2008年11月

 

 本日は、この前自宅で昔の取材資料などを整理していた際に出てきた13年前にロシア・ハバロフスク近郊で撮った写真をアップしたいと思います。何の脈絡も必然性もありませんが、実に久しぶりに手にとったところ、もともと下手で露出もピントもあっていなかった写真が、歳月の中で色褪せてきていたので、この際、デジカメで複写して記録しておこうと思い立ったので。

 

 でも、それだけでは何のことか分からないでしょうから、当時書いた関連記事の一部を添えて紹介します。このとき、私は社会部の戦没者遺族取材班に所属していたのと、もともとシベリア抑留問題を取材していたことから、ロシアに出張する機会があったのでした。

 

抑留者の魂安らかに シベリア平和慰霊公苑で追悼式 [ 19950913  東京朝刊  1面 ]

 

 【ハバロフスク(ロシア)12日=阿比留瑠比】帰国を果たせないまま、旧ソ連の大地に眠る約六万人の日本人抑留者の英霊をまつるシベリア平和慰霊公苑と慰霊塔がロシア東部のハバロフスク市に完成し、十二日午後一時(日本時間同午前十一時)すぎから、追悼式が催された。

 主催したのは、財団法人「太平洋戦争戦没者慰霊協会」(瀬島龍三会長=伊藤忠商事特別顧問)と厚生省。ロシア側からも同市の要人らが出席した。

 

   

 

 …写真は慰霊塔です。ただ、これが建てられた平和慰霊公苑はその後、荒らされたりもしたと聞いています。なかなか、和解への願いも祈りも、簡単には通じないものですね。

 

シベリア慰霊祭 「悲しみに民族差ない」 日露450人が黙とう [ 19950913  東京朝刊  社会面 ]

 

 【ハバロフスク(ロシア)12日=阿比留瑠比】異国の地で無念の死を遂げた日本人抑留者をまつるシベリア平和慰霊公苑と慰霊塔での追悼式には日本から約三百人、ロシア側からはハバロフスク市のフィリポス市長ら約百五十人の計約四百五十人が出席した。

 追悼式は市中心部のドラマ劇場と、市北部の慰霊公苑での献花の二部に分けて行われた。劇場では停電のハプニングもあり二十数本のロウソクの明かりを頼りに式典が進められた。

 

   

 

 十一年間の抑留生活から帰国後初めて四十年ぶりにハバロフスクの地を踏んだという瀬島龍三会長は「感慨無量。これを契機に東アジアの平和、日・ロ両国の親善友好が促進されることを期待する」とあいさつ。

 ロシア平和基金のポターポワ・ハバロフスク地方議長は「父やおじがどこに埋葬されたか分からない遺族にとっては戦争は終わっていない。悲しみに民族差はありません。慰霊公苑と塔は両国民の間の友好と平和の象徴です」と、追悼の辞を述べた。

 その後、日本人とロシア人全員で戦没者に黙とうをささげ、会場を移した。

 公苑には芝生が敷かれ、菩提樹や千島桜、ツツジなどの苗が植えられ、隣接する赤レンガの慰霊塔には天皇、皇后両陛下からの白菊の供花が飾られている。

 十一年半の抑留経験を持つ最高齢の元陸軍大佐、草地貞吾さん(九一)は「五十年前、この地に連れて来られたのはやはり九月、電気なんてなかった。停電でかえって厳かに引き締まった。英霊がしてくれたことだと思います」と話した。

 

   

 

 …写真前列右から2番目の長身の男性が草地氏で、ハバロフスク郊外の日本人捕虜が埋葬された墓地で手を合わせている場面です。草地氏については以前のエントリでも何度か触れましたが、最長の11年間半もシベリアに抑留され、ソ連側から拷問を受け続けながら、最後まで一度も転ばなかった信念の人でした(山崎豊子氏の「不毛地帯」のモデルの一人とされています)。明治の男には気骨がありましたね。わが身を振り返ると反省しきりです。

 

   

 

   

 

   

 

   

 

   

 

 このときは、日本から約300人のシベリア抑留関係者や遺族らがハバロフスクに渡ったのですが、飛行機が到着したときは台風の接近で冷たい雨が強く降っていました。

 

 10年以上前のことで、私の記憶もあいまいなのですが、上の写真は確かハバロフスク南方約75キロの場所にあるホール第2墓地のものだったと思います。どこまでも続く白樺林が風に揺れる墓地では、待ちこがれた帰国を果たせないまま異国に眠る戦友や家族のことを思い、多くの人が涙を流していました。

 

 日本人の白い墓石には、個人名は記されておらず、「4/6」といった整理番号だけが書かれていました。その墓石にしたところで、いかにも急ごしらえで整えたという感じで、もともと日本人墓地はどんな扱いがされていたのか…。

