代表が首相官邸で安倍首相と会い、事務所費問題について法改正を含めてしっかりやろうということで一致したそうです。一刻も早く、もう少し透明で分かりやすい制度に改めてほしいものだと望んでいます。
 

 
 本日は、ずっといつか書きたいと思っていて、その機会がなかった話を紹介します。韓国の人が、慰安婦問題で日本人にとってごく当たり前と思える発言をしただけで、ひどい目にあった事例についてです。ご本人が、新聞に載ることで、さらに迫害を受けることを心配されていたので記事にできなかったのですが、匿名でならばブログに書いてもいいとの許可をいただきました。

 今から10年ちょっと前のことです。私は都内で開かれていたあるシンポジウムを取材していて、日本で暮らすある韓国人(仮にAさんとします)が、会場で次のように語るのを聞き、ごく何気なく記事の一部で紹介しました。ごく真っ当な発言だなと感じただけで、まさかそれが波紋を呼ぶなどと思いも寄らず。

 《「私は強烈な反日教育を受けた世代で、日本人がどんなにひどいことをしたかという本をたくさん読んだが、『従軍慰安婦』という言葉は聞いたことがなかった。貧困家庭の親が娘を(遊郭などに)売ったという話は少しは聞いたが、強制連行の話などなかった」

 「日本のいわゆる進歩派の人と話すと、あまり勉強しておらず、韓国のことも分かっていない。日本批判のために韓国の反日感情を利用しているだけ。(河野談話などで韓国と政治的な妥協をした)日本政府は法的な正義より、風潮が容認する正義を優先させたのではないか。教科書に慰安婦を記述する気持ちが分からない」》

 そして、記事が出て1週間ぐらいたったころだったか、夜遅く、自宅の電話が鳴りました。だれからかと思ったら、Aさんから相談を受けたという私の知人が、心配そうにこう言いました。

 「産経の記事をきっかけに、Aさんの韓国の実家や、故郷の友人宅が韓国国家安全企画部(現・国家情報院)から嫌がらせの家宅捜索を受けている。別に改めて聞くこともないだろうに、わざわざAさんの友人、知人をしらみつぶしに訪ねてしつこく『Aとはどんな人間か』などと聞いて回っている。どうしたらいいだろうか」

 寝耳に水というのでしょうか。私は、韓国はもう少し民主化された国だと思っていたのですが、自国に少しでも都合の悪い言論、特に日本がらみの言論は簡単に封殺されるようです。私は、「いっそのこと、Aさんがこんな嫌がらせを受けたと記事にしようか」とも提案したのですが、Aさんには韓国で暮らす親類や知人がいるので、記事化することで今度はどんな迫害を受けることになるか分かりません。結局、「しばらく様子をみよう」ということになり、今日に至ります。

 私には、シンポジウムでのAさんの発言はごく常識的に思えますし、韓国政府を批判したものでもありません。ただ、「従軍慰安婦という言葉は聞いたことがない」「(女性の)強制連行もない」と自分の見聞の範囲で話をしているだけなのです。それなのに、国家機関であり、本来は安全保障に関する事象を扱うはずの公安・情報当局からこうした嫌がらせを受けるというのは、どう考えればいいのでしょうか。

 韓国人自身の口から、慰安婦の強制連行などなかったという「事実」の証言が飛び出すことは、国家意思として阻止し、なかったことにしなければならないほど重大な「秘密」だとでも言うのでしょうか。こんな風に一方的な言論しか許容されず、公にされない中での韓国世論とは何なのか、またそれに迎合した日本の政治家とは…と考え込んでしまいます。

 この時点から10年がたち、韓国社会が成熟して、以前のようなことがなくなったかというと、逆だと言います。きょう、数年ぶりに話したAさんは「ここ1、2年で韓国は言論封鎖は強まった。日韓関係について、韓国ではまともな言論はない。日韓関係の実情を知る人は、今はだれも発言できないようになっている。こういう中では、日本に対する客観的認識が生まれてこない」と話していました。

