2008年04月


 前エントリの私の「弱音」発言に対し、非常にたくさんの方が理解を示しくれ、また励ましてくれました。心から感謝します。単純なせいか、おかげさまでだいぶ気が楽になってきました。今後、いただいたコメントにどう対応するかは、もう少し考えたいと思います。いろいろな方のアドバイスのように、印象に残ったものや、答える必要性を感じたものに絞るかもしれませんし、これまでのように原則としてすべて返事を書くことにするかもしれません。ちょっとの間、考える猶予をください。というわけなので、とりあえずコメントされる分にはどうぞご自由にお願いします。

 ところで、昨夜は高村外相と中国の楊外相とが会談し、日中間の懸案や国際情勢などについて意見を交わしました。本日は、その中で、楊外相のチベットに関する発言に絞って紹介しようと思います。今朝の新聞各紙を見ても断片的な言葉しか載っていないようなので。実際は、記者会見時の楊外相は当初はにこにこしていたのに、話題がチベット問題に及ぶと眉間にしわを寄せ、大演説をぶったのでした。

 私はこのブログで、いままでにチベット側(ペマ・ギャルポ氏など)の意見、見方は書いてきましたが、中国政府がどんなことを言っているのかはあまり触れていなかったので、ここで改めて押さえておこうという考えもあります。以下の楊外相の発言は、高村外相との共同記者会見での言葉と、外務省による事後ブリーフでの説明をもとに、私が再構成したものです。

 楊外相 チベットなどで起きた状況について説明したい。これは、中国の内政問題であり、外国は干渉すべきではない。同時に、中国は大きな努力を払い、何度も外国に中国国内のチベットなどで起きた暴力事件について情報を通達した。また、日本を含む外交官やメディアをチベットに招き、調査、インタビューの手配もした。調査によって明らかなように、チベットで起きた重大な暴力はダライ集団による組織的な策動が起こしたものであり、そして国内外のチベット独立派が結託して起こしたものだ。国外で起きたオリンピック精神に反し、国際法と国際ルールに違反した事件については、各国の人々がはっきりと見ている。暴徒による放火は300件以上で市民の死者は18人、負傷者は350人以上で、うち58人が重傷だ。
 私たちとダライ集団の矛盾は、民族問題でも宗教問題でも人権問題でもなく、それは中国の統一を守るか分裂させるかだ。私たちのダライ集団への政策は一貫して明確で、対話の扉は開いている。我々はこれまでも最大限のねばり強さをもってダライ集団と接触してきた。もしダライ集団に正義があるなら、実際の方法でそれを示すべきだ。本当の意味で独立を放棄し、暴力犯罪をやめて、オリンピック妨害を停止すればいつでもダライ側と話し合いたいと思う。
 チベット独立勢力は、中国の海外にある20近くの大使館、領事館を包囲、襲撃し、世界各国で行われている聖火リレーを暴力をもって破壊した。ダライ側は、中国のオリンピック開催を支持すると言っているが、まさか、聖火リレーを暴力で破壊するような行動で支持するということが、この世にあるのだろうか。
 国際社会は世界各国と各国の国民から構成されている。世界の三分の二以上、128カ国の国々は、中国政府が法律に基づいてチベット事件を処理することを支持している。国際世論と、国際世論をコントロールする道具とは、まったく違う概念だ。10人の人が一つの意見を持っていて、別の1人が拡声器で大声で別のことを繰り返した場合、この1人が世論を代表しているわけではない。10人の方が世論を代表しているのだと思う。
 イデオロギーや偏見を持たず、公正で正義感を持つ人は、すぐに次のように結論づけることができる。すなわち、ダライ集団は中国を分裂させ、オリンピックを破壊するためにやっていると。中国政府がとった領土の主権と領土を守るための行為を支持すると。》

 …楊外相がいう「ダライ集団との矛盾」は、12日に胡錦濤国家主席がオーストラリアのラッド首相に言った言葉と同じですね。これは人権問題ではなく、国家主権の問題だとして、外国の介入を拒否しています。これが中国政府の公式見解となったようです。私は楊外相の演説を聴きながら、ああ、やっぱり5月の胡主席の来日は、中国側の主張の宣伝の場になるのだな、という思いを強くしました。この程度の内容で、世界が納得するとは思いませんが、それにろくに反論できない日本は同じ穴のなんとやらだと思われる懸念がありますね。

