2009年04月

 

 本日午前中、短時間ながら20日まで訪米していた安倍元首相の話を聞く機会があり、こんな話を仕入れてきました。それは、安倍氏がリービー米財務次官(テロ・金融犯罪担当)と朝食をとりながら意見交換をした際に、「日米両国が連携して北朝鮮への金融制裁を検討し、強化していこう」という考えで一致をみたという内容でした。

 

 リービー氏は、ブッシュ前政権時代から引き続き財務次官を務めていて、米国が2005年9月のマカオの銀行、バンコ・デルタ・アジア(BDA)を「マネーロンダリング関連企業」に指定して米銀との取り引きを禁止し、北朝鮮関連口座が凍結された件を主導した人物だそうです。また、昨年の米国による北朝鮮のテロ支援国家指定解除についても、猛反対したとのことでした。

 

 北朝鮮に対する制裁措置はいろいろありますが、一番効果があるのがこの金融制裁だとされています。安倍氏とリービー氏はこの問題で日米が協力していくこと、また、日本から金融問題の専門家チームを米国に派遣して、両国が連携して何ができるかを探るアイデアなどについて話し合ったといいます。

 

 まあ、これでただちに両国政府が動き出すのかどうかはまだ分かりませんが、安倍氏は本日午後、麻生首相に会う予定があるとかで、「この件についても話してきたい」ということでした。

 

 私としては、日本独自でできること、米国をはじめ世界各国を巻き込みながらやるべきことの双方、いや、文字通り八方手を尽くして北朝鮮に対峙していくべきだと考えます。安倍氏によると、やはり訪米中に会談したアーミテージ元国務副長官は「金正日総書記(の健康状態)は相当弱っている」との観測を述べていたそうです。

 

 北朝鮮は長距離弾道ミサイルを発射して「花火、花火がはじけた!。太陽節のこの瞬間を待って美しさと神秘の軌跡を載せた朝鮮の祝砲がその壮快な砲門を開いた」(労働新聞)などと舞い上がっていますし、当面、6カ国協議にも出てこないでしょう。日本政府は無駄と知りつつ、北京の大使館ルートなどを通じ、定期的に拉致問題をめぐる日朝交渉再開などを呼びかけることでしょうが、しばらくは無視されるだけだとみています。

 

 ただ、そういう時期だからこそ、日本としても着々と次の一手の準備を進め、対北包囲網づくりにせっせと励むべきだろうとも思います。北朝鮮は、今度は日本の現実的脅威であるノドンミサイルの発射を準備しているのではないかという観測もあります。日本も、敵基地攻撃能力の保持や集団的自衛権の政府解釈変更の問題も含め、やれることは何でもやるという姿勢でことに臨んでほしいと思う次第です。

 

   

 

   

 

 きょうの東京地方の気温、空気は春というより初夏のそれでした。国会や外務省周辺の木々も日に日に葉の勢いを増して生い茂り、目を楽しませてくれます。毎年繰り返される四季の営みが、実にありがたく感じられます。

 

 今朝の産経は、数日遅れとはなりましたが、民主党の鳩山由紀夫幹事長がインターネットの動画サイト「ニコニコ動画」で、永住外国人への地方参政権付与に関連して「日本列島は日本人だけの所有物じゃない」と発言したことを小さく取り上げています。ここ数日、ネット上では非常に大きな話題となっていた問題ですね。

 

 まあ、もともと鳩山氏は「永住外国人への地方参政権付与は民主党の結党以来の悲願」としてきた人です。また、民主党は小沢一郎代表も菅直人代表代行も輿石東参院議員会長も岡田克也副代表も前原誠司副代表も、執行部はみんな外国人参政権付与賛成派ですし、鳩山氏がその推進にこだわることは不思議ではありません。ただ、「日本人だけの所有物ではない」という言葉の真意というか、つまりは何のことを言っているのかが私には理解できませんでした。そこで、まず関連部分のテキスト起こしを読んでみました。

 

 (視聴者から)永住外国人地方参政権付与問題、日本人にどういうメリットがあるのか

 