 

 今回、このエントリをアップしたのは、生前の草地氏の写真があったので、ぜひ記録に残しておきたいと考えたからでもあります。草地氏も、自身の信念と体験に基づき、大東亜戦争や歴史問題で盛んに発信されていましたが、帰国後は公職に就くことはしなかった人でもありました。もし草地氏に関心のある方がいらっしゃれば、07年3月21日のエントリ「ある関東軍参謀未亡人からの慰安婦問題についての電話」を参考にしていただけば幸いです。

 

 

 ここ数日、ブログ更新が滞っていてすいません。いろいろと考えがまとまらないことがあり、また他にやらなければいけないことが多かったので、思い切って少しさぼらせてもらいました。私は不惑を過ぎてもいつもふらふら悩んでいるのですが、その間にも、ここにはたくさんの方が訪問してくれ感謝しています。まあ、それはさておき…。

 

 本日、自民党の大島理森国対委員長、山本幸三衆院法務委員長、塩崎恭久衆院法務委員会筆頭理事に対し、自民党有志議員が「国籍法改正について慎重審議の申し入れ」という要請文を提出しました。内容は以下の通りです(※太字は私)。

 

 《本年6月4日の最高裁判所大法廷判決が指摘した違憲状態を解消するために、国籍法改正案が本国会に提出されております。日本人の父親と外国人の母親の間に生まれた子供の日本国籍取得に関し、婚姻関係を条件としている現行法が「法の下の平等」を規程した憲法14条に違反するとの指摘を最高裁より受け、認知があれば日本国籍が取得できるようにした法改正であるのが本法案です。

しかしながら、全国各地の大勢の老若男女から、電話・FAX・電子メールを通じて、衆議院法務委員会委員の各事務所に意見が寄せられており、その内容はすべて反対の意見です。

反対理由は、①国籍取得届の虚偽届出について1年以下の懲役、または20万円以下の罰金という罰則を新設したわけであるが、違反した者への刑罰が軽すぎる。②偽装の認知を防止するためにDNA鑑定導入を必須とすべきではないか。③偽装結婚も横行しているといわれているなかで、偽装認知防止のための実効ある対策の検討などです。

これだけ大勢の国民から反対の声が上がっている中、それを検討する法務委員会は11月18日(火)午前中3時間だけの審議で採択し、その日の午後には衆議院本会議へ緊急上程、そして採決がなされようとしています。十分の審議は確保されていません。

今回国籍法が導入されるきっかけとなったのが、本年6月4日の最高裁判所大法廷判決で、最高裁の判決であるからすぐにでも法改正せざるを得ないという流れにあるのでしょう。しかしながら、最高裁の判決文によると、最高裁多数意見は、その違憲理由の根拠として社会的経済的環境の変化、夫婦の家族生活や親子関係の意識の多様化、非嫡出子の割合の増加など、社会通念、社会的状況の変化、国際化、諸外国の動向、国際規約や条約をあげており、一方で、3名の最高裁判事による小数の反対意見は、統計データをつかって国民一般の意識変化として大きな変化はしていないと証明しています。20年間で、日本における非嫡出子は1%から1.9%しか増加しておらず、10%が非嫡出子である西欧諸国とは状況が全く違うのです。

国民常識は、最高裁の多数意見よりも少数意見です。国籍という国家共同体の構成員を決める大事なルールが崩れつつあるのではないかという国民の懸念に十分応えるためにも、国会における審議は、慎重にも慎重を期し、国民の不安が払拭されるまで、徹底的な審議を求めます》

 

 この申し入れに署名した議員名を参考までに記しておきます。いつもの保守系議連の「常連」以外の意外な名前もけっこう出てきますね。それだけ問題意識が広まり、共有されているのかどうなのか。敬称略で《宮路和明、稲葉大和、並木正芳、赤池誠章、安次富修、新井悦二、井沢京子、稲田朋美、上野賢一郎、遠藤宣彦、近江屋信弘、鍵田忠兵衛、岡部英明、亀岡偉民、川条志嘉、木原誠二、木挽司、近藤三津枝、篠田陽介、杉田元司、薗浦健太郎、平将明、高鳥修一、永岡桂子、萩原誠司、林潤、牧原秀樹、松本洋平、馬渡龍治、矢野隆司、山本ともひろ、若宮健嗣》――の32人です。最近、私は諦観に傾きつつありましたが、なかなか見くびったものではない参集ぶりです。

 

