前エントリの私の「弱音」発言に対し、非常にたくさんの方が理解を示しくれ、また励ましてくれました。心から感謝します。単純なせいか、おかげさまでだいぶ気が楽になってきました。今後、いただいたコメントにどう対応するかは、もう少し考えたいと思います。いろいろな方のアドバイスのように、印象に残ったものや、答える必要性を感じたものに絞るかもしれませんし、これまでのように原則としてすべて返事を書くことにするかもしれません。ちょっとの間、考える猶予をください。というわけなので、とりあえずコメントされる分にはどうぞご自由にお願いします。
ところで、昨夜は高村外相と中国の楊外相とが会談し、日中間の懸案や国際情勢などについて意見を交わしました。本日は、その中で、楊外相のチベットに関する発言に絞って紹介しようと思います。今朝の新聞各紙を見ても断片的な言葉しか載っていないようなので。実際は、記者会見時の楊外相は当初はにこにこしていたのに、話題がチベット問題に及ぶと眉間にしわを寄せ、大演説をぶったのでした。
私はこのブログで、いままでにチベット側(ペマ・ギャルポ氏など)の意見、見方は書いてきましたが、中国政府がどんなことを言っているのかはあまり触れていなかったので、ここで改めて押さえておこうという考えもあります。以下の楊外相の発言は、高村外相との共同記者会見での言葉と、外務省による事後ブリーフでの説明をもとに、私が再構成したものです。
《楊外相 チベットなどで起きた状況について説明したい。これは、中国の内政問題であり、外国は干渉すべきではない。同時に、中国は大きな努力を払い、何度も外国に中国国内のチベットなどで起きた暴力事件について情報を通達した。また、日本を含む外交官やメディアをチベットに招き、調査、インタビューの手配もした。調査によって明らかなように、チベットで起きた重大な暴力はダライ集団による組織的な策動が起こしたものであり、そして国内外のチベット独立派が結託して起こしたものだ。国外で起きたオリンピック精神に反し、国際法と国際ルールに違反した事件については、各国の人々がはっきりと見ている。暴徒による放火は300件以上で市民の死者は18人、負傷者は350人以上で、うち58人が重傷だ。
私たちとダライ集団の矛盾は、民族問題でも宗教問題でも人権問題でもなく、それは中国の統一を守るか分裂させるかだ。私たちのダライ集団への政策は一貫して明確で、対話の扉は開いている。我々はこれまでも最大限のねばり強さをもってダライ集団と接触してきた。もしダライ集団に正義があるなら、実際の方法でそれを示すべきだ。本当の意味で独立を放棄し、暴力犯罪をやめて、オリンピック妨害を停止すればいつでもダライ側と話し合いたいと思う。
チベット独立勢力は、中国の海外にある20近くの大使館、領事館を包囲、襲撃し、世界各国で行われている聖火リレーを暴力をもって破壊した。ダライ側は、中国のオリンピック開催を支持すると言っているが、まさか、聖火リレーを暴力で破壊するような行動で支持するということが、この世にあるのだろうか。
国際社会は世界各国と各国の国民から構成されている。世界の三分の二以上、128カ国の国々は、中国政府が法律に基づいてチベット事件を処理することを支持している。国際世論と、国際世論をコントロールする道具とは、まったく違う概念だ。10人の人が一つの意見を持っていて、別の1人が拡声器で大声で別のことを繰り返した場合、この1人が世論を代表しているわけではない。10人の方が世論を代表しているのだと思う。
イデオロギーや偏見を持たず、公正で正義感を持つ人は、すぐに次のように結論づけることができる。すなわち、ダライ集団は中国を分裂させ、オリンピックを破壊するためにやっていると。中国政府がとった領土の主権と領土を守るための行為を支持すると。》
…楊外相がいう「ダライ集団との矛盾」は、12日に胡錦濤国家主席がオーストラリアのラッド首相に言った言葉と同じですね。これは人権問題ではなく、国家主権の問題だとして、外国の介入を拒否しています。これが中国政府の公式見解となったようです。私は楊外相の演説を聴きながら、ああ、やっぱり5月の胡主席の来日は、中国側の主張の宣伝の場になるのだな、という思いを強くしました。この程度の内容で、世界が納得するとは思いませんが、それにろくに反論できない日本は同じ穴のなんとやらだと思われる懸念がありますね。