鳩山氏 私は日本人が自信を失っていると。自信を失うと、他の国の血が入ってくることをなかなか認めないという社会になりつつあるなと。それが非常に怖いと思っている。むしろ、定住外国人の話などは、税金を彼らが納めてるわけですよね。地域に根が生えて一生懸命頑張ってる人たちがたくさんいるわけです。度量の広さをね、日本人として持つべきではないかと。

私は何か、今まで普通の人と逆みたいな言い方をするかもしれませんけども、自信があれば、もっと門戸を開いていいじゃないかと。いずれにしてもこの国はですね、出生率1・32とか低いところにあるわけですから、この出生率の問題だけ考えても、もっと海外に心を開くことを行わないと、世界に向けても尊敬される日本にならないし、また日本の国土を守ることもできなくなってくると。そう思っていますから。私は、定住外国人の参政権ぐらい、当然付与されるべきだと。そう思っています。ただ、民主党のなかにも結構根強い反対論があります。

 

 少し整理しないといけないのは、地方参政権と国政参政権は違うということですよね?

 

鳩山氏 一応、違うと考えて…当然、地域に根ざして頑張ってる。彼らが地域の行政、参政をする、参画をする必要があるのではないか。ただ、国政になると、まさに国益の議論をもっと深刻に議論しなければいけないときがあると思うので、そこまでいま広げる必要はないと。そう思ってます。

 

 責任取れないことを軽々しく言うな、という書き込みもある。

 

鳩山氏 もっと日本人として自信を持たないとダメですね。

 

 つまり、日本人としての自信があれば…

 

鳩山氏 アメリカなんかそうでしょ? アメリカの良さはそういう度量の広さ、色の白黒の問題もありますけども…そういった方々を全部乗り越えてね…

 

 「自信のあるなしの問題ではない」との書き込みも…

 

鳩山氏 だから、みんなそういう風に言っちゃうんですよ。でも、自信のあるなしの問題なんですよ。自信があれば、もっと度量を広く持てば、日本列島は日本人だけの所有物じゃないんですから。もっと多くの方がたに参加してもらえるような、喜んでもらえるような、そんな土壌にしないとダメですよ。

 

 門戸を開放することを脅えてるのが自信がないからと?

 

鳩山氏 そうですそうです。

 

 それぐらいの余裕が必要だと?

 

鳩山氏 当然です。私は友愛という言葉を使いましたが、自立と共生、一人ひとりがもっと自立していけば、他者と考え方が違っても、それを認められる。自分に自信がないと、自立してないと、他者を認められないという世の中になっちゃう。もっと私は、自分自身をそれこそ成長させながら、その中で他者を、違うことをむしろ喜び合う、という世の中にしていかないと、世界はまったく平和は維持できませんよ。

 

 でも、ユーザー内では反対論が多いようだ。

 

鳩山氏 だから、いつかは私は分かってくれると思いますよ。

 

 何がかみ合わないのか。ユーザーは何が聞きたいですか?書き込みいただければ。…「分かりあいたくもない」と…

 

鳩山氏 だからね、そういうふうに排他的に考えちゃうんだよね。もっと心を開かないとね。うん。

 

 この形のなかで居心地がいいということではいけないと?

 

鳩山氏 今の日本で、ほんとに居心地がいいんでしょうかね? 私は必ずしもそう思わない。日本人がアメリカに何か憧れたりするわけでしょ? 私は例えばオバマ大統領を生んだアメリカってのはすごいと思いますよ。絶対にそのようなことは日本では起こりえないですよ、今のような発想では。もっともっと心を広く持たないと。仏教の心をね、日本人が世界でもっとも持っているはずなのに、なんで他国の人たちが、地方の参政権一つを持つことが許せないのかと。少なくとも、韓国はもう認めているわけですよね。彼らが認めていて、我々が認めないというのは非常に恥ずかしいと思う。

 

 鳩山さんは日本を愛していないのか、という書き込みがある

 

鳩山氏 それはまったく逆じゃないですか? 日本人であることに誇りを持てば、受け入れられるんですよ。日本人であることに誇りを持たないと、逆に主張できない

 

 まあちょっと…質問もないようなので…ご意見はあるようだが。質問ないようなので次の問題に…(了)》

 