 発言内容がくるくる変わり、信憑性が疑われていても、日本を非難する元慰安婦の証言ならば無条件に持ち上げ、慰安婦問題でごく素朴な疑問を呈しただけの韓国人にはひどい嫌がらせを与える。何かと言うと、すぐ日本に対して「歴史歪曲だ」「妄言だ」と一方的かつ大仰に批判する国がこれです。ノム大統領が交替すれば、少しはこうした状況が改善されるのを期待したいのですが…。

 ※追伸 先月出版した私の本「永田町取材日記 阿比留のブログ」について、上司や関係者から「せっかく本にしてやったんだから、もう少しちゃんと宣伝しろ」と厳しいお達しがありました。そこで、恥ずかしながらもう一度読者のみなさまにお願いします。「どうか溝にカネを捨てるよりはマシか」という寛大なお気持ちで買ってやってください。ご注文は最寄の書店か産経新聞出版☎03-3296-7555、ファクス03-3518-6112まで。どうかよろしくご高配のほどを。


 本日夕、ときどき世相について意見・苦言を寄せてくれる元関東軍参謀、故・草地貞吾氏の妻、三重子さんから慰安婦問題について電話がありました。内容は、慰安婦の実態は、いま言われているような軍の強制連行では断じてなかったということでした。

 私は以前、社会部時代の一時期、集中的にシベリア抑留問題を取材していました。そのころ、旧ソ連から最長コースの約11年半も抑留されたにもかかわらず、共産主義への転向を迫る洗脳工作に一切従わなかった草地氏を知り、何度か取材に応じていただきました。草地氏は残念ながら平成13年に逝去されましたが、以後も小泉前首相の靖国神社参拝などことあるごとに、三重子さんは「主人はこう言っていた」と電話してくれるのです。

 まず、草地氏が亡くなった際に私が書いた追悼記事を再録します。拙く、字数制限から十分に書くべきことを伝えられていませんが、人物紹介としては手っ取り早いもので。まずはお目通し願えると幸いです。

 【葬送】元関東軍参謀 草地貞吾(くさちていご)氏 2001年12月23日  東京朝刊  社会面 
 (22日、東京都新宿区・千日谷会堂)

 「草地さんは天皇陛下の次に偉い」「どうせ年をとるなら、草地さんのように老いたい」

 極寒のシベリアで生死をともにし、復員後も草地氏を慕い集った「宇山会(草地会)」の仲間は、互いにこう話し合った。九十歳を過ぎても背筋はピンと伸び、朗々と響く声で不動の信念を説く姿は若々しかったが、その人生は波瀾(はらん)万丈だった。

 明治三十七年、大分県生まれ。陸軍士官学校、陸軍大学校を卒業し、昭和十八年に満州国(中国東北部)・新京にあった関東軍総司令部参謀(大佐)に。ここで終戦を迎え、以後十一年余、ソ連に抑留された。

 皇室を敬愛し、植民地解放という大東亜戦争の意義を確信する一方、共産革命を肯定しない草地氏に対し、刑期二十五年が言い渡され、独房への投獄や拷問が繰り返された。節を曲げない抵抗は、山崎豊子氏のベストセラー小説「不毛地帯」のモデルの一人ともされる。

 昭和三十一年、五十二歳で帰国するが、夫人と幼い子供二人は満州からの引き揚げ途上に亡くなっていた。三十三年、先妻のめいの三重子夫人(六八)と再婚後、日大文理学部に入学し、中学・高校の教員免許を取得。京都産業大の寮監長、国士舘中学・高校の校長として後進の育成に努めた。

 京産大の教え子の一人、浜野晃吉氏(五四)は「まことの日本人はかくあるべしと教わった」と振り返る。平成三年四月、来日したソ連のゴルバチョフ大統領(当時)と面会した際、「私は君の父親と同じ年齢だ。父として言う。北方領土を返したまえ」と一喝したことも。

 「でも、父親としては温厚で、かわいがってもらいました。年が離れているせいか、好々爺(や)みたいで」と長男の千里さん(四一)。三重子さんも「怒られたことは一度もない。申し分のない夫でした」としのぶ。晩年は家族に「私のなすべきことは終わった」と話していたという。先月十五日、九十七年の天寿を全うした。(阿比留瑠比)