 また、17日午後には、「『国籍法改正案』緊急対策会合及び記者会見」も開催されるようです。こちらは、超党派の「『国籍法改正案を検証する会合』に賛同する議員の会」という議連が急遽立ち上がり、主催するもので、メンバーは今のところ、《平沼赳夫、下村博文、馬渡龍治、西川京子、赤池誠章、戸井田とおる》(敬称略)で、今後も増える見込みだと聞きます。この議連は、案内文に国籍法改正によって「想定される偽装認知」について例示していますので、それもそのまま掲載します。

 

一、第三国の女性を、国内の犯罪組織に所属している男性が大量認知して、売春等犯罪に悪用。(国際的に「性奴隷」と批判される)

二、国際テロリスト及びその子孫を認知することも可能になる。仮に、正規の日本国籍を取得した「日本人」がテロ事件を起こした時に損なう国の名誉は甚大である。(国際的にテロ国家と批判される)

三、現在、日本の国籍が高額で売買されている現状では、日本国内に長期滞在することを目的として、犯罪組織の男性でなくても、経済的に困窮している男性に高額な報酬で「偽装認知犯罪」が一般的に行われるであろう。

四、第三国で生活している女性が、日本の「社会福祉制度」の悪用を意図して、「特別在留許可」等の目的で第三国で生まれ生活している第三国人の子供を、日本人男性に「認知」してもらい日本入国を果たす。「改正案」には扶養の義務がないので、入国後は「育児手当」「生活保護費」など税金が使われる。

五、扶養の義務が無いことで、国内に短期滞在している第三国人女性が「特別在留許可」取得を目的として、「大金」を支払って日本人男性の子供を妊娠する可能性もある。これは「偽装認知」としての犯罪ではないので、「DNA鑑定」しても防ぐことはできない。

 

 …いずれにしても、きょう14日に審議入りした法案を、土日をはさんで18日には衆院本会議に諮ろうというのは、あまりに性急だと思います。まして、これだけ重大な意味を持つ法案なのですから。ただ、少し遅きに失した感はあるものの、ネットを中心とした世論が国会議員たちを突き動かし、こうした運動が立ち上がってきたのは意義深いと思います(ネット社会の進展の中で、将来的にはこういう動きがどう位置づけられ、展開していくのか)。法案はすでに閣議決定され、自民、民主両党間でも30日までの国会会期内に成立させることで合意しているので、前途は必ずしも楽観できませんが…。

 

 産経も遅まきながら、明日の紙面ではこの問題を取り上げた記事が掲載される「予定」です。例によって、スペース(行数)制限は厳しいので不十分な内容かもしれませんが。で、関係ありませんがついでに私的な宣伝をしておくと、16日付産経の「日曜日に書く」欄は私の当番にあたったので、中山前国土交通相と田母神前空幕長の辞任、更迭についての感想を率直に記したコラム「正攻法だけでは勝てない」を書きました。自分は見方・意見が違うという人も多いと思いますが、よかったら読んでみてください。

 

 

 本日は新聞休刊日なので、会社から電話がかかってくることもたぶんありませんし、比較的ゆったりとした気分で過ごしています。まあ、休刊日と言っても、一昨年には北朝鮮が核実験を実施したため、政治部員は全員出勤となったこともありますし、自然災害などがあっても休みは吹き飛ぶので油断はできないのですが。たまに緊張を解かないと、精神衛生によくないですしね(いつも緩んでいるのではないか、という指摘もありそうですが)。

 

 というわけで、きょうは10月12日のエントリ「最近読んだ本について・児童文学恐るべし」以来、1カ月弱ぶりに読書シリーズをアップします。まずは、前回「激賞」した上橋菜穂子氏の上下巻の作品からです。

 

     

 

 …感銘を受けました。これも児童文学・ファンタジーの体裁をとっていますが、これはどう考えても大人が読んだ方が面白く、より理解できるのではないかと感じます。主人公の少女、エリンの常に孤独と向き合いつつ、出会う人や物事の一つひとつを透徹した目で見つめながら成長していく姿に圧倒されました。前回紹介した上橋氏の「守り人」シリーズが10巻(プラス外伝1巻)もあるのに対し、これは2巻だけですから読みやすいとも言えますが、クライマックスの迫力と、それと矛盾するような静謐な透明さときたら…。

 

 次は、明治時代初期、黎明期の柔道(柔術)とその後、世界に広まっていく姿を描いた夢枕獏氏の大作です。柔道の創始者、嘉納治五郎をはじめ、綺羅星のこどく登場した群像の激闘、隆盛、生き方を描いていて、とても読み応えがあります。

 

     

 

 さすが格闘小説の第一人者だと思います。確か全4巻となるはずなので、あと2冊は楽しめるのがうれしいです。小説ですから、当然、作者の演出、虚構も入っているのでしょうが、登場人物、エピソードは基本的に実在の人物だといい、とても興味深いものがあります。