 …やっぱりよく理解できません。まず、税金を納めていることと、参政権は別の話ですね。在日韓国人の人だってさまざまな地域の行政サービスその他の恩恵は受けているわけで、税金を払う対価は得ています。また、突然「度量の広さ」を示せと言い出すことにも飛躍を感じます。そしていきなり「アメリカなんてそうでしょ」と述べていますが、文脈がつながりません。これは米国では外国人に参政権を与えていると言いたいのかどうか。

 

 さらに、出生率の話もどうつながるのか。在日韓国人に地方参政権を付与すれば、どうして日本人の出生率が上がるのか。いつのまにか、話が移民受け入れの話とこんがらがっているように受け取れます。その上、これまた何を指すのか分からない仏教の心まで持ち出されると、こちらの頭も混乱してしまいます。これは寛容さとか慈悲のことを言っているのでしょうか。だとすると、鳩山氏は在日韓国人に参政権を与えることは慈善行為か奉仕の類だと考えているのか。わけがわかりません。

 

 そこで本日は、外国人参政権問題に詳しい日大の百地章教授に、鳩山発言についてどう思うかミニ・インタビューを試みました。以下がそのやりとりです。

 

 《 鳩山氏の「日本列島は日本人だけの所有物じゃない」発言を聞いてどう感じたか

 

 百地氏 何という稚拙な議論だろうかと思った。近代国家、領土、主権の意味が何も分かっていないのではないか。現在、無主の地を除けばすべての土地は各国の領土として主権が及んでいる。日本列島はまさに日本国のものだ。それを無視して外国や外国人が勝手に利用することなどありえない。そもそも、鳩山氏のいう「所有物」とはどういうことなのか。日本列島を所有するという議論はそもそも成り立たないし、何を言っているのか意味不明だ。「みんな仲良くしましょうね」というだけのバカバカしいノーテンキな子供の議論だというしかない。

 

  鳩山氏は、日本人の自信の問題だとも言っている

 

 百地氏 どうも、外国人もどうぞ日本においでください、ご自由にどうぞという議論のようだが、そこには主権という概念が全くない。外国人が自由に出入りできるような国はないし、ましてや選挙権を自由に認めている国家なんてない。鳩山氏の言う通りにすれば、日本人は日本人としての自覚を失い、ますます自信を喪失するのではないか

 

  大事な点として、韓国の国会で成立し、現在大統領の決裁待ちの公選法、国民投票法などの改正案の存在がある。これは在日韓国人を含む在外居住の国民に国会議員(全国区比例代表)の投票権を与えるというもので、これが実現し、なおかつ日本でも地方参政権を持つとなると、二重に投票権を行使できることになる

 

 百地氏 二重選挙権なんて世界の国々では基本的にありえない。それを認めようという話なんてありえないことで、バカバカしすぎる。情けないの一言だ。例えば、EUのような特殊な地域を見ても、フランス人がドイツ国内で地方参政権を行使する場合はフランスでは選挙権を行使しないのが原則だ。韓国で法案が通れば、永住外国人の地方参政権はますます認める必要はない

 

  鳩山氏は米国のあり方をほめてもいる

 

 百地氏 鳩山氏が米国に行って、自分にも選挙権を与えて自由に行使させろと主張するのであればともかく…。》

 

 百地氏はひたすら呆れてまともに論じるに値しないという感じでしたが、それでも私の電話インタビューに応じてくれました。百地氏の結論は、「鳩山氏は、たまにいいことも言うけれど、バカバカしいことを言い過ぎる」というものでした。まあ、それでも、鳩山氏もポスト小沢候補の一人であり、つまりは次期首相候補の一人でもあるわけですからねえ。なんだかなあ。

 

 

 14日のことですが、ノンフィクション作家の上坂冬子さんが亡くなりましたね(産経紙面での死亡記事掲載は昨日)。私は電話でコメントをいただいたことが1、2度ある程度で、個人的には特に縁と言えるようなものはありませんでしたが、歯切れ良く明確なご主張にはいつも感服していました。また、北方領土返還運動をめぐっては、自ら国後島に本籍を移して問題提起されたことでも有名ですね。

 

   

 

 私の自宅の本棚には、上坂氏が今からちょうど14年前、戦後50年にあたる平成7年の4月20日に出版した「償いは済んでいる 忘れられた戦犯と遺族の五十年」という著書があります。私もこの年、産経紙面で「声なき声語り継ぎ 戦没者遺族の50年」という連載を担当し、上坂氏には遠く及ばないものの、いわゆるB・C級戦犯とされた人たちのご遺族を何人も取材したので、特に心に残る本でした。

