本日はあの「人権擁護法案」という名の言論・人権弾圧法案について話し合う自民党の人権問題調査会が約2週間ぶりに開かれました。きょうは何かが決まったというわけではなく、法務省側の説明があり、それに対して質疑や意見表明があったようです。そこで、細かい会合でのやりとりはともかく、第1報として、現場の雰囲気と太田誠一会長のあいさつ、記者団への事後ブリーフなどをまず報告します。きょうは、自民党本部の前で、この法案に反対するみなさんが活動していました。若い人が多いのが目につきました。
何を訴えているかは、垂れ幕などに書いてある通りなので触れませんが、頑張ってほしいものです。私のブログでは、自治労や日教組、革マルなどが国会前にたむろしている写真は何度も掲載してきましたが、こうした逆の立場のみなさんの写真を載せるのは珍しいのです。といって避けているわけではなく、やはり国会周辺はサヨク陣営の方が多数派で目立つということです。このみなさんの声は、自民党議員たちに届いたかどうか…。ただ、多くの何も考えていない議員たちに、「国民はこの問題に関心があるんだ」と分からせる効果があったならば、それだけでも意味があったと思います。
配られていたチラシには、「『人権侵害だ!』との訴えさえあれば、捜査令状もないままに立ち入りと証拠の押収をされる。誰もこの横暴に抵抗できない。警察すら手を出せない。民主主義を支える言論・表現の自由を圧殺する究極の法案、それが人権の名を借りた『人権擁護法案』である」とありました。場所柄、通行人はあまり多くないのですが、何人ぐらいの人が読んでくれたでしょうか。
で、これが党本部701会議室で開催された人権問題調査会会合の様子です。冒頭、太田会長は次のようなあいさつをしました。太田氏のブログは反対意見の書き込みでほぼ炎上状態になっていますが、自民党関係者によれば、「本人は余り気にしていない様子だ。むしろ(人権擁護法案推進派の中心人物の)古賀誠さんや野中広務さんの方が恐ろしいのだろう」ということです。実際どうなのかは分かりませんが、このあいさつを読む限り、まだまだやる気満々ですね。
《今日はまた豪華なお顔ぶれで、出席、ありがとうございます。先々週開きまして、それに対して的確に提案者であります法務省政府側から、最初の出発点にかえってお答えするということで、ちょっと時間がかかりましたけども、今日、開かせていただきました。私も、この法律が提案されるまでの相当期間関わっておりましたので、必然の流れとしてはやっぱり形はちゃんとつけていかないといけない。そういうふうにして、われわれ自身も人権の問題について、自らを律していくという姿勢も必要でありますし、またよその国に対して日本はこうやっているということを胸を張って言えなければいけないということだと思っております。そして中身についてはさまざまなご意見を踏まえてきちんとまたやり直させていただくということであろうと思っております。
特に人権の救済ということから言えば、差別される側、虐待される側というのは弱者の立場でありますし、また自分から声高に自分の権利を主張するということができにくい立場の人たちでありますので、われわれはどちらかというと、差別され、虐待される側に身を置かなかったものでございますから、足を踏んだ方だと。足を踏まれた方の痛みが分からない方なので、そこは余計に手をさしのべていく必要がある。あっせんや調停という手段がとれるように、手当をしておくことが大事だと思っております。結果としてこういう仕組みをつくってもほとんど該当することがないということが望ましいのでございまして、大繁盛するということを期待をしているわけではないわけでございます。よろしくまた、今日はご議論をお願いします。》
…会合中、会場内には記者は入れませんが、出席していた関係者によると、「議論については、法案反対派の圧勝だった」ということです。今回は、法務省が、「現行制度の限界の具体例」というものを出してきました。例えば、「学校による障害者等に対する入学拒否」、「家庭内における(高齢者に対する)暴力、介護の放棄」などですが、これに対して、出席議員側からそれはおかしいという意見が相次いだということです。
前者の入学拒否については文部科学省の問題であるし、後者の高齢者虐待に関しては現在、厚生労働省が議論を重ねており、そもそも素人の法務省に何が分かるのか、というわけです。「法務省は他省庁を無能扱いするのか」という趣旨の意見が多く出たそうですが、法務省側はうまく答えられなかったと言います。また、会合後の記者ブリーフは次のようでした(敬称略)。
《太田:今年に入ってからの二回目の人権問題調査会を行った。法務省の方から前回では質問、ご意見に対して自分たちとしてはこう思っているとか、これまでの経過について説明をしてもらって、またそれに対する質疑をしてもらったところ。法務省からは、なぜ今、人権救済に関する法律を出さなければいけないのかという背景の説明がありました。一つは人権擁護施策推進法という法律があったんですけども、施策推進法で救済に努めるものとする規定がありますので、そのことでずっと積み上げてきたものだという説明がありました。また、現在の法律や現在の人権擁護局の制度ではカバーしきれないさまざまなケースというものについて説明がありました。
法律の各個別のケースについては法律がそれぞれあるものもあるし、ないものもある。しかしながら、等しく言えることは、弱い立場、弱者の立場からすると訴訟を自ら起こすというようなことは特に弱い立場の人たちからは出来にくい。それに対して訴訟の前の調停や斡旋といったことができるようにすべきだと。相当ハードルが高いということで調整、斡旋ができるようにした方がいいと。あるいは、訴訟にするときに、人権擁護機関が援助した方がいいということがあるんで、したがって、それを支援するようなそういう機関が必要であるという説明でありました。
そういう説明に対して、各議員から意見の開陳が行われまして、そういうふうにしていくと過剰な反応が起きることを心配する、特に差別をしたとされるものの人権は守れないというふうな、さまざまな懸念が表明された。
鶴保庸介事務局長:ちょっと補足だけ。最後の、会長がおっしゃった部分で、この法律についての逆差別は、逆差別されたものの人権、差別したと言われている側の人権につながるとの法務省の答弁もあったことを補充しておきたいと思います。
記者:最後に、太田会長から、今後は有識者の意見も聞きながら、という話をされていたようだが
太田:議員だけで話しているんじゃなくて、まあ、こういう場合には、参考人的な人に来てもらって話を聞くということも必要だと。
記者:賛成の人、反対の人、いずれも?