 

 次は、北森鴻氏の絵画修復師シリーズの第2弾です。前作の「深淵のガランス」に続き、主人公がさまざまなトラブルに巻き込まれ、超絶的な絵画修復の技法を見せて活躍するものの、どこか報われない日々を送っています。

 

     

 

 読んでいて面白いし、作品世界も興味深いのですが、何だか主人公が痛い目に遭ったり、周囲に翻弄されたりしすぎていて、痛々しいというか、いまひとつカタルシスは感じませんでした。まあ、好みの問題でもあるのでしょうが。

 

 さて、次は過去のエントリで「越境捜査」「恋する組長」の2作品をかなり高い評価で紹介した笹本稜平氏の新刊です。帯には「さらに熱い!警察小説、異色の傑作だ!!」とありますが…。

 

     

 

 元私立探偵が警察庁キャリアの元同級生の引きで警視庁に再就職し、素行調査官になって…という設定はユニークですし、詳しくは書きませんが、事件の黒幕の設定もかなり意表を突くものはあります。ただ、「越境捜査」のような濃密さは感じられず、展開にぐいぐい引っ張られるような説得力はありません。また、それでは軽いタッチで書かれているのかというと、「恋する組長」のようなどこか突き抜けた諦観ともつながる明るさはなく。うーん、期待が大きかった分、辛い点数をつけてしまいましたね。

 

 自分でも読書傾向が少しマンネリ化しているかと反省していますが、次は、以前のエントリでどちらかというけなしてしまった山本一力氏の新刊です。けなすぐらいなら、買って読まなければいいのに。

 

     

 

 どうしても時代小説が読みたい、という時があるのですよね。で、この本は「損料屋喜八郎」シリーズのたぶん第3作だと思いますが、前作を読んでいるので、つい続きも読みたくなるということが。相変わらず、やたらと「器量」という言葉が繰り返し振り回されているのが鼻につくのですが、第4作が出ても買ってしまうのかなあ。文句があるなら読まなきゃいいというだけの話なのですが、ワンパターンだよなあ。

 

 最後は、以前、「十手人」という作品を読んでまあまあ面白かったので買ってみた押川國秋氏の作品です。帯の「泣きたい日ばかりじゃないさ。」というコピーにもひかれましたし。

 

     

 

 で、私はこれをこの一冊で完結する作品だと思いこんで読んでいて、変だな、話が進まないなと思いつつ最終ページまできて「何だこりゃ。おいおい」とようやく、シリーズものであることに気づきました。ちゃんと帯に「新シリーズ開幕」と書いてあるのに、我ながら本当にいつでもどこでもどこか抜けた男です。敵持ちの浪人と長屋の住人たちとの交流や日々を描いたものですが、これも妙に「軽い」タッチが少し気になりました。

 

 まったく何の関係もないことかもしれませんが、世の中全体が何に対しても「分かりやすさ」を要求する傾向がある中で、編集者も作家にそれを求めているのではあるまいかとふと思いました。まあ、何の根拠もない妄想ですし、児童文学でも上橋氏のように重厚感のある作品が売れているのですから、いよいよ怪しいバカな考えなのでしょうが。

 

     

 

 民主党の小沢一郎代表は7日、米国のオバマ次期大統領に当選への祝意を表す親書を送りました。文面は以下の通りですが、小沢氏自身の政権奪取に対するよく言えば意気込み、悪く言えば増長した態度が伝わってきますね。

 

《民主党を代表してこのたび貴国大統領選挙において貴殿が見事な勝利を収められましたことを心よりお喜び申し上げます。貴殿があらゆる困難を乗り越えてアメリカ合衆国に相応しいリーダーとして国民の圧倒的支持を獲得されましたことに敬意を表します。さらに真摯な志と謙虚な勇気を持たれた貴殿を米国のリーダーに選出したアメリカ国民に敬意を表したいと思います。

わが民主党も近く行われるであろう次期総選挙において、日本国民の期待に答え、政権交代を実現する決意であります。「変革(チェンジ)」の波は確実に日本でも起きております。われわれが直面する課題は極めて深刻ですが、オバマ新大統領とともに日米の強固なパートナーシップを確立・発展させながら、アジア・太平洋地域、そして国際社会全体の平和と反映のために諸課題の克服・解決に取り組んでまいりたいと願っております。

貴殿のますますのご健勝とご活躍を心より祈念申し上げます。近い将来、貴殿にお目にかかれることを楽しみにいたしております。》

 