 …私が草地氏の生前、お会いする機会を得た回数と、電話で話をしたことをあわせて計10回にもならないと思いますが、毎回、とても清冽な印象を受けました。信念が背筋に太く鋼鉄のように通っていて、接していてこちらまで身が引き締まる思いでした。

 上の記事でも書いていますが、山崎豊子氏の「不毛地帯」で、ソ連からさまざまな拷問を受けた主人公の描写は、この草地氏の実体験をもとにしています。記事の中にある「草地会」は、現在でも年に1回開かれているそうで、いかに草地氏が周囲から敬愛される人物であったかがうかがえます。

 草地氏は、ソ連側に近く、シベリア抑留の補償を日本政府に求めた故・斎藤六郎・全国抑留者補償協議会会長とは違い、補償を求めるならソ連に求めるべきだという立場でした。そして平成5年7月、斎藤氏はソ連の公文書の中から「ワシレフスキー元帥ニ対スル報告」というものを見つけ、共同通信にリークします。共同は「ソ連軍に捕虜使役を申し出」「関東軍司令部の疑惑裏付け」「シベリア抑留で新事実」という見出しで記事を配信しました。

 要は、シベリア抑留は関東軍が申し出たというストーリーで、当時は新聞、テレビで大きく「やっぱり日本軍はひどい」と取り上げられ」ました。ところが、このワシレフスキー元帥宛ての陳情を書いたのは草地氏で、趣旨は全然違うことが明らかになりました。草地氏が文書で述べていたことは、要約すると「3万人を超える入院患者は冬季までに帰国させてほしい。軍人や希望者は日本人居留民の帰国のために働き、逐次帰国させたい。それまでは石炭採掘などで協力する」というものでした。

 このリークには、シベリア抑留には日本側に責任があるとして、国内で起こしていた裁判を有利に進めたい斎藤氏の思惑があったわけですが、共同通信がそれに乗ったわけです。草地氏は「あの文書は私が書いたものだが、報道されたような意味ではない」と名乗り出ましたが、この程度でマスコミは訂正などしません。私はこの点を5年10月、山形県鶴岡市の全抑協本部を訪れて斎藤氏本人にインタビューして質したたところ、斎藤氏は「草地さんはウソをついてないと思う」という答え方をしました。暗に草地氏の言い分の正しさを認めていたのでしょうね。

 海千山千で、インタビュー中も都合の悪い質問には突然、こちらがうまく聞き取れない鶴岡弁で応じていた斎藤氏にしろ、あくまで真っ直ぐな草地氏は苦手なようでした。草地氏は直接、斎藤氏と対談してシロクロつけたいと申し入れていましたが、斎藤氏は応じませんでしたし。そして草地氏の方は、この報道もあって、「斎藤氏より先には死ねない」と語っていましたが、結局、年下の斎藤氏の方が先に亡くなりました…。

 因みに、私が斎藤氏にインタビューしたときの話を元朝日新聞記者の白井久也氏が斎藤氏から聞いたらしく、著書「ドキュメント シベリア抑留 斎藤六郎の軌跡」の中で取り上げているのですが、私の名前を「瑠以」と間違えて書いています。なんだかなあ。

 …すいません、思いが募って話が脱線しまくりましたが、慰安婦問題に戻ります。草地夫人の三重子氏は、今回の騒動を受けて、いまや高齢化して数少なくなった草地氏の陸軍士官学校同期の夫人や、後輩たちに電話をかけ、何日もかけて慰安婦の実態についてそれぞれが知っていることを聞いて回ったそうです。

 そして、「主人は河野談話が発表されたときに、何というバカなことをと怒っていたけど、だれに聞いても軍が女性を強制連行したなんて話はない。貧しくて親に売られた話は昔はあったけれど、マイク・ホンダ米下院議員なんて許せない」と話していました。首相官邸にも電凸されたとか。

 私も、日本軍がいつも正しく、品行方正に振舞ったなんてまったく思っていませんし、実際に「蛮行」の部類を行った証言も聞いたこともあります。ですが、私たちの父祖が、やってもいない悪行で全世界から批判され、辱められているような現状を放っておくわけにはいかないなと、改めて感じました。

↑このページのトップヘ