 外相会談で高村外相は、「人権の観点から国際社会は注目している」と指摘しましたが、相手に人権問題ではないと言われてしまえばそれまでです。また、高村外相は「十分な透明性を確保し、状況の全容を明らかにすることが中国の利益となる」とも述べましたが、これも楊外相側はすでに十分に公開し、通報していると強調しているわけです。高村氏の数倍は中国に配慮する福田首相が、胡主席に対して高村氏以上のことを言える道理がないので、結局、首脳会談で形の上ではチベット問題が取り上げられても、胡氏の「ご高説」を拝聴するだけということになりそうですね。そして、その姿が世界に配信されていくと…。この点については、明日発売のSANKEI EXPRESS「福田政権考」にも関連記事を書いているので、もしよかったらご覧ください(こうやって宣伝しているわけですが、どうせ明日のイザニュースにも載ると思います)。

 また、楊外相は26日に長野で行われる聖火リレーについても「日本国民が必ず大いに歓迎し、円満裏に成功することを確信している」とくぎを刺し、警備などの協力を要請していました。例の青服集団については、泉国家公安委員長も町村官房長官も拒否していますが、果たしてどうなるか。

 さて、ここで気を取り直してもう一つ報告します。関連して昨日は、自民党の「真・保守政策研究会」(中川昭一会長)が「中国に対する決議」を採択しているので、それを全文を掲載します。各紙の扱いはベタ記事かそれ以下ですが、それではもったいないと思います。決議は、福田首相にも注文をつけていますが、それはまあ無理、だろうなあ。ちなみにこの「真・保守政策研究会」は、「ビビンパの会」改め「ラーの会」の加藤紘一氏が「偏狭なナショナリズム」の象徴としていちゃもんをつけたところです。でも「ラーの会」に、下のような内容のことが少しでも中国に対して言えるかというと、決して言えないでしょうね。

 《チベット問題を契機に、いま世界の眼は中国に向けられています。そのチベットで今も進行中の人権弾圧、民族の文化・言語・アイデンティティへの抑圧、あるいはウイグル等の他の小数民族、宗教者、そして弁護士や知識人等への呵責ない取締りと圧迫等々、その人権状況への懸念と憂慮が高まっているからです。
 今回のオリンピック誘致に当たり、中国政府は自国内の人権状況の改善を世界に向けて公約しました。にもかかわらず、この公約履行への誠意ある姿勢は未だに見られません。それどころか、むしろ人権状況は悪化の一途とさえいえます。
 オリンピック憲章には、オリンピックの目的として「人間の尊厳を保つことに重きを置く平和な社会の確立を奨励すること」との一項があります。しかし現在、世界の人々の眼に共通に映じている中国の姿は、残念ながらその対極にあるというべきではないでしょうか。
 問題は人間の尊厳だけではありません。われわれは中国のここ数年における異常な軍事力増強にも重大な憂慮の念を抱きます。その増強ペース、内容の不透明性等、それはどう考えても「平和な社会の確立」とは無縁であるからです。
 と同時に、東シナ海におけるガス田開発の推進、先般の冷凍餃子問題に対する当局の不誠実な対応…等々、このような中国の姿勢に対する日本国民の疑念や不信もいや増しに高まっています。
 いま世界の各都市では、オリンピック聖火リレーへの激しい抗議の声が巻き起こっています。また、各国首脳のオリンピック開会式への欠席表明も相次いでいます。われわれはこうした中で、日本国民もまた中国政府に対する重大な懸念と憂慮の念を明確に表明すべきであると考えます。「人間の尊重」に重きを置く「平和な社会」の確立は、われわれが切に希求する目標でもあるからです。
 以下、声明します。