 「近い将来、貴殿にお目にかかれること」は、いつ実現するのかしないのか。日本国首相として会いたいと考えているのかな、などとそんなことを思いました。ぞっとしないなあ…。まあ、気を取り直して本日は、不定期連載中の小沢語録「その9」をお届けします。今回は平成13年5月の小泉政権発足直後から、田中真紀子氏を取り込もうとしている14年6月までとなります。

 

・平成13年5月25日夕刊フジ、自由党党首、「剛腕コラム」で小泉人気について

「大体、小泉首相のどこに骨太の理念や具体的な政策があるのか。森政権時代の自民党とどこが変わったというのか。単なるキャッチフレーズの連呼をマスコミが一生懸命に取り上げるから国民も勘違いする。集団的自衛権の問題一つを取っても、総裁選中と総裁選後では意見が大きく違う。つまり、小泉人気は幻想と錯覚なんだ。(中略)まさに日本の民主主義の限界。政治家もマスコミも国民もレベルが低すぎる」

 

 =このころの小沢氏は影が薄い存在でしたが、埋没しそうな焦りが言わせたのか、これまで自分の専売特許だった「改革」をフレーズに登場してきた小泉氏への嫉妬がそうさせたのか、「国民もレベルが低すぎる」ときました。そういう小沢氏も、集団的自衛権についての発言はずいぶん揺れ動いていますが。

 

・平成13年6月1日夕刊フジ、自由党党首、「剛腕コラム」

「大体、『改革断行内閣』というが、一体何が変わったのか、何を打ち出したのか。森内閣の政策を踏襲しているだけじゃないか。国民を完全にだましているのに、国民もムードだけで政治を判断している。正確に伝えるべきテレビや新聞などマスコミも同じで、小泉首相が演出するムードに流されている。(中略)国民もおかしい。感情や情緒に走って政治決断を下し、滅亡した国家は枚挙にいとまがない」

 

 =似たような話をしているのを二つ並べてみました。確かに、国民もマスコミも巻き込んだ小泉ブームは異様なほどでしたが、今度は「国民もおかしい」ですか。この時期は小沢氏に関する記事が少ないので、夕刊フジのコラムからの引用が多くなりました。

 

・平成13年6月29日夕刊フジ、自由党党首、「剛腕コラム」

「僕も靖国神社には二つの問題点があると思っている。一つは、同神社が明治維新の戊辰戦争で亡くなった官軍戦没者の慰霊のために創建されたため、幕府側の戦没者がまつられていないこと。もう一つは、戦闘で死亡した者だけを殉難者を祭神とするのが原則なのに。戦犯として処刑された者までも『戦争で倒れた』という解釈で合祀しているということだ」

 

 =これだけ読むと、いわゆるA級戦犯だけでなく、かなりの割合で冤罪だとみられるBC級戦犯とされて処刑された人たちの合祀もけしからんと言っているように読めますが…。単に説明を省略しただけなのか、本当はそう思っているのか。

 

・平成13年11月1日朝日、自由党党首、インタビュー

「我々は、日本国憲法の描く理想に沿って率先してやらないといけない。極端な言い方をすれば、自衛隊を全部国連に預けるべきだ。国内には、ほんの応戦部隊と訓練部隊でいいと私は考えている」

 

 =いやはやラジカルです。「憲法墨守、国連万歳」と叫んでいるのは勝手ですが、こんな考え方の人が次期首相候補というのはやはりちょっと…。どうです、これ?

 

・平成14年2月7日毎日、自由党党首、記者会見で更迭された田中真紀子前外相との連携について

「われわれの政治姿勢と考え方に共鳴してくれる人、本気の人とは、今、どの政党に所属していようが一緒にやる。前外相も小泉内閣に対して目が覚めて、はっきりした政治姿勢、政策を持ってやろうというならいい」

 

 =ふーん、なるほど接近はこのころからか。

 

・平成14年4月2日産経、自由党党首、加藤紘一氏が政治資金を自宅マンションの家賃流用していた政治資金流用疑惑について

「法的にも道義的にも許されないが、辞職うんぬんは最終的には本人の意思次第だ」

 

 =何ということのないコメントですが、いつか何かのときに利用できるかもしれないと考え、記録しておきます。

 

・平成14年4月7日産経、自由党党首、福岡市での講演で

「日本人の中には核武装すべきだという小数意見があるが、そういう状況になったらどうするのか。この前、中国共産党の情報部の人が来たので『あまりいい気になると日本人はヒステリーを起こす。核兵器をつくるなんて簡単。一朝にして何千発の核弾頭を保有できる。日本はそういうことになれば軍事力だって負けない』と言ってやった」

 

 =まあ、中国を牽制するのは別にいいのですが、ちょっと誇大表現だと思いますし、06年10月に当時の自民党の中川昭一政調会長が「核議論発言」をしたとき、民主党が大批判を繰り広げていたことを思うと…。それにしても「日本人はヒステリーを起こす」ねえ。この人は本当に日本人が嫌いなのだろうと感じています。

