2008年11月

 

 えー、本日は3週間ぶりの読書シリーズとなります。今回は比較的に豊作でして、紹介する作品は個人的にはどれも面白かったと言えるものです。通勤・帰宅途上の電車内で読み、きりのいいところまで読みたくて歩きながら読み続けたということもありました(マナーとしてはいかがなものか、ですが)。まずは、服部真澄氏の新刊からです。

 

     

 

 待ちに待った「清談 佛々堂先生」の第2作です。この人の作品では、1995年の「龍の契り」、97年の「鷲の驕り」など、国際的なミステリーが有名ですし、私も面白く読んだのですが、好みで言えばこっちの方がいいですね。平成の魯山人と呼ばれる風流人の主人公が、古びたワンボックス・カーで西に東へと飛び回り、一期一会の「夢まぼろし」を紡ぐというもので、読後感はとても爽やかです。

 

 次は映画化もされた「チーム・バチスタの栄光」シリーズのいわゆる医療ものです。作者は現役の勤務医だそうで、医療現場のさまざまな問題点、厚生労働省の医療行政のおかしさが、これでもかというぐらいに掘り下げられています。

 

     

 

 実は、刊行された順番を逆にして「イノセント・ゲリラ」を先に読み、次に「螺鈿迷宮」を読んでしまいました。まあ、それでそれほど困ることはありませんでしたが、やはりちょっと…。司法と医療などテーマはとても重いものですが、しっかりエンターテインメントとして仕立てられ、作者の力量がうかがえます。ただ、お気に入りキャラの医療過誤死関連中立的第三者機関設置推進準備室室長、白鳥圭輔のロジカルモンスターぶりがちょっと影を潜め、なんだかまともな人になってきたのが気になりました。でも、次作がとても楽しみです。

 

     

 

 これは、前回紹介した作品の続きなので、解説は省きますが、明治時代の柔道の黎明期がいきいきと描かれ、「肉体的な強さ」をどこまでも追求する群像の姿が、鮮明に浮かび上がってきます。帯の言葉通り「面白い、面白すぎる」ですね、これは。夢枕ワールド全開です。

 

     

 

 誉田哲也氏の作品では、以前に「武士道シックスティーン」「武士道セブンティーン」の2作を紹介しましたが、これもタイプの異なる対照的な2人の女性が主人公という点が共通しています。お薦めです。ただ、中央公論新社のノベルスは、あまり書店の取り扱いがないのか、「ジウ」も続編(ジウ2、ジウ3)が出ているのに、なかなか見つけられません。まあ、楽しみを後にとっておくのもいいものですが。

 

     

 

 大好きな時代小説のシリーズ第5弾です。諸田玲子氏の作品の中では、この「お鳥見女房」シリーズが一番好きかもしれません。下級武士の哀感を描いてしみじみとした味わいがあり、ほっとさせられます。

 

     

 

 これまたお気に入りの作家、佐藤雅美氏の人気シリーズ「半次捕物控」の最新刊ですが、こっちは何作目か分かりません。帯にも「人気シリーズ最新刊」としか書いてありませんし、講談社も少し不親切ですね。佐藤氏の作品はいつも納得させられるというか、人の世の常識というか、落としどころがきちんと押さえられているように感じます。

 

 さて、最後に紹介するのは初めて読んだ浜田文人氏の文庫書き下ろしで、帯の「高村薫の合田刑事、大沢在昌の鮫島刑事に匹敵する名主人公の登場!!」というコピーに惹かれました。

 

     

 

 「捌き屋」(企業交渉人)というキャラ設定が珍しく、興味深いですね。作者は元麻雀プロだとのことですが、はい、素直に面白かったです。これもシリーズとして続きそうなので、次巻が出るのが楽しみです。この人の他の作品も読んでみようという気にさせられました。

 

 で、今回は「おまけ」というか「番外編」というのか、漫画も一つ紹介しようと思います。「とめはねっ!」といい、高校の書道部を舞台にした「書道漫画」という、ちょっと普通はありえない設定なのですが、これが実に面白い。帯で評論家の宮崎哲也氏が「なんなんだ!?このたぎる血潮は」と述べていますが、実に熱く楽しい作品です。

