前回の読書エントリ「最近読んだ本について・一喜一憂編」(2月22日付)から4週間がたったので、本日はまた書籍紹介・読書感想文とまいります。今回は、けっこう多忙だったこともあり、冊数はあまりこなせませんでしたが、割といい本にあたったので、それなりに充実した読書ライフを過ごせました。
まず1冊目は、非常に面白かった佐々木譲氏の「制服捜査」の続編からです。書店で見つけたときは、思わず「やった!」と声を出してしまいました。超大型爆弾低気圧に覆われ、交通網が麻痺した十勝平野のペンションに閉じこめられたわけありの人々…。警察小説なのですが、心理劇のような趣があります。個人的には、主人公の川久保巡査部長にもっと活躍してほしかった気もしますが。
次に、帯の文句にひかれて初めて(たぶん)石田衣良氏の作品に手を出しました。文庫になっていたことだし。会社を辞めて、投げやりにプロデュース業を始めた元大手広告代理店社員が、同世代の依頼者たちとかかわっているうちに、いつのまにか自分自身立ち直り、希望を見出すというストーリーです。キャッチフレーズは「40歳から始めよう」。まあ、自分自身、年齢と真面目に向き合わざるをえない世代になってきたわけで…。
「刑事・鳴沢了」シリーズでおなじみの堂場瞬一氏の新シリーズだということで迷わず手にとったのですが、目次裏の登場人物紹介を目にしてちょっと驚きました。いや、別にたいしたことではないのですが、主人公の失踪人捜査課三方面分室の高城賢吾警部の上司の名前が阿比留真弓室長で、部下の一人の名前が醍醐塁(るい)というのです。いや、ただそれだけなのですが…。
ストーリーは過去に心に傷を負い、アルコール漬けになっていた主人公が、警視庁の厄介者が集められたお荷物部署に異動し、行方不明者を捜すうちに少しずつ立ち直り…というものです。やはり、この手の話を時代が求めているのか、あるいは私がたまたまそういう本が好きなだけなのか。
今度は上下巻で、かなり読み応えがあり、いろいろと考えさせられました。これまた主人公は43歳という設定で私と同年齢ですが、ヒラ記者の私と立場はずいぶんと異なり、作者がかつて勤務していた文芸春秋社をモデルにしたらしい出版社で総合週刊誌の編集長を5年近く務めており、翌年には社の看板月刊誌の編集長に抜擢されます。
その「勝ち組」の主人公の日々の仕事、政治家との駆け引き、女性関係、社内人事、胃ガン体験、幼子をなくした記憶…にからめ、マザー・テレサの手記、大英帝国の政治家、グラッドストンの奴隷制度論、ミルトン・フリードマンのインタビュー、仏陀の「ノコギリの譬え」、神秘体験を語る宇宙飛行士たち、ポール・クルーグマン …などの言葉がちりばめられ、読ませます。作者が展開する格差論と社会論について、ただちに納得したわけではありませんが、大きな考えるヒントを与えられた気もします。
最後に、時代小説を一冊。この作者の作品を読むのは松本清張賞を受賞した「銀漢の賦」以来2冊目ですが、しみじみといいですねえ。九州・福岡藩の支藩、秋月藩を舞台に、藩政改革を志した青年武士の老境に至るまでを描いたもので、ただただ堪能しました。いつの時代も人の世は変わらないのだろうという思いがします。
さて、本日は午後から出社して原稿を書いたり、雑用をしたりしないといけないので、ここまでとします。「読書は、他人にものを考えてもらうことである。本を読む我々は、他人の考えた過程を反復的にたどるにすぎない。(中略)一日を多読に費やす人間は、しだいに自分でものを考える力を失っていく」(ショーペンハウエル「読書について」)と言いますが、私のような怠惰な人間は読書でもしないとモノを考えることをしないので、やはり読書は貴重です。第一、楽しいし。