 

   

 

 ですので、本日はこの本の中から、私がアンダーラインを引いている部分を少し紹介し、上坂氏の追悼に代えたいと思います。なにせ14年前に読んだときのものなので、どういう気持ちで線を引いたのかは覚えていませんが…。

 

   

 

 《戦後五十年にさしかかったころから、日本の戦後補償問題がしきりに取り沙汰されるようになっています。

 なかには日本がいかにアジアで悪事を働いたか、しかもそれに対して何の償いもせず、いかに罪の意識に欠ける国民であるかと口走る人もいるようです。

 しかし、戦争というのは何の償いもせずに済ませられるような簡単なものではありません。

 五十年といえば長い年月なので、日本が戦争直後に戦勝国のいうなりにお詫びや償いをさせられてきたことを忘れてしまった人がいるのでしょうか。あるいは若い人のなかには、自分が生まれる前に日本がどんな思いで償いをさせられたか知らない人がいるのかもしれません。

 忘れた人は思い出し、無知な人は勉強すべきです。》

 

   

 

 《日本はかけがいのない人の命をもって、戦後にお詫びや償いを済ませてきました。

 何よりの証拠に、戦犯絞首刑終了と引き換えに、戦勝国はサンフランシスコで平和条約を結んだではありませんか。》

 

   

 

 《日本国内で戦犯として処刑された人は、東条首相をはじめとする七人のA級戦犯だけではありません。

 同じ場所で同じようにしてBC級といわれる名もない五十二人の兵たちが絞首刑に処されました。ほかに一人、法廷のあった市ケ谷の庭で深夜に銃殺刑になっていますから、全部で六十人の命が奪われたことになります。

 外地では中国・上海、あるいはシンガポール・チャンギー、その他南の国々や島々の片隅で裁判とは名ばかりのあわただしい捌きを受けて処刑された人々がいますから、すべてを合計すると千六十八人の方々が平和になってから命を奪われたとされています。》

 

   

 

 《長い間、戦争犯罪人とか戦犯裁判など英語の直訳がそのまま使われてきたので私もうっかり同じ言葉を使いましたが、私は戦犯を俗にいう犯罪者とは思わないし、あの裁判も裁判とは認めません。

 なぜなら、戦犯といわれる人が敗戦国にだけいて、戦勝国に一人もいないというのが納得できないからです。また法廷では裁く側に戦勝国の人々がズラッと並び、被告席に座ったのは敗戦国の日本だけだったからです。》

 

 …前述の連載当時、私が複数の遺族から取材した「戦犯」処刑者の残した言葉には、こういうものがありました。今も強烈な印象が残っています。

 

 《力は主人公にして正義は召使人なり》

 

 《起訴理由にある数件が自分には全然関係ないので上訴したがとり合つてもらへず…(中略)…死ぬる身は幸なれど後に残る妻のなげきを思へばせつなし》

 

 《夫婦親子の愛尚不滅不死にして魂は常に相通じてゐる事を確信する。〝只愛のみよく死に勝つ〟》

 

 《今刑死するは人類最大の破廉恥を犯した如く田舎の御両親を初め思はれるかも知れませんが、私は俯仰天地に恥ぢるが如き行為は絶対に有りませんから信じて御安心ください》

 

 《(起訴状を見て)良くこれ程嘘を作りあげたものだと、感心せざるを得ない》

 

 《毎回証人の無き予実(ママ)を捏造せる偽証の陳述を聞いていて終には出たらめを云うなといいたくなって来た》

 

 《全然自分等の知らぬ、見たこともなき者を証人として喚問してくるやりかたの浅ましき事》

 

 《(飛行艇で裁判が行われる香港に移送される途中)遅き山桜の白い花を散見した。別れ惜しき美しき桜の咲く国日本よ》

 

 《九月二十八日(死刑宣告)

 春ヲ待ツ焼野ガ原ニ時雨打ツ 夜風ニ人知レズ散ル山桜

 十月十日

 獄ノ中コホロギハ我ヲ故郷(クニ)ニヤリ

 十二月九日

 我ガ父母ニ言ノ葉告ゲヨ初燕》

 