 

     

 

 昨日、最新刊(4巻)が出ているのに気付いた買いました。日本の漫画の裾野は広いと改めて感じている次第です。

 

 またもや風邪でダウン(喉が痛い)しかけたり、処理しなければいけない締め切り間際の原稿を複数抱えていたり、パソコンがウイルスに感染したり、周囲に不幸があったりで、ちょっとエントリの更新が滞っていました。そんなこんなで、国籍法改正をめぐる新しい動きについて報告できませんでした。いやもう、本当にそんな余裕がなくて。

 

 で、少し前後のことを振り返りながら書くと、当初は27日に参院法務委員会で採決、28日の参院本会議で可決・成立する見込みだった国籍法は、国民の反響に驚いた参院の自民、民主両党がそれぞれ慎重姿勢に転じたので、とりあえず見送られました。今後の日程は、1日の法務委理事懇談会で決められる予定ですが、早ければ2日に委員会採決、3日に成立ということもありますし、場合によってはそれも「なし」になるかもしれません。

 

 これに関連し、民主党の直嶋正行政調会長は26日夕の記者会見で次のように述べました。国会の会期が延長となったので、当初の自民・民主両党の合意だった「30日の会期末までの成立」の先延ばしがしやすくなりましたね。

 

「いろんな方から陳情等を受けているようでありまして、民主党の方でも幾人かの議員から、もうすこし慎重にという意見は出ている。聞いている範囲だと、参議院の審議も、衆議院では会期延長を前提にせずに、会期末が11月30日だということで審議を急いだという面もあったと聞いていますので、参議院の方は逆に言うと、会期延長も見通す中で、より慎重な審議をしたいと思っておりまして、多分採決等の日程も少しずれるのではないかと思っています」

 

 また、自民党の村田吉隆国対筆頭副委員長は27日午前の記者会見でこう踏み込んで話しています。こちらは2日に採決と明言していますが、委員会を飛び越して国対で先にここまで言い切るのはどういうものでしょうね。付帯決議の内容まで言っています。まあ、実際の国会運営では国対の意向が最優先されるのはその通りでしょうが。

 

「国籍法。本日は参考人の意見聴取、採決まで予定していたが、民主党内にもすぐの採決は疑問でないかということで、質疑終局までやり、12月2日に採決まで行う。手続き問題で、省令について11項目明示する。付帯決議で見直し規定を設ける。不正が続出した場合は法案をただちに修正すると書く

 

 さて、そこで27日の法務委審議について触れたいと思います。いくつか注目すべきところがありましたが、まずは上の村田氏の話に関連して、山谷えり子氏の質問と、それに対する法務省の倉吉敬民事局長の答弁を紹介します。

 

 山谷氏 国民の心配、懸念は本当に大きいものです。認知が悪意か悪意でないか、見極めるのが難しい。組織的犯罪が起こる心配があるわけですから、半年ごとに委員会に、どのぐらいの届け出があったのか、件数やケース、どこの法務局の窓口でどうだったと、こういう報告はしていただけるか。

 

 倉吉氏 半年ごとということですが、委員会の求めがあれば、それは当然やるべきだと思っております。

 

 …ここで山谷氏が求めて倉吉氏が応じた「半年ごとの委員会報告」は、参院法務委での付帯決議に入る見通しです。村田氏が言う「見直し規程」までが直接入るかどうかは現時点で私は把握していませんが、半年ごとの報告で偽装認知の例がたくさんあったなどと不具合が報告されれば、それは法律の見直しにつながるということもありえるでしょう。国民の声が国会の場に届いた一つの証左だと思います。ただ、私が聞いているところでは、衆院法務委での付帯決議にあった「重国籍の検討」の条項は、今のところほとんどそのままの形で残る方向だそうです。

 

 そして、この日の法務委ではもと一つ、参院で民主党と統一会派を組んでいる新党日本の田中康夫代表の質問が興味深いものでした。田中氏はまず、次のように考えを表明しました。田中氏が国籍法問題に関心を示しているということは、数日前から複数の後輩記者らから聞いていましたが…。

 