 一、中国政府は現在チベットで進行中の人権弾圧を即刻停止し、メディアの自由な現地取材と国際機関による調査を受け入れるとともに、ダライ・ラマとの事態打開への対話を速やかに開始すべきである。
 一、福田首相は胡錦濤国家主席とのきたるべき首脳会談にあたり、以上の世界とわが国民の中国に対する懸念と憂慮の思いを正確に伝え、毅然たる姿勢をもってとりわけ日中間の懸案打開への中国政府の対応を求めるべきである
。》

 …先日、外務省近くの路上で、著名な某外交評論家とばったり会って立ち話をした際、この人は「今の外交はつまらないね」と一言つぶやきました。そして、福田首相をはじめとする親中派の政治家たちについて、「そうなるのは、普通はカネか女か、その両方かしかないんだが…福田さんは官房長官時代の訪中がなぜだか分からない。ふつう官房長官は外遊しないものだが」などと不得要領な様子で何やらつぶやいて去っていきました。私も何がなんだかよく分からないまま職場へと戻りました。


 このブログを始めて1年と11カ月近くがたち、訪問者もかなり増えてきたのは本当にありがたいのですが、私自身の能力と見識の不足から、最近、少し対応が難しくなってきました。たくさんのコメントをいただくことにはとても感謝しているのですが、実にいろいろな疑問の提示や質問、取材依頼が寄せられ、以前尋ねられたことにまだ答えていなのに次の宿題を背負うという形になってきました。新聞記者とは言え、何かを調べる際に文献にあたったり、専門家の話を聞く手間は、別の職業の人がそれをするのとあまり変わらないと思うのです。

 もとより、私が書いたことや、私が書いたことを通じて浮かんだ疑問点、また「それは違うのではないか」と感じたことについてコメントされることは当然なのですが、それを受ける私の方の処理能力が少し、オーバーヒート状態になっています。一つひとつのコメントについて、一体どこから説き起こして説明すればいいのか、あるいはどういう意図で書き込まれているのか、私に何を求めているのだろうかと考えているうちに、筆が進まなくなってしまいました。新聞紙面より少し気楽に、というコンセプトで過激なことや、独断と偏見に基づく見解も披露してきたのですが、その一つひとつの責任を追及されると、確かに自分でも行き詰まりを感じる部分があります。

 双方向型の情報空間を目指すべきイザにあって、何をそんな最初から分かり切っているような弱音を吐くんだと言われればそれまでなのですが、どうにもこうにも、粗末な頭がいっこうにクリアになってくれず、書きたいことがうまくまとまらなくなってしまいました。また、本業の仕事の方が少し忙しいのと、そっちでも当然のことながら、日々強いプレッシャーや徒労感を覚えていることもあり、ここしばらく更新ができませんでした。

 今までは、少々コメント欄で批判されても、あるいはだれか知らない人のブログで誹謗されても誤解に基づくことを書かれても、まあいいやと受け流してきたのですが、どうもちょっと疲れているようです。書きたいことがないわけではないのですが…。ここのところ、エントリが滞っているのはそういう事情ですので、あしからずご了承ください。と言いつつ、明日になったら元気にエントリを更新しているかもしれませんし、あるいはそこでは政治や社会現象と関係のないことを書いているかもしれませんが、そういういい加減な人間でよければまたおつきあいください。


 福田首相が12日、東京・新宿御苑で開いた「桜を見る会」で行った「物価上昇はしょうがない」発言が波紋を呼んでいるようです。イザの記者ブログでも片山編集長がすでに取り上げていますし、民主党の鳩山幹事長は夕刊フジの取材に対し、「許し難い」と述べて怒りを表したそうですが、福田氏の他人事発言は今に始まったことではありませんね。

 この物価に対する福田氏の発言ぶりに関しては、3月2日のエントリ「福田首相のぶらさがりインタビューを振り返りうんざりする」でも、2月15日の記者団とのやりとりを紹介していますので、それを再掲します。このときは「しょうがない」ではなく、「やむをえない」と語っています。福田氏の姿勢は何も変わっていないということでしょう。

 《記者 今年4月以降の輸入小麦の売渡価格が、30%引き上げられることになりました。先ほど総理と会談した自民党の谷津義男さんは、値上げに強い危機感を示しましたが、総理、政府としてどのような対策を講じていくお考えでしょうか。