 …原稿を泣きながら書いたのは後にも先にもこのときだけでした。当時、取材した一人で、自身も10年間、巣鴨拘置所で過ごし、約800人の「戦犯」の体験談を集めた福岡千代吉氏は、「多数の処刑者が出たのは連合国の秘密裁判のせいで、処刑された人の三分の一は明らかに冤罪だ。(戦争裁判の記録を米国を除き各国が公開していないのは)あまりにでたらめで、公開できないのでしょう」と語っていました。福岡氏によると、戦犯処刑者は上坂氏が書いている千六十八人のほか、少なくとも百八人の存在が判明しているとのことでした。

 

 話は少し飛びますが、日ごろ外務省を取材していてよく聞く言葉の一つに、「表面上はどうあれ、国連安保理常任理事国5カ国は根っこのところでつながっていて、その結束は固い」というものがあります。彼らは「戦勝国クラブ」なわけだし、戦勝国の利益を確保する形で戦後秩序をつくってきたわけですから、それも当然だろうと思います。

 

 その構図にくさびを打ち込んだり、ひっくり返したりするのはなかなか難しいでしょうが、少なくとも、上坂氏が言うように、日本が払ってきた犠牲、運命に翻弄されて尊い命を失った人々のことを忘れてはいけないと思います。上坂氏の死去のニュースを聞いて、改めて、そう心に刻みました。

 

   

 

 これからの時代に新聞は本当に生き残れるのか。生き残るためにどう変わらなければいけないのか。あるいは、新聞というメディアが消滅するか、ミニコミ紙のようになって細々と存続している社会にあって、情報はどう流通し、集約されるのか。新たな社会の中で、記者という職業はどう位置づけられるのか。ぐっと卑近な話になって、会社がつぶれたらどうやって食べていくか…などと、日々ぐだぐだと悩みながら、とりあえず目の前の仕事をこなしています。

 

 このブログのコメント欄、TB欄にもたくさんのマスコミ批判が寄せられていますし、「マスゴミ」という言葉もすっかり普及したように感じています。サラリーマン記者としても、重く受け止めざるをえませんし、己の非力さ、また無能さに焦慮を覚え、煩悶するわけですが、なかなかすっきりした回答は見つけられません。

 

 そこで本日は、長距離弾道ミサイル「テポドン2号」改良型の発射実験を行った北朝鮮のメディアの卓越した秀逸な文章表現技術に学び、新聞の未来を探ろうと思い立ちました。…というのは冗談ですが、北朝鮮の放送や新聞に出てくる開き直った何でもありの記事を読んでいて、その表現手法に興味を覚えた次第です。ラヂオプレス(RP)の訳によると、14日付の労働新聞は、ミサイル発射に対する日本と世界の反応について、こう論評しているそうです。

 

 「反共和国ヒステリーを起こし、無分別に狂奔している」

 

 「カエルが合唱するように『脅威への対応準備』『ミサイル基地に対する先制攻撃検討』『核武装化に対する論議進行』だの何だのと騒ぎ立てている」

 

 「日本は分別をなくして東西南北も分からず、火を見た牛のように狂奔している」

 

 「いま、わが方の平和的な人工衛星発射の成功について、世界が喜び、歓迎している」

 

 「世界がこのようにわが方の人工衛星発射を認定し、共感しているのは、それがわが方の合法的権利であり、強国の威容の誇示となるためである」

 

 「彼ら(日本)の妄動は、一種のヒステリー発作症であり、極度の対朝鮮敵対意識、被害妄想症の表れである」

 

 「わが方の人工衛星が成功裏に発射されたというニュースが伝えられるや、日本国内では当局者らに対する非難の声が溢れた。内外から追い詰められ、苦境に陥った日本当局者らは赤面して恥をかきながら、国民に謝罪せざるを得なかった」

 

 「日本反動らが、世間が認めるわが方の人工衛星発射についていまだに騒いでいるのは、ニワトリを追いかけていたイヌが塀を見上げるように見ているだけであった哀れな境遇の表れであり、泥沼にはまった自分らの体面を少しでも立てようとする愚かな行為である」

 

 「初歩的な理性さえ失った日本反動らは、わが方が人工衛星を発射すれば『迎撃』することを国策として宣布し、『自衛隊』に『北朝鮮衛星破壊措置命令』まで下した」

 