 「私は今回の国籍法のいわゆる『改正』に疑義があると考えております。そして、DNA鑑定制度を導入するべきであり、そのことを明記すべきだと考えています。実は、人権保障を尊重するならばなおのこと、このDNA鑑定の導入が必要である」

 

 田中氏はこう述べた上で、「罪無き子供を奈落の底へと突き落とす蓋然性が極めて高い。当初から偽装認知奨励法にほかならぬと懸念されていた本法案は、人身売買促進法、ないしは小児性愛、ペドフィリアと呼ばれますが、小児性愛黙認法と呼び得る危険性をはらんでいると思います」と続け、DNA鑑定の必要性を訴えました。田中氏は、東南アジアの子供達が買い求められ、ペドフィリアの被害者、犠牲者にならないようにするためにもDNA鑑定が必要だと強調しています。これは、これまであまり指摘されていなかった視点ですね。

 

 また、欧州諸国でのDNA鑑定の実施状況について指摘(これは、私が17日のエントリ「『国籍法改正案』緊急対策会議で語られたこと」で紹介したものと同じ内容)した上で、民事局長が「DNA鑑定が正確なものであるかどうか分からない」と答弁したことについて「これはアホなお話だ」と切って捨てました。

 

 さらに、この質疑の中で気になったのは、田中氏が「幸いにして、国民新党代表代行の亀井静香さんからも、また民主党幹事長の鳩山由紀夫さんからも、是非とも、良識の府参院で法案修正を勝ち取って衆院に差し戻してほしいと、昨日、直々に激励を受けた」と述べた部分でした。鳩山氏は、今朝の産経3面の田母神前空幕長インタビューでも、田母神氏から「鳩山幹事長は、私や懸賞論文を主催したアバグループの元谷代表との会食を中座したように言っていますが、まったくのウソですね」とあっさり言動を否定されているようにとても言葉の軽い人なので、額面通りに受け取るわけにはいきません。でも、民主党内のある種の空気は反映しているのだろうと思います。

 

 鳩山氏は、国会の場で国籍法改正案に反対する田中氏を激励したと明らかにされたわけですから、今後は、その考えにふさわしい言動をとってくれることを期待したいと思います。なんだやっぱり、いつもの軽いリップサービスか、となるのかどうか。この人も、いつかは首相の座に就きたいと願っている人なのでしょうから、もっと国民から鼎の軽重を問われる場面があっていいはずですね。

 

   

 

 ※写真は29日夕に撮ったものです。空が黄金色に染まっていて、なぜだか、「豊饒」という言葉が思い浮かびました。

 

 

 ちょっと旧聞になりますが、国連総会第3委員会(人道問題)が21日、拉致問題の解決を強く求めるなどと明記した北朝鮮に対する人権非難決議を賛成多数で採択しました。4年連続の採択で、今年は賛成が95カ国(昨年は97カ国)、反対が24カ国(同23カ国)、棄権が62カ国(同60カ国)でした。まあ例年並みと言えますね。

 

   

 

 ただ、その中で一つ注意を引いたことがあります。それは、昨年は自国も数百人も拉致されていながら、北朝鮮を刺激することを避けて棄権に回っていた韓国が賛成に転じ、それどころか決議の共同提案国となったことです。やはり、極左・親北の前政権とは違いますね。竹島問題などでは相変わらずですが、韓国のこの方針転換は歓迎したいと思います。

 

   

 

 逆に、昨年は決議に賛成していたブラジルは、今年は棄権に回っています。外務省の担当課によると、「これは必ずしも後ろ向きな話ではなく、ブラジルとしては北朝鮮への関与政策をとりたいらしい。これから積極的に北に働きかけ、前向きな対応を促していくために、ここで北と対立的な動きはしたくないということのようだ」という話ですが…。

 

   

 

さて、そこで参考として、この決議に反対した24カ国の内訳を記すと、《北朝鮮、中国、ベトナム、ラオス、インドネシア、マレーシア、ミャンマー、キューバ、ベネズエラ、ニカラグア、ロシア、ベラルーシ、ウズベキスタン、エジプト、アルジェリア、シリアリビアイランスーダン、オマーン、ジンバブエ、ギニア、ソマリア、ナミビア》となります。「アフリカは浮動票」(外務官僚)なんだそうです。