 福田氏
 この輸入価格、これは、あのー、小麦のね、そのー、産地の輸出価格が値上がりしているんですね。ですから、輸入価格が上がるのは、まっ、やむをえないんですよね、えー、ですからその、コストアップがですね、値上がりが、まっ、製品価格、国内の製品価格ですね、食料品価格に、まー、反映してくるわけだけど、これが例えば、そのー、便乗値上げとかね、そういったようなことになってはいけないんで、それはしっかりと監視していかなければいけないと、思います。》


 で、次が今回の桜を見る会でのあいさつ全文です。何かの参考にしてください。あいかわらず、国民生活のことなんて本当は何も分かっていないことがうかがえます。私は以前から、一国のリーダーたる首相は庶民感覚よりも国際感覚が必要であり、目先のことより将来を見据えた政策をこそ実行していくべきだとの考えを表明してきましたが、福田氏の場合、そういうレベルですらない。果たして何を考えているのか何も考えていないのか。

 《みなさま、きょうは桜を見る会に日本全国からお集まりいただきまして大変ありがとうございました。ご苦労さまでございます。また外国からもお客様おいででございますが、すべての皆様方に、きょうこのようにいいお天気でお迎えすることができて私もうれしく思っております。きょうは本当にみなさまがたをお待ちかねしていたかのごとく八重桜も満開でしてね、これは本当によい日になったと思っております。

毎年いいわけじゃないんですよ。今年はね、特別にいい。まあ皆様方がね、素晴らしいからよかったのかなーと思っておりまして、私も本当に心から皆様方の御礼を申し上げたい。きょうはどうぞ一日ゆっくりとお過ごしいただきたい。(総理の目の前にいたカメラマンが三脚から転倒し)危ない気を付けてください。ハハハ。

まあ、あのう、きょうは野暮なことは申しません。政治のことは申し上げないことにした。政治のことを申し上げると心配するといかんから。だけどね、今日のお天気のように、これから日本をしっかりとさせなければいけない。その基礎固めをいま一生懸命やっています。ですからね、いろいろな問題ありますけれども、そういうのをきれいにしたいなー。そしてこんな桜ばっかりのような日本にしたい、と思っています。その中でも政治と行政と、この辺をしっかりするのが私の役割だろうと思っています。

私もいたずらに年をとったわけじゃないんですよ。それはいろいろ経験を積んでおりますし、またそういうことをする、それにふさわしい年齢と申しますか、そういう風にも思っております。ですから、しっかりそれをやりますから、どうぞひとつ先は明るいんだと思っていただきたいと思います。

 まあ、そりゃいろいろありますよ、そりゃね。物価が上がるとかね、といったようなことありますけれども、これはしょうがないことはしょうがないんで、これは耐えて工夫して、そしてそれを切り抜けていくことが大事。まあ、これ以上のことはもうしませんけれども、みなさまがたのお幸せを申し上げ、私も元気一杯はりきって仕事をさしていただくことを、皆様方に申しあげまして、ごあいさつにかえさせていただく次第でございます。きょうはゆっくりお楽しみください。ありがとうございます
 
 福田氏は、ただ馬齢を重ねていたわけではないと自らの「年の功」を強調していますが、本当でしょうか。つい疑いのまなざしを向けてしまいます。また、福田氏はやる気満々というか元気いっぱいというか、まだまだ首相を続ける意欲に満ちているように感じられますね。それにしても、この福田氏の「それは」「そういうこと」「それにふさわしい」「そういう風に」「それをやりますから」…って一体何なんでしょうか。誰か明確に分かる人がいたら教えてください。これで「先は明るい」と思えと言われても説得力が感じられません…。

 それできょう、自民党の某ベテラン秘書と話をしていたら、彼は「森元首相や青木前参院議員会長は、自分たちが福田さんを担いだ側だから口には出さないけど、福田さんではもうダメだと分かっている。下手にそれを言えば、自分達の責任も問われるから言わないけれど。福田さんで次期衆院選が戦えるなんて思っている議員はいないよ」と言っていました。そりゃそうだよなあ、と思った次第です。この秘書さんは、「福田さんもサミットまでは何がなんでもやるんだろうけど…」とも話し、その後はどういう展開になってもおかしくないという見方を示しました。自民党総裁選は当然、衆院選の前にあるだろうと。