 

・平成14年4月24日毎日夕刊、自由党党首、民主党の鳩山由紀夫代表との対談で先祖返りを始めた社民党について

「社民党は村山富市政権時代に『日米安保堅持、自衛隊合憲』に転換したが、『あれは政権を取るためだけのものだった』というのでは国民の信頼を得られない」

 

 =現在の小沢氏の旧社会党勢力との蜜月ぶりについて、「あれは政権をとったら切るつもりで方便だ」と言いたがる人がけっこう多いのですが、小沢氏自身の言葉がそういう見方を否定しているような気がします。

 

・平成14年6月7日夕刊フジ、自由党党首、「剛腕コラム」で、福田康夫官房長官の記者懇談での将来的には非核三原則を見直すとことだってあるかもよ、という趣旨の発言について

「核兵器の保有とは、国家の存立にかかわる重大な問題。それについて政府のトップが無責任に発言することが、どれだけ国益を損ねるのか分からないのか」

 

 =考えなしに思いつきを語ってマスコミの餌食になった福田氏も福田氏ですが、自分は何を言ってもいいが他の人はダメだという小沢氏の考え方が理解できません。どこまで自己中心的、独善的なのか。

 

・平成14年6月24日産経、自由党党首、記者会見で秘書給与疑惑で自民党から処分された田中前外相の参考人招致に慎重姿勢を示し

「参考人招致で(事情を)聴くのも(疑惑解明の)一つの方法かもしれないが、疑いをもたれている人はみな呼ぶという話になる」

 

=昨年の参院選での民主党の応援演説で、田中氏は随分活躍していましたね…。所詮、その程度の「道具」だと思っているのでしょうが。

 

 …近々アップする予定の「その10」では、ようやく小泉氏の初訪朝など、まだ記憶に鮮明な時代に突入します。やっとここまで来ました。みなさん、もうしばらくお付き合いください。

 

 

 今朝、麻生首相はオバマ米次期大統領と電話で会談し、日米同盟の強化を確認したようですね。まあ、今回の電話会談は初接触であり、外交儀礼的な性質のものでしょうが、オバマ氏の登場で米国の世界戦略、外交の方向性はどう変わっていくのでしょうか。結論から言うと、驚くような極端な変化はないと思いますが、あまり日本にとって好ましくない場面も、けっこう出てくるのだろうと見ています。

 

私は前回のエントリで、米大統領選でのオバマ氏当選に合わせて、米国の対北朝鮮政策がどう変わり、それによって日本と拉致問題はどんな影響を受けるのか書きたいと言ったけれど紙面に反映されなかったという愚痴をこぼしました。すると、何人かの方から、「その記事が読みたかった」というコメントをいただいたので、本日は、その点についてちょっと書いてみようと思います。

 

 まず、12字組で45行ほど書いたものの、7~8行分しか紙面には載らなかった元の私の原稿は以下の通りです。これだって本当はこの倍ぐらいの分量は書きたかったのですが、紙面が狭いという事情を勘案してここまで刈り込んだのに、さらにこれが原型をとどめない約6分の1にまで削られたというわけです。この仕事に就いていると、こういうことは珍しくありませんが、切ないものがあります。

 

 《オバマ政権の対北朝鮮外交は、ブッシュ政権よりも融和色が濃いとみられ、拉致問題の取り扱いなどをめぐって日米間に緊張が走る場面も予想される。

 「米国では政権交代があると、新政権は前政権の政策の6~7割を否定し、違いを出そうとする。対北外交でもそれはありうる」

 外務省幹部はこう語る。北朝鮮に対しては「対話と圧力の両輪で接することが世界標準」(別の幹部)だとしても、就任当初は北朝鮮について「ならず者国家」と呼んだブッシュ大統領とは逆に、オバマ氏は「対話」をより強く打ち出してくる可能性がある。

 ウラン濃縮の検証を先送りするなど、米国内でも批判が強い北朝鮮の核施設の検証の枠組みに関する10月の米朝合意に関して、オバマ氏は「核計画放棄に向け一歩前進した」と評価してみせた。また、副大統領に就任する予定のバイデン氏は対北融和派とされ、ブッシュ政権で対北融和路線を推進したヒル国務次官補の「米議会内の後ろ盾」(外務省筋)とされる。

 「オバマ氏は拉致問題についてほとんど何も知らないだろう。日本は、問題の重要性を一から理解させていかなくてはならない」

 首相経験者の一人はこう指摘する。対北外交における日米協調を維持するには、一層の努力が必要とされそうだ。》

 