 

  

 

 ちなみに、棄権した62カ国のうち、アジアの国を挙げると、《タイ、シンガポール、ブルネイ、フィリピン、カンボジア、インド、ネパール、パキスタン、スリランカ、モンゴル(欠席)》の10カ国となります。一方、賛成した95カ国のうちアジアの国は《日本、韓国、東ティモール、バングラデシュ、ブータン》の5カ国でした。

 

 それぞれの国にそれぞれの事情や判断理由はあるのでしょうが、賛成180、反対1というような状況にならないのが残念ですね。北朝鮮の核をめぐる6カ国協議が12月8日に北京で開かれる方向となり、私もたぶん取材に行くことになると思いますが、本当に面倒な国です(この寒い季節に北京くんだりまで行きたくないので)。

 

   

 

 …写真は、連休中に滞在した東北某県の里山と街で撮ったものです。里山で可憐に咲く竜胆の花を見つけ喜んでいたところ、すぐそばにはつぼみもありました。紅葉もきれいでしたし、気分転換になりました。

 

 

   

 

 連休中、身近にLAN回線がない場所に来ていて、最近になって会社から支給されたエア・エッジなる扱い慣れないものでインターネットに接続しているのですが、時間がかかって仕方ありません。イザの画面が立ち上がるまでにまず10分間はかかるありさまで、どうにかならないものでしょうか。

 

 ともあれ、上の写真は某地方都市で撮影した駅前の風景ですが、何か違和感を覚えはしないでしょうか?実は、イザブロガーの1人であるnekopon様がすでに同じ部分に注目したエントリをアップしていたのですが、それから2年以上たってもまったく変わっていませんでした。で、それは何かというと…

 

   

 

 まあ、別にいいんですけどね。だからどう、ということは全くありません。ただ、ちょっと面白いなと感じたものを発作的に写真に収めたくなっただけです。いつもそうであるように、他意はありませんです。はい。

 

 で、話は飛びますが、昨日、21日に都内で小泉元首相の講演を聴いてきたという人に会いました。都内のホテルで催されたある会合に、ゲストの講演者として小泉氏が招かれていて、「日本の進路」と題して「環境を考えながら、その施策が同時に経済発展に結びついていくのが理想だ」というようなことを語っていたとのことです。

 

 その点に関しては、それはまあそうだろうなという感想しかありませんが、会場で小泉事務所から配布されていたという参考資料に目がとまりました。それは平成19年7月23日・鹿児島サンロイヤルホテルでの小泉氏の講演録で、靖国神社参拝についての部分が抜粋されたものでした。話の一つひとつは、私も聞いてきたことだし、また記事にしてきたことでしたが、まとまった形で読むとまた感慨深いものがあったので、ここに掲載します。

 

 《私は読書が好きで、特に歴史・時代小説好きですが、もし今まで読んだ本の中で最も感銘を受けた本、感動を受けた本を一冊、挙げろといわれれば、海軍飛行科予備学生の遺稿集(第14期会篇)「ああ同期の桜 かえらざる青春の記」です。

 この本を学生時代に読んで強烈な印象、深い感銘を受けたんです。

 あの本を私は涙ながらに読んで、今までの自分の生活を振り返ると恥ずかしい思いをしました。もし私があの時代に生まれて、同じ年頃だったら当然、戦争に行きたくなくても、行かざるをえない状況にあったと思います。そのような時にあの若人のような立派な態度を私は果たしてとれるだろうか。あの本を読んでから、愚痴をこぼしたり不平不満を言うのは恥ずかしいと思うようになりました。以来、何か苦しいことがあると、あの特攻隊員の気持ちを思い、現在の苦しい状況と、どちらがいいか考えるんです。

 (中略)

 私は日中友好論者であります。

 中国政府は、将来、いつかきっと後悔するでしょう。

 友好国の日本国首相、しかも民主的に選ばれた首相に対して、靖国神社に参拝するかしないかを条件に首脳会談を行うか行わないか考えると言ってきた。

 私は首脳会談を拒否されても閣僚諸君は大いに中国との交流を進めてほしいと指示してきました。経済界も一般国民も交流を拡大し、益々中国との友好関係を発展させるべきだと考えるからです。