 5月6日には、中国の胡錦濤国家主席が訪日します。日本にとって重大な中国製ギョーザ中毒事件も、東シナ海のガス田問題も何も解決しないまま、福田首相は胡氏を迎えて満面の笑みをふりまき、歓迎の言葉を口にするのでしょう。一方、チベット騒乱の件ですでにダライ・ラマ法王を「国家分裂主義者」と非難する方向に舵を切った胡氏は、日本での福田首相との会談も、自国の主張を声高に訴える場として利用するでしょう。福田氏がそれに明確に反論することなどありえないのはもう周知の話でしょう。そうして日本は、世界から人権弾圧国家、中国の良き理解者ないし親しい子分としてより深く認知されていくことでしょう。

 対中関係について福田氏は、外務省側の振り付けなど受け付けず、自分の考えだけに従って国会でチベット問題で中国を擁護する答弁をしたり、記者団の質問に答えたりしているという話は以前も触れました。現在、外務省の藪中三十二次官が訪中しており、中国外務省の王毅次官と会談して中国に厳しい日本国民の見方などを伝えているとみられますが、福田氏は王毅氏と親しく、場合によっては外務省を通さず、直接、話し合いなどをしている可能性があります。日本の外交官には話さないような本音ベースで、親密な会話をしているのかもしれません。

 もし福田氏が、正式な外務省ルートで相手に伝えた内容、見方とはまったく異なる感触を、中国側に与えていたとしたらどうでしょうか。また、外務官僚が中国側当局と詰めた話を、自分のパイプを通じた中国要人との非公式なやりとりで頭越しにひっくり返したらどうなるでしょうか。外務官僚としても、首相がそういうことをやりかねないと知っているだけに、実にやりにくいことだろうと思います。前述のベテラン秘書は「福田さんは、自分では外交が上手いと信じているもんだから始末に悪い」とも言っていましたが…。

 きょうの夕刊フジ一面には、何とも言えない毒特の、もとい独特の笑みを浮かべた福田氏の写真が載っていて、写真説明には「『桜を見る会』で女性タレントの眞鍋かをり、ギャル曽根、菊川怜に囲まれご満悦の福田首相。退陣への花道といったところか」とありました。7月のサミット花道論は以前からありましたが、もっと早く何でもいいから花道を見つけ、さっさと身を退いてくれないものかと、一国民として本当に心からそう願います。

     


 今月は17日に中国の楊外相が来日するほか、20日には韓国の李明博大統領も日本にやってきます。さらにゴールデンウィーク最終日の5月6日には胡錦濤国家主席もくる予定なので、外務省担当記者としては気が抜けない日々が続きます。…と言いつつ、相変わらず毎晩のようにビールを浴びてマイペースにやっているのですが、まあ、それはともかく。きょう、政府はチベット騒乱をめぐる福田首相や政府高官の答弁について、こんな答弁書を閣議決定しました。

 「各国首脳と比べて消極的な見解とは認識していない」

 で、あるか。私はこれまでこのブログでも、中国に配慮と遠慮の限りを尽くし、異様にすら思える福田氏の言動を何度か紹介してきましたので、この答弁書には思わず笑ってしまいました。どの口がこんなことを言うのだ、という気分です。福田氏は2日の夜にも、北京五輪の開会式をボイコットするよう求める声が高まっていることについて、こう語っていました。

 「中国政府も努力をしている最中に、五輪に参加しないとか言うべきではない。日本と中国は近い関係にあるのだから、冷静に判断しないといけない」

 一方、フランスのサルコジ大統領はこれまでに、自分が北京五輪に出席する条件として「中国とダライ・ラマ14世との対話再開」を挙げていますね。また、欧州連合のバローゾ委員長は、中国に人権尊重を要求し、強硬なデモ弾圧自制やチベットとの対話を求める考えを表明しています。欧州議会は、EU加盟国首脳の北京五輪開会式への不参加を検討すべきだとする決議案を圧倒的多数で採択しています。これらに比べ、福田氏が「消極的」でないとしたら、何なんでしょうか。いやはやなんとも、苦しい答弁書でした。