 …まあ、実際、オバマ氏は拉致問題については「白紙」なのでしょうね。上手く刷り込めればいいのですが。上の記事は、今後の見通しはけっこう厳しいというトーンで書きましたが、実際はどうなるでしょうか。まず、現在の米政権について考えると、ブッシュ氏は最終的には、ライス国務長官、ヒル国務次官補という対北融和派コンビに押し切られ、北朝鮮へのテロ支援国家指定を解除し、多くの日本人を落胆させましたが、基本的には「歴代大統領の中でも珍しい驚くほど親日的な人物」(外務省の中堅官僚)であることは事実だろうと思います。

 

 ただ、横田早紀江さんとの面会の思い出について繰り返し言及するなど、「エモーショナルな面ではおおいに理解を示すが、実際は北朝鮮問題でたいしたことはやらなかった」(外務省幹部A)という側面がありますね。プッシュ氏自身は、極東情勢はもちろん、北朝鮮について個別具体的に何かを知っていたり、見識があったりするわけではないので、結局はライス・ヒルラインにほとんど任せるしかなかったし、実態として中東方面の問題で手一杯だったということもあるでしょう。ブッシュ氏自身が拉致問題に強い関心を示し、問題意識を持っていても、その部下たちもそうだったというわけでは必ずしもないし、ましてブッシュ政権がまもなく終わるとなれば、ボスの顔色をうかがう必要も薄れていきますしね。

 

テロ指定解除に関しては、「結局のところ、福田前首相が在任中にブッシュ氏にきちんと強く解除反対を訴えなかったことが一番大きい。その間にライスとヒルに外堀も内堀も埋められてしまった」(元政府高官)という見方もあります。福田氏は「昨年の日米首脳会談でもブッシュにこの件についてちゃんと話したと語っていた」(中山恭子首相補佐官)という情報もありますが、これに関するやりとりは会談後の記者ブリーフでも伏せられていました。「そもそも会談時間も短かったし、ブリーフもされないというのは、言ったとしてもたいしたことは言っていないのだろう」(同)という意見には説得力を感じます。

 

 では、これがオバマ政権になったらどうなるかに関連するのですが、私が注目していることの一つが、ヒル氏の処遇です。ヒル氏はブッシュ共和党政権で働いているので共和党系かというとそんなことはなく、米国務省の官僚の多数派と同じく「もともと民主党のシンパ」(外務省幹部B)です。そして、上の記事に書いたように、オバマ政権で副大統領に就任するバイデン元上院外交委員長にとても近い存在なのです。

 

 このバイデン氏に関しては、福井県立大の島田洋一教授が面白い比喩を使っていたので真似をさせてもらうと「米国の加藤紘一衆院議員みたいな人物」と言えます。対北朝鮮融和派だとは記事でも書きました(産経紙面には載っていませんが)が、「北朝鮮だけでなくイランでもイラクでも世界中どこに対しても融和派」(外務省幹部A)と位置づけられている存在です。外交は素人といわれるオバマ氏が、現実に外交政策の舵取りを行う際に、バイデン氏の意見・主張をどの程度取り入れ、反映させるのかが気になるところです。ヒル氏がバイデン氏に取り立てられる形で国務副長官に昇進するようなことがあれば、これも日本にとっては歓迎し難い事態ですが、外務省幹部Cは「それはたぶんないと思う。他国の人事は分からないが」と言っていました。さて…。

 

 ともあれ、米国の対北外交は今まで以上に北朝鮮との「対話」を重視すると見られます。北朝鮮にとってみれば、金正日総書記の体調はともかく、外交的には「いい流れだ」と考えていることだろうと思います。まあ、米民主党は共和党より「人権」重視なので、北朝鮮の政治犯収容所や飢餓の問題はそれなりに重視するでしょうし、拉致問題にも関心を一定の関心は示すかもしれませんが、北朝鮮は例によって「20万人の若い朝鮮人女性が強制連行された」などと事実無根の慰安婦問題を持ち出して相殺しようとしてくるでしょうね。

 

 ただ、現状はとみると、ヒル氏が10月頭に訪朝してまとめた米朝合意は、テロ指定解除にはつながったものの、その後すぐ開催されるはずだった6カ国協議はいまだに開催のめどが立っていません。次期オバマ政権で実際に登用されるかどうか分かりませんが、ヒル路線はそのスタート前からちょっと躓き、もたもたしている感があります。

 