 私を支援し協力してくれる国会議員や経済界の人の中にも、私が総理大臣在任中は靖国参拝はするなと忠告してくれた人もいました。

 しかし、私は靖国参拝の考えを声明し、もし本当に多くの国民が私の靖国参拝をいけないと批判するなら、そのような国民の総理大臣になっていたいとは思わないと言ったんです。

 ブッシュ大統領との会談の際、中国問題が話題になった時にこういう話がありました。

 小泉は中国や韓国の首脳が靖国参拝するなといっても言うことをきかないが、ブッシュ大統領が靖国参拝するなと言えば、小泉は言うことをきくだろうと思っている日本国民がいる。しかし、私はプッシュ大統領、あなたが靖国神社参拝するなと言っても、私は必ず毎年参拝すると言ったら、ブッシュ大統領は「オレはそんなこと言わない」と笑っていましたよ。

 中国政府、韓国政府も将来、日本の首相に対して「なんと大人気ない、恥ずかしいことをしたんだろう」と後悔する時がくると思いますが、これから中国や韓国との関係は、益々重要になってきます。様々な分野で交流を拡大し、友好関係を発展させていかなければなりません。》

 

 …政府は21日、日中韓3カ国首脳会談を12月13日に福岡県太宰府市で開くと正式に発表しました。これについて外務省首脳は「どうやって首脳会談を開くか頭を悩ませていたころから思うと、隔世の感がある」と言っていましたが…。中国は、日本国民の反中感情の高まりを見ながらある程度、思い知ったと見ていますが、韓国はどうなんでしょうね。

 

 何度も回線が切れるため、ここまで打つのに数時間費やしました。ああ…。

 

 今朝の産経は政治面で国籍法が参院で審議入りしたことを伝えています。参院の委員部に聞いたところ、参院でのスケジュールは今のところ、26日には二人の参考人から15分ずつ意見を陳述した後、「民主党・新緑風会・国民新・日本」、「自民」、「公明」など5会派が15分ずつ質疑を行う(計1時間45分)。27日には4時間の一般質疑を行い、28日の参院本会議での成立を目指す――という流れのようです。一応、わずか3時間の審議で批判を浴びた衆院の2倍近い時間は確保しているものの、ことの重要性に照らしても、これで十分とは言い難いように思います。自民と民主は今月12日に、30日までの会期内に改正案を成立させる方針で合意していますが、国会も延長されることだし、そんなに急がなくてもよさそうなものですが。

 (追記15時40分 本日、参院法務委の日程が変更され、25日午後に1時間20分の質疑を行い、26日は休んで、27日の午前中に1時間20分の参考人意見聴取、同日午後に4時間の質疑をした後に委員会採決という運びになりました。審議時間を計6時間40分確保し、体裁は整えた形ですね。)

 

 さて、私はこれまでこの国籍法改正の問題について、産経紙面で3本の記事(15日付、19日付、21日付)を書き、あわせてこのブログでも確か3つのエントリをアップしました。ただ、それでもまだ書き漏らしていることがあるので、本日はその補足をしたいと思います。断片的な情報にすぎませんが、何かの参考になれば幸いです。

 

 まず、国籍法改正案が衆院で審議入りしたのは14日ですが、その前日に知人のジャーナリストが、民主党の法務委員会メンバーである保守系議員に電話をかけ、改正案の問題点を指摘したところ、この議員は「ワシもよく知らんのよ」という反応だったそうです。与野党とも、次期衆院選への対応で手一杯で、法務委の一員であってもこの程度の認識だったということです。

 

 でも、さすがに国民の側が騒ぎ出し、国会議員にファクスやメールが殺到するようになると、議員の側も「あれ?何なんだこれは」と思い、中には改正案の内容に疑問を持つようになった人もいるわけですが、改正案は予定通り18日に衆院を通過しました。ただ、事後の記者ブリーフでは一切説明されませんでしたが、この日午前の自民党役員連絡会では改正案が話題になったそうです。

 