 さて、話を表題に戻します。先日、ある外務官僚と話していたら、あの失礼ながら「日本にとっては史上最低の韓国大統領」と言われ、政権内部が親北勢力に完全に乗っ取られているとも指摘された盧武鉉前大統領には、実は日本社会を前進させた大きな功績があると言うのです。それは何か聞くと、彼はこんなことを語りました。

 「韓国の盧武鉉と中国の江沢民のあの極端な反日的言動のおかげで、日本社会にも外務省内にもあった韓国や中国への過剰な配慮がなくなった。もう中韓に不必要に遠慮する必要はないということになった」

 例えばかつては、日本が国連安保理の非常任理事国へ立候補しようという際に、ある年は韓国、その次の年はインドも名乗りを上げようとしていたとしたら、日本政府は韓国は避けてインドとぶつかることを選択したと言います。もし日本が選ばれたら韓国に悪いから…というある意味相手をバカにしているようにも感じる極端な配慮ですね。でも、わけの分からない観念と被害妄想に凝り固まって不思議な言動を取り続けた盧武鉉氏の功績によって、外務省内でも「もう韓国を特別扱いすることはない」というコンセンサスが固まったというのです。

 そういえば、世論調査で「中国に親しみを感じる」と回答する人は年々減っていますし、昔は中国を語るときには必ずついてまわった「同文同種」「一衣帯水」といった感傷的で、実は実態にそぐわない言葉や、一時期は政治家がなんとかの一つ覚えみたいに口にした「日中友好」の四文字は、江沢民氏のおかげでこのところはあまり耳にしなくなりましたね。日中関係に関しては、まだまだ中華帝国の朝貢国でありたいという人たちの勢力、影響力は強いものがありますが。

 この盧武鉉氏のエキセントリックな言動については、私も以前から「韓国の軍人と意見交換したら、『トップの気が狂ってしまったのでどうしようもない』と話していた」(防衛省制服組)などという話や、「韓国の外交官は酔っぱらうと大統領の悪口がものすごい」(外務省関係者)といったエピソードをたびたび耳にしていました。盧武鉉氏は、各国首脳ももてあましていたようで、こんなことも聞きました。

 2006年11月に、ベトナムのハノイでアジア太平洋経済協力会議(APEC)が開催されたときのことです。このとき、韓国側は、日本の安倍首相(当時)と米国のブッシュ大統領との3カ国首脳会談をもちたいと申し入れてきました。韓国側は張り切って、1時間半の枠で会談したいと言ってきたそうですが、日本はまた延々と歴史問題で盧武鉉氏の演説を聴かされるのは勘弁と「45分間なら」と返事をしたとのことです。ところがこれに対し、米国は「30分でいいだろ」とさらに短くしてOKしたのでした。で、3カ国首脳会談の前には日米2カ国による首脳会談があったわけですが、その際、ブッシュ氏が安倍氏に語った言葉がこうでした。

 「ミスター・アベ、面倒だからノムヒョンとは朝鮮半島の話はしないでおこう」

 韓国の大統領と会うのに、朝鮮半島の話はしないというのもなんと言っていいのか、盧武鉉氏がいかに相手にされていなかったかがうかがえると思います。そして3カ国会談の場では、主に安倍氏とブッシュ氏が会話し、実際に朝鮮半島の話は出なかったと言います。で、途中で業を煮やした盧武鉉氏がまたぞろ歴史問題のことを熱く語り出すと、ブッシュ氏はそれをさえぎり、「次の日程があるから」と会談を打ち切ってしまったそうです。

 いかに韓国がアジアの大国となろうと、トップがこれではなかなか、本当の意味で大国扱いされることは難しかったでしょう。しかし、日本ももはやお隣の国のことを笑っている場合では全くありませんね。このエントリの冒頭に書いたように、日本はまともな対外発信もできず、それが問題であることも理解できない首相と、時代遅れにも親中一筋を貫く議員たちを戴いているのですから。日本が世界各国から中国の属国として軽視される日の来ないことを祈ります。