 「わが方にはそのような(日本の)行為が、腑抜けた者、恐怖におののいた者らの下品で不愉快な醜態にしか見えない。世界がどのように動いているのかも理解せずに慌てふためいている日本反動らの行為は、一言で言ってみっともない」

 

 「わが方をどうにかしようとする日本の妄動は、子犬がトラの恐ろしさを知らずに飛び掛かるようなものである」

 

 「イヌがほえても、走っている列車は停まりはしない」

 

 …とりあえず、カエル、牛、ニワトリ、イヌ、子犬、トラと、北朝鮮が比喩表現で動物を持ち出すのが大好きであることが分かりました。しかしまあ、こんなものを読まされている北朝鮮の人たちはどう感じているのでしょうね。生まれたときからこんなだから、当たり前になっているのかどうか。何が悲しくて北朝鮮のミサイル発射に世界が喜び、歓迎しなくちゃならんのか。

 

 また、朝鮮中央放送と平壌放送は8日、「朝鮮人民軍総参謀部報道」としてこんな内容のことを伝えています。

 

 「被害妄想症にかかり、わが方が衛星を打ち上げる前に『衛星を発射した』という虚偽の報道を流して世界の人々から笑われ、恥をかいた日本反動らが、いまや分不相応に、わが方の衛星運搬体から分離した部品(単数)を探すということ自体が、宇宙に飛び立つ衛星を、ニワトリを追いかけていたイヌが塀を見上げるように見ているだけであった哀れな境遇の表れであり、泥沼にはまった自分らの体面を少しでも立てようとする笑止千万かつ愚かな行為にすぎない」

 

 …労働新聞でも見た「ニワトリとイヌ」のたとえがここでも出てきました。してみると、これは北朝鮮でよく使われる慣用表現なのでしょうか。ある意味、どこか牧歌的な印象もありますが、これは日本の新聞じゃちょっと使えないなあ。イヌがニワトリを追いかけている光景など見たことないし。やっぱり、相手にしないのが一番か。

 

 写真は、経済産業省の前庭を撮ったものです。新緑がまぶしい、いい季節となりました。

 

 

 

 本日、夕刊当番のため会社に上がったところ(当番日をすっかり忘れていて遅刻しました。関係者のみなさま、迷惑をかけてすみません)、日本教育再生機構の機関誌「教育再生」の4月号が私の郵便受けに入っていました。この雑誌は再生機構のサポーターや地方教育関係者などに配布されるもので、発行部数は3500部とのことでした。ですので、あまりみなさんの目に触れることはないと思いますし、その中でちょっと興味をひかれた記事があったので、一部引用して紹介しようと考えました。

 

 それは、「民主党政権で大丈夫か? われら若手議員がお答えします」と題した特別座談会で、長島昭久、笠浩史、鷲尾英一郎の3人の衆院議員が、再生機構理事長の八木秀次高崎経済大教授の質問に答える形をとっていました。この3人は民主党内の若手保守派なので、応援したい気持ちはありますが、民主党政権が誕生した後、果たして彼らの言うようにうまくいくのかどうかという疑問も禁じ得ませんでした。ともあれ、以下がその座談会から、私が特に興味を覚えた部分の引用です。

 

(前略)

 

八木氏 私は民主党政権でも外交、安全保障、経済、社会保障はさほど心配していませんが、教育や歴史認識、日本人の文化、精神性にかかわる分野については非常に危惧しています。自民党内の左派は利権左派だったり心情的リベラリストですが、民主党内の左派はマルクス・レーニン主義であり、職業左翼、本物の左翼市民活動家です。村山談話の制定過程を見れば分かるように、本物の左翼を抱えた政権は、本物の左翼が巧妙に工作します。彼らが政権を離れた後も残るようなものを仕込みます。

 

笠氏 日本国教育基本法案(阿比留注、教育基本法改正案に対する民主党の対案)をまとめたときに、主要メンバーの中に日教組出身の議員がいましたが、激しい議論の末に理解を得ることができました。きちっと説得していくことが大事です。

 

八木氏 略

 