 役員会の中で、ある衆院議員が「国籍法改正は問題があるのではないか」と発言し、「そうだそうだ」という声が上がったほか、別の議員からは「衆院での審議は終わるが、今後、この法案の扱い方を考えてほしい」という意見が出ました。これを受けて細田博之幹事長が「これは確かに犯罪ビジネスに利用される懸念がある。これはちょっと、幹部で引き取らせてほしい」とその場を収める場面があったと聞きました。

 

 また、この日昼の自民党参院執行部会では、山谷えり子氏が改正案に関する一連の経緯を説明し、「私自身も非常に問題があると考えている。慎重に議論し直す必要があるんじゃないか」と問題提起しました。これに対し、国対幹部も「運用で(犯罪行為の)歯止めをかけていくことが必要だ。参院では通過の仕方を考えないといけない」と指摘し、尾辻秀久参院議員会長も「もう一度検討した方がいい」と発言しました。さらに、吉村剛太郎政審会長も「勉強会を開いていきたい」と述べました。そのため、19日には自民党の参院政審で法務省の担当幹部を呼んで、勉強会が開かれました。すでに党内手続きも終わり、閣議決定までしている法案について、改めて勉強し直すというのは異例のことだと思います。

 

 実は、同じく18日の公明党代議士会でも国籍法改正が話題になり、ある議員が「みなさんのところにもかなり来ているかもしれないが、メールでかなり反対の、または見直しをちゃんとしてもらいたいという話が来ていると思う。これ、実は地方議員の方のところにかなり来ている」と発言したほか、別の議員からは「何でDNA鑑定はダメなの」との質問を出て、法務委メンバーの大口善徳氏が「(法の下での平等を定めた)憲法14条違反になる」と答えています。本当に憲法違反となるかは怪しい限りですが、とにかく彼らも国民の声を気にはしているのです。

 

 19日の自民党の参院政審勉強会は、法務省に対する批判が相次ぎました。これはマスコミに公開されていたわけではありませんが、ドアの外に耳を当てて根気よく中の声を拾ってくれた(これを業界用語で『壁耳』と言い、国会では若手官僚もよくやっています)後輩記者の取材メモによると、次のようなやりとりがあったそうです(声だけでは誰だか分からない議員は某議員にしています)。

 

 尾辻氏 きょうは国籍法改正案の勉強会をやることになった。国籍法は衆院を通過している。勉強は勉強として、取り扱いについては現場で取り扱ってもらう。

 

法務官僚 略(法案説明。DNA鑑定はだめ、偽装防止はできると説明)

 

某議員A 最高裁の判決自体が疑問だ。原告の中には父親がどこかに行ってしまっていない子供がいた。そういうケースでも国籍を付与するとなると、事実上、防止策も機能しなくなる。憲法14条違反というが、そもそも憲法10条では、国籍については別の法律で定めると書いてある。日本人であることを証明することが大事であって、行政府は厳格に対応するべきだ。DNA鑑定を導入すると問題が出てくるというが、犯罪捜査では使っている。主権者の権利を付与することなので、主権者の地位を簡単に渡してしまうことになる。子供たちは帰化申請すればいい。ところが申請せずに憲法判断にもってきた原告の政治的意図がある。衆院では可決されてしまったが、良識の府である参院では徹底的に審議をしないと汚点になる。

 

佐藤正久氏 国籍は非常に重要だ。しっかり議論してほしい。偽装(認知)をやろう、商売でやろうという人たちの偽装をどう見破るか。届け出の窓口は市町村役場と法務局だが見破れるかどうか疑問だ。役場は人が少なくて忙しい。法務局も大きなところもあれば、小さいところもある。

 

有村治子氏 歴史の評価に耐えうるのか。DNA鑑定は万能薬ではないという意見が出たが、それ以外に偽装を見抜く手だてはない。家族関係の絆を証明する手だてとしてDNA鑑定は選択肢に入るのではないか。外国人に対する差別だというが、国家の出入国で区別するのは当たり前なんだから、国籍でも区別があっていい。

 

山谷氏 衆院ではたった3時間しか審議していない。虚偽かどうか調査する方法を通達で定めるとあるが、これでは私たちに見えないところで決められてしまう。付帯決議して修正に持ち込まなければ、とても国民の願いに答えられない。審議入りする前にもんでもらいたい。