   

 雨が上がると、途端に新緑がまぶしく目に飛び込んできました。これからいい季節を迎えますね。春の日を楽しみたいと思います。(写真は外務省脇の坂道です。)


 本日、千葉県成田市のホテルで、安倍前首相の昭恵夫人が、ダライ・ラマ14世と面会し、安倍氏のメッセージを伝えました。ダライ・ラマ氏とどのような会話をしたかは、新聞記事の方で詳しく書いたので、ここで同じことは書きません。じきにイザニュースでもアップされることと思いますし。ただ、昭恵さんにダライ・ラマ氏と会った感想を聞いたところ、「穏やかな感じで、威張ったところが一つもなく、とても温かく迎えてくれました」ということでした。面会の雰囲気が良かったことは、下の写真(これは私が撮影したものではなく、提供を受けたものです。)からも伝わってきますね。

   

 昭恵さんはもともと、ダライ・ラマ氏の亡命先のインドに行って面会を要請しようと考えていたそうですが、ダライ・ラマ氏の方が来日することになったので、急遽、この日に会うことになったとのことでした。今年に入り、チベット問題に強い関心を持つようになったところで、先月のチベット騒乱が起きたということだったそうです。

 これに対し、政府側は「特段理由はないが、政府関係者が面会する予定はない」(町村信孝官房長官)という相変わらず中国への配慮を優先させています。木村仁外務副大臣の記者会見では、昭恵夫人とダライ・ラマ氏の面会について次のようなやりとりがありました。一体、何を脅えているのだか。親中派の福田首相の機嫌を損ねたくないだけなのか。

 《記者 この面会に政府としてどう考えるか

 木村氏 私どもから、ダライ・ラマ氏の日程についてコメントすることは控えさせてもらいたい

 記者 ダライ・ラマ氏の日程というより、昭恵夫人が面会したことについて

 木村氏 お会いになったということについて私どもは承知していない

 記者 …それは会ったかどうか知らないということか

 木村氏 コメントできないということです。》

 ただ、政府全体の名誉のために付け加えておくと、私が昭恵さんのダライ・ラマ氏との面会について話した複数の外務官僚は「非常によかった」と評価していました。また、福田氏の異様なまでの中国べったりの言動に対し、私に「もっとばんばん書いてたたいてください。このままじゃ日本は世界から、中国市場に目がくらんで人権を無視している国だと思われる」と言ってきた外務省職員もいます。政府全体が福田氏の「お友達外交」路線をよしとしているわけではないのです。

 また、ある政府関係者からは「昭恵さんがダライ・ラマ氏がいるホテルに入ったのを、わざわざ中国大使館に通報した日本人記者がいる」という話も聞きました。中国側からそう聞いたというのです。一体何のつもりか分かりませんが、特定アジアに「ご注進」に走るメディアがあるのは以前から変わりません。私が繰り返し、「日本の敵は日本人」ではないかと書いてきた所以です。

 あと、きょうダライ・ラマ氏に面会した著名人はだれかと調べると、何と例の人権擁護法案を推進する自民党の太田誠一人権問題調査会長が出てきました。「これまでチベット問題には全然詳しくなかった」(周辺)という太田氏が、なにゆえにダライ・ラマ氏との面会を望んだのか。穿ちすぎかもしれませんが、人権擁護法案の件で保守派から大きな批判を浴びているので、ここは一つ、保守派に「見直した」と言わせようと考えたのかもしれません。もっと純粋な動機だったらすいません。

   

 今朝、町で見かけた桜は、花が落ちたあとに雨をはらんで、しっとりとした風情を見せていました。桜の写真シリーズもそろそろ限界のようです。

   

 季節はどんどん移ろい、花の世界も主役交代という感じでしょうか。政治の世界でも、早く与野党のトップが交代してくれないものかと、花を愛でていてもついそんな俗なことを考えてしまいます。職業病でしょうか。

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