鷲尾氏 (前略)八木先生が民主党政権を危惧していらっしゃるのは左翼による工作を受けやすいという理由ですが、確かに、われわれの知らないところで分からないところから意見が出て、INDEX(阿比留注、「民主党政策INDEX2008」。参考、私の08年10月15日のエントリ「なぜか外務省記者クラブで配布される民主党政策INDEX」(http://abirur.iza.ne.jp/blog/entry/755808/))に載ってしまうということは今でもあります。これは非常に怖いと思います。

 

笠氏 略

 

鷲尾氏 民主党は慰安婦問題を「解決」するという「戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法律案」をこの10年間ずっと提出し続けています(参考、私の07年3月15日のエントリ「慰安婦問題・こんな人を参院副議長になんかするから…」(http://abirur.iza.ne.jp/blog/entry/133974/)と同年3月27日のエントリ「突っ込みどころ満載の朝日夕刊と江の傭兵」(http://abirur.iza.ne.jp/blog/entry/141017/))。私も知ったのが遅かったのですが、今レールに乗っているものも含めて新たな枠組みをどう作るかを検討したい思います。

 

笠氏 そのような問題に対して、民主党が政権を取ったときにどういう仕組みで意思決定していくのかは非常に重要だと思います。今までのように、ある日突然INDEXに載るということでは取り返しのつかないことになります。

 

鷲尾氏 略

 

長島氏 略

 

 八木氏 民主党の危うい点を根本的に解決するには、日教組などの左派勢力との関係を清算するしかないのではないでしょうか。元山梨県教組委員長の輿石東参院議員会長は1月14日に、日教組の新春の会合でのあいさつで「教育の政治的中立はあり得ない」と、教育基本法や教育公務員特例法に反する発言をしました。「私も日教組とともに戦っていく。永遠に日教組の組合員であるという自負を持っている」とも言っています(参考、09年1月14日の私のエントリ「民主・輿石氏『教育の政治的中立などありえない』」(http://abirur.iza.ne.jp/blog/entry/872741/))。

 

 笠氏 民主党の日本国教育基本法案にも政治的中立は明記されているですがね。

 

 鷲尾氏 参院議員会長おひとりの考えでどうこうなるという話ではありませんから…。

 

 長島氏 日教組という自分の縄張りで、組合員を鼓舞するために言ったんでしょうね。

 

 笠氏 私は日教組を擁護するつもりは全くありませんが、地元で日教組の組合員と個人的に話していても「国旗・国歌の強制」といったイデオロギーを話題にする人はおらず、学校現場の現実的な問題点の改善の話ばかりです。日教組は力がなくなって、一部の人があせって過激な発言をしているんです。現場の先生たちは、特定の地域以外は現実主義者ですよ。

 

八木氏 略

 

 鷲尾氏 略

 

 長島氏 略

 

 鷲尾氏 最後に保守層の皆さんにお願いがあるのですが、民主党だからといって自治労や日教組お抱えの議員とは限りません。私たちは自治労からも日教組からも推薦をもらっていません。そういう民主党議員もいると知っていただき、われわれが出す結果を見守っていただきたいと思います。(後略)

 

 …さて、3人とも、輿石氏に対して突き放した姿勢をとっているのは歓迎しますが、この3人はみな衆院議員ですから、参院側とは空気が違う部分もあるのでしょうね。笠氏は「日教組は力がなくなって」と言っていますが、民主党の「次の内閣」には、副首相の輿石氏のほか、外相として鉢呂吉雄氏、子ども・男女共同参画担当相の神本美恵子氏と計3人もの日教組の組織内候補議員が入っており、本当にそんなに過小評価していていいのか。鳩山幹事長も「日教組の皆様方とともにこの国を担う覚悟」だと表明していますしね…。

 

 鷲尾氏が「戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法律案」に警戒心を示すのも同感できるのですが、民主党で同法案を主導した本岡昭次元参院副議長は一昨年、朝日新聞のインタビューに「政権交代したら、真っ先にこの法案が実現するんですよ」と自信たっぷりでしたし、私自身、この座談会を読んでいて懸念を払拭するには至りませんでした。

 

 ただ、民主党が政権を取った場合、こういう保守系の議員たちに頑張ってもらわないと、取り返しのつかないことになってしまいますから、心からエールを送りたいと思っています。この人たちが、最後の砦なんですから。