 

某議員B 罰則が厳しくても偽装結婚は相当ある。男性は暴力団員が多く、刑罰を科しても何とも思っていない。DNA鑑定を使うのは当然だ。我々も選挙でいっぱい、いっぱいになって知らなかった。反省しているが、法務省はどういう手を使ったのか分からないが、3時間で衆院を通すやり方に失望している。

 

尾辻氏 最高裁判決の原告には父親がどこかに消えていない子供もいたということだが、そうすると法務省の「父親にも話しを聞く」という説明と矛盾する。そこを整理してほしい。(父子関係が)事実であれば、いなくなってもかまわないということか?(法務省「そうだ」と回答)

 

某議員C (唯一の法案容認意見?)自分の子供じゃなくても認知するケースは昔はいろいろあった。周りもみんな知っているが、言わないケースはいろいろあったんだ。

 

衛藤晟一氏 日本の家族は完全に血統主義ではない。文化概念としての家族という考え方がある。しかし、国籍ではハッキリした方がいい。新しい時代の変化の中でDNA鑑定が可能になったから、使えばいいじゃないか。

 

尾辻氏 この話は党内手続きを完全にクリアしている。与党の手続きもなされ、閣議決定され、衆院では審査が終わりとされて、参院に送付されてきた。その事態で、私が出ている役員会や役員連絡会でもかなり議論があり、モヤモヤしている。先日、参院の執行部会で、たしか山谷先生だったと思うが、問題提起されたので、政審で勉強会をやってくださいと言った。何かあったら私が矢面に立つから、私の責任でこの会を開いてくださいと。先生方のご意見を今後も出してください。議論したうえで、国会にどう臨むか判断する。私も覚悟して、参院らしく臨みたい。

 

…ただ、この尾辻氏のいう「覚悟」がどういう意味なのかよく分からないのですよね。私はこの人のことをよく知らないので、何を意図してどの程度の重みをもってこの言葉を発したのか推測もできません。うーん。また、某議員Aが指摘している裁判の進め方と帰化の問題については、19日の「国籍法改正案を検証する会合に賛同する議員の会」で法務官僚(参院政審に来た官僚とは別人)も「私どもは簡易帰化でいいではないかと主張したが、こういう判決が出た」と語っていました。

 

 そして、翌20日は木曜日で、自民党の各派閥の定例総会が開かれました。津島派総会では、戸井田徹氏が国籍法改正について発言し、会場がざわめく場面もありました。

 

戸井田氏 「後で気が付く寝小便」という言葉があるが、国籍法をずっとみていてそう思う。この中で国籍法の一部を改正する法律案を全部理解している人手を挙げて下さい(約30人の出席者、誰も手を挙げず)。あらあらは分かっていると思うが「最高裁の判決が出たのだからそれ以上追及する余地はない」と思考停止になっていると思う。これをよく調べると、将来日本人の血を引いてなくとも日本人になれる。そういう状況が出来上がってくる。偽装結婚もあり得る。その可能性を探っていったらある意味恐ろしい部分がある。

それ以上に恐いと思ったのは、「全会一致」と決まったら、誰かが気が付いておかしいと思ってもストップできない。この仕組み。自民党内でも法務部会で10月17日に(了承手続きが)行われた。その時には幹事長も国対委員長も「選挙だから地元に帰れ」といい、我々は地元に帰らされた。そんなことを考える余地も余裕もない中、こんなものをスッと通していって、将来の日本人に禍根を残すことがあったら、我々は将来の子供にどう顔向けできるか。あの時法律を通したメンバーは全部名前が出てくる。公文書を調べると。将来の子供達に「自分たちは本気で判断したのか」と自ら問いかけた時、さほど分からず答えを出してしまった状況だ。また党内でもって、もしそういう内容の微妙なところがあるなら、きちんとオープンにして議論した上で決定すると。最後は逆に党議拘束をかけるのでなく自由投票という選択肢もあっていい。そうでなければまさにファッショでしかあり得ない。