 この米朝合意については、私は10月13日の産経紙面で「…河村建夫官房長官が『さらに確認すべき点が残っている』と指摘したように、日本が納得できるものではなかった。米朝合意は、北朝鮮の申告書に含まれない疑惑施設の査察には『双方の同意』が必要とされるほか、ウラン濃縮による核計画の検証は先送りされるなど『事実上、核兵器の「検証の放棄」を合意したものだ』(拉致被害者を救う会幹部)ともいえるからだ」と書いています。12日に発表された時点では、「10月8日に米国のソン・キム6カ国協議担当特使が説明のため来日した際に日本側が要求した4点はすべて取り入れられ、当初の米朝合意よりよくなった」(外務省幹部B)とされるものの、直接北朝鮮の核の脅威を受ける日本から見れば、とんでもない内容です(日本が要求した4点が何であるのかは、取材ができていないので把握していません。すいません)。

 

 さらに、ここで疑う必要があるのが、果たして米国が発表した米朝合意の内容が、本当にヒル氏と北朝鮮当局者の間で交わされた約束通りのものであるかどうかという点です。日本が米側に要求して取り入れられたという4点について、北朝鮮側も了解したかについては「米国が発表したのだから、受け入れたのだろうと思うしかない」(外務省幹部B)というあやふやさが残っています。

 

 外務省の斎木昭隆アジア大洋州局長は10月29日、訪米してヒル氏と会談し、米朝合意を文書にして確認する方針で一致し、記者団に「国際的な基準から、核の検証を行うにあたって我々が(必要と)認識していることについてはしっかりと(文書に)盛り込む必要がある」と述べました。この米朝合意の文書化については、「不十分な内容である米朝合意を追認することになる」という見方がありますし、私もその危うさは感じるのですが、別の視点もあるようです。

 

 それは、この文書化要求は、「ヒル氏が北朝鮮と密室でなれ合って適当に合意した内容を、文書化できるものならやってもらおうではないか。お手並み拝見だ」(政府筋)という、むしろ日本から米国に突きつけた「隠し剣」のようなものだというものです。実際、日本が求めた文書化を米側は受け入れたものの、北朝鮮側は案の定、難色を示し、抵抗しているようです。それが6カ国協議開催の遅れの一因となっているというわけで、文書化には、米朝なれ合いの誤魔化しを排除するという意味があるのかもしれません。

 

 面白いことに、この米朝合意の文書化や厳密な検証については、「韓国も日本側に味方してきている」(外務省中堅)と聞いています。韓国政府は米朝合意について表向き「歓迎」を表明していますが、実際は「韓国も保守政権となって、前の左翼政権とは違ってきている。また北朝鮮にタダ取りされてはかなわないと思っている」(外務省幹部A)というわけです。外交(政治)は、各国の利害や政治状況に応じて表の言動と裏の言動、本音とタテマエがいつも交錯して見えてくるので、実際ややこしいものですね。

 

 日本としては、拉致問題の解決に向けた進展は急ぎたいところですが、この北朝鮮の核問題に関しては、急げば急ぐほど北朝鮮や政権末期の米国の思惑にはまるばかりなので、この際、じっくり構えて「無理に進めない方がいい」(元政府高官)というのが正解だと思います。一方、急ぎたい側の米国は、日本が拉致問題で進展がないことを理由に延期している北朝鮮への重油支援の日本負担分について、オーストラリアに肩代わりを要請するなど、何とか事態を回転させようとしていて、いろいろと駆け引きが続いているわけです。オーストラリアはオーストラリアで、今後、この地域の問題への発言権を確保していくためにも一枚かんでいたいらしいですね。

 

 いったん書き出すと、書きたいことがあふれてきて収拾がつかなくなるので話を元に戻すと、オバマ政権はどう対応するのでしょうか。外務省幹部Aは、「エモーショナルだったブッシュ氏と違い、実務的に処理しようとするだろう。対話路線といっても、北朝鮮の言い分を『聞く』こととその通りに『実行する』ことでは全く違う。それは日本にとって悪いこととは限らない。産経新聞にとっては面白くないことが多いだろうが」と言って笑いましたが…。まあ、私も、あまり予断を持たずに今後の展開を見ていきたいと思います。

 

 一方、日本では、民主党の拉致問題対策本部が日本独自の「テロ支援国家指定」を可能とする追加経済制裁案をまとめましたね。これが民主党で正式に決定されるのかどうかは分かりませんが、こうした日本独自の対策はどんどん打ち出し、まずは自助努力を続けることが大事だろうと思います。

 

  ※追記(午後5時) エントリを投稿した後、夕刊が届いたのでチェックしたところ、朝日に「『核検証の解釈を共有』米朝高官NY協議」という記事が載っていました。ヒル氏と北朝鮮の李根米州局長が会談し、米朝合意について「解釈を完全に共有していることを確認した」(ヒル氏)とあります。さて、これで一気に事態が動き、6カ国協議開催へと向かうのか、それともまだひともめあるのか…。

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