外相会談で高村外相は、「人権の観点から国際社会は注目している」と指摘しましたが、相手に人権問題ではないと言われてしまえばそれまでです。また、高村外相は「十分な透明性を確保し、状況の全容を明らかにすることが中国の利益となる」とも述べましたが、これも楊外相側はすでに十分に公開し、通報していると強調しているわけです。高村氏の数倍は中国に配慮する福田首相が、胡主席に対して高村氏以上のことを言える道理がないので、結局、首脳会談で形の上ではチベット問題が取り上げられても、胡氏の「ご高説」を拝聴するだけということになりそうですね。そして、その姿が世界に配信されていくと…。この点については、明日発売のSANKEI EXPRESS「福田政権考」にも関連記事を書いているので、もしよかったらご覧ください(こうやって宣伝しているわけですが、どうせ明日のイザニュースにも載ると思います)。
また、楊外相は26日に長野で行われる聖火リレーについても「日本国民が必ず大いに歓迎し、円満裏に成功することを確信している」とくぎを刺し、警備などの協力を要請していました。例の青服集団については、泉国家公安委員長も町村官房長官も拒否していますが、果たしてどうなるか。
さて、ここで気を取り直してもう一つ報告します。関連して昨日は、自民党の「真・保守政策研究会」(中川昭一会長)が「中国に対する決議」を採択しているので、それを全文を掲載します。各紙の扱いはベタ記事かそれ以下ですが、それではもったいないと思います。決議は、福田首相にも注文をつけていますが、それはまあ無理、だろうなあ。ちなみにこの「真・保守政策研究会」は、「ビビンパの会」改め「ラーの会」の加藤紘一氏が「偏狭なナショナリズム」の象徴としていちゃもんをつけたところです。でも「ラーの会」に、下のような内容のことが少しでも中国に対して言えるかというと、決して言えないでしょうね。
《チベット問題を契機に、いま世界の眼は中国に向けられています。そのチベットで今も進行中の人権弾圧、民族の文化・言語・アイデンティティへの抑圧、あるいはウイグル等の他の小数民族、宗教者、そして弁護士や知識人等への呵責ない取締りと圧迫等々、その人権状況への懸念と憂慮が高まっているからです。
今回のオリンピック誘致に当たり、中国政府は自国内の人権状況の改善を世界に向けて公約しました。にもかかわらず、この公約履行への誠意ある姿勢は未だに見られません。それどころか、むしろ人権状況は悪化の一途とさえいえます。
オリンピック憲章には、オリンピックの目的として「人間の尊厳を保つことに重きを置く平和な社会の確立を奨励すること」との一項があります。しかし現在、世界の人々の眼に共通に映じている中国の姿は、残念ながらその対極にあるというべきではないでしょうか。
問題は人間の尊厳だけではありません。われわれは中国のここ数年における異常な軍事力増強にも重大な憂慮の念を抱きます。その増強ペース、内容の不透明性等、それはどう考えても「平和な社会の確立」とは無縁であるからです。
と同時に、東シナ海におけるガス田開発の推進、先般の冷凍餃子問題に対する当局の不誠実な対応…等々、このような中国の姿勢に対する日本国民の疑念や不信もいや増しに高まっています。
いま世界の各都市では、オリンピック聖火リレーへの激しい抗議の声が巻き起こっています。また、各国首脳のオリンピック開会式への欠席表明も相次いでいます。われわれはこうした中で、日本国民もまた中国政府に対する重大な懸念と憂慮の念を明確に表明すべきであると考えます。「人間の尊重」に重きを置く「平和な社会」の確立は、われわれが切に希求する目標でもあるからです。
以下、声明します。
一、中国政府は現在チベットで進行中の人権弾圧を即刻停止し、メディアの自由な現地取材と国際機関による調査を受け入れるとともに、ダライ・ラマとの事態打開への対話を速やかに開始すべきである。
一、福田首相は胡錦濤国家主席とのきたるべき首脳会談にあたり、以上の世界とわが国民の中国に対する懸念と憂慮の思いを正確に伝え、毅然たる姿勢をもってとりわけ日中間の懸案打開への中国政府の対応を求めるべきである。》
…先日、外務省近くの路上で、著名な某外交評論家とばったり会って立ち話をした際、この人は「今の外交はつまらないね」と一言つぶやきました。そして、福田首相をはじめとする親中派の政治家たちについて、「そうなるのは、普通はカネか女か、その両方かしかないんだが…福田さんは官房長官時代の訪中がなぜだか分からない。ふつう官房長官は外遊しないものだが」などと不得要領な様子で何やらつぶやいて去っていきました。私も何がなんだかよく分からないまま職場へと戻りました。