鶴保:まあ、そうですね。賛成とか反対じゃなくて、現場を客観的にできるだけ知ろうと。
記者:今後は何回か有識者の方から話を聞くのか
太田:そう、そう。
記者:だいたい時期的にはどのくらいまでヒアリングをするのか
太田:まとめてやりゃ一回で終わるかもしれませんし。
記者:現場を知っている方とは、例えば人権擁護委員とかか
鶴保:前回はそうやってやりました。平成17年のときはね。まあそれはまた会長と諮って考えたいと思います。
記者:賛成意見と反対意見、それぞれ代表的なものを紹介してください。
鶴保:あの、反対意見は、現行法じゃなぜだめなのかっていうことですね。で、賛成意見は、さっきも言いました、逆差別されているものの人権を守れないじゃないかということです。
記者:何人が賛成意見を言ったのか
鶴保:賛成はそんなに…。賛成!って言ってくれる人なんていませんよ。そんな。法案のたたき台を出してそれについて問題点を拾い上げている段階ですから、問題点を言うということは勢い反対のように聞こえますよね。どうしていくかという話ですから。
記者:今日合意に達した事柄はないか
太田:ありません。
記者:今国会に法案を提出するという方向性は変わらないか
太田:まあ、その、そういうふうに言うとですね、何て言うか、反発をする人がいるので、そういうふうには言わない。
記者:報道関係条項についてはどんな意見があったのか
太田:今日はなかったですね。前回は報道関係条項を外すべきだという意見と、そこだけ外しちゃいけないという意見と両方ありましたけどね。
記者:国籍条項については
太田:今日は国籍条項なかったですね。
鶴保:あの、今日は中身についての議論はしませんでしたから。入り口の議論ばっかりですね。
記者:何回か議論を続けられているが、やはり入り口での反対論が相変わらず…
鶴保:多いですね。だから、今までずっとそれが、ぐちゃぐちゃにね、なってきましたから、だから議論が全然整理されないんですよ。この法案だめだ、人権擁護の制度設計もだめだと、そういう話になっちゃっているわけですよね。それとこれとはまた別で、制度設計しなければいけないという前提があって、じゃあ、どうするんだというその二つだと思いますから。
記者:入り口でずっとごちゃごちゃしてしまっている状況をどういうふうにして打開しよう思っているのか
鶴保:いや、だから、現場の声を聞き、問題点があるんなら、どうやって拾っていこうかと。その問題が本当に今のままでダメなのかどうか、それをちゃんと調べようと。調査会ですから、われわれは。
記者:反対論の人はそれに対して入り口のところで反対すると思う
鶴保:そうですね。まあ、反対論というか問題点の指摘をなさる方の多くは、なぜ現行法じゃだめなんだということを言っておられる。
記者:平行線が続いてしまう可能性がある
鶴保:可能性としてはないことは、ないですけれど、現実にわれわれ党として調査会を置いて、調査しなければいけないと言ってるのは、党の意思ですから、問題がなければ別に調査会を置いてする必要ありませんので。
記者:次回から有識者のヒアリングか
太田:日程とか合わせなくちゃいけない。次回、間に合えば。
記者:次回はいつごろか
太田:来週か、再来週。まあ、ねばり強く…。(了)》
…推進派の鶴保氏が「賛成!って言ってくれる人なんていませんよ」と認めているような状況なのに、それでも粛々と、かつ無理無理にでも話を進めようという意欲が伝わるブリーフだなと感じました。まったく本当にしつこいというか。これだけ反対があるにもかかわらず、自民党内に人権擁護法案を進めたいという動きが根強い背景に関しては、16日のエントリ「真・保守政策研究会で平沼氏が明かした人権擁護法案の裏」と18日のエントリ「人権擁護法案と山崎拓氏の選挙をめぐる『密約』」でいろいろと書いたので、きょうは繰り返しませんが…。
法務省や推進派の議員は、最近は、部落解放同盟などによる糾弾会のようなことをやめさせるためにも、新たな法的枠組みが必要なのだという説明にシフトしてきたとも聞いています。この人権擁護法案の件は、一回のエントリでは書ききれないので次のエントリに続きます。