議会制民主主義ってのはどこにあるのか。我々は大して頭も良くないし、分からないことがほとんどだが、これはおかしいと思ったなら、何か声を上げなければと思ってやってきた。だけど今回の国籍法の一部を改正する法律案ってのは明らかにおかしいと思う。参院の方で何とかできるとしたら何とかしてほしい。同時にどうしても通さなければならないという事なら、党内でもきちんと全部成立してからでもいいから、みんなが納得できる議論の場を作ってほしい。(会場ざわめく)

櫻田義孝氏 法案のどこがおかしいのか説明を。

 

戸井田氏 日本人の父親と外国人の母親に生まれた子が、日本国内にいる時、父親が認知すれば日本国籍を取れると。だけどそこにDNA鑑定があってもいいのでないかというのが我々の考えだ。

 

誰か不明議員 そりゃおかしい。もうそこは議論しているのだから。(会場のざわめきが大きくなる)

 

戸井田氏 そこらの議論を事前にやっているのかやっていないのか。僕は正直言って、法務部会が開かれたときを後で振り返ると、その時は他の日程なんかないですよ。みんな「帰れ帰れ」と言われている状況を考えてみたら、どこかそこに「誰か騒ぐのが出てくる」と予期しながらそれを避けて通ろうとする意志がどこかにあったんじゃないか。そういうものがあるとしたら、自由に討論できる自民党という立場の中ではおかしいのでないかと申し上げたい。

 

脇雅史氏(参院国対副委員長) そういうものを参院に送って頂き、大変困惑している(笑い)。動きのあることは重々承知している。私の理解するところ、この法律の精神そのものが否定される物でないと思うが、様々なことが予想され、運用によっては変なことが起きてくる可能性が存在する。従って、運用面で相当のことができないか、少し工夫できないかということで、今日(昨日の間違い?)も法務省を呼んでいる。2院制の中、参院側でしっかりした議論をして、(尾辻)会長のご命令でしっかり検討するようにとのことなので、国対だけでなく、幹事長政審も含め、間違いのないよう検討しながら、そう簡単に上げないように(したい)。来週も2~3日と参考人を呼びながら審議する。来週木曜(27日)くらいには決着させなければならないと思っているが、慎重な対応をしたい。参院側だけの話では済まないので、途中には幹事長室も入ってもらい、衆院もひっくるめた、もし修正でもしたら(衆院に)戻ることもあるので、しっかりとした対応をご相談したい。

 

 …尾辻氏もそうですが、この脇氏のコメントも解釈が難しいですね。ただのリップサービスで「修正」の可能性を口にしているのか、それとも多少は本気なのか。その場にいた知人の議員に「どう思いますか」と聞いてみましたが、「よく分からない」とのことでした。また、「木曜の決着」とは委員会採決のことでしょう。ともあれ、同日の参院法務委員会理事懇談会で、もう審議日程を固められてしまったので、仮に本気であったとしても、なかなか厳しい状況です。

 

 国籍法改正案の話題は、町村派の総会でも出ました。中山成彬事務総長の記者ブリーフによると、次のようなことでした。

 

「国籍法の話についても、参議院の国対報告でもありましたけど、与野党ともに問題にしていると。協議しているということがあって、ちょっと時間が足りなかったんじゃないかと。これは赤池(誠章)君から話がありましてね、問題提起しますということでした。いろいろ犯罪が横行するのではないかと。最高裁だって判決を出したけれども、実は仕組まれた裁判だったんだという話も、後から知ったんだとかね。そういう話もありましたが、参議院のほうでしっかり審議してくれという話でした」

 

 …議員によって認識に濃淡はありますが、今頃になってようやくことの重大性に気付いたという人が多いようですね(弊紙を含むマスコミもそうですが)。中には、森英介法相のように「(ファクスを送るなどの)こういう手法をとる人は、好ましからざる人物だと思う」と語る人もいますが、多くの議員は殺到するファクスやメールを見て、それなりに真剣に受け止めているのではないかと思う次第です。そして、それが、今回は間に合うかどうかは分かりませんが、リアルな政治に間違いなく影響を与えている様子がうかがえますね。その点も興味深く感じており、今後の展開を注目していきたいと思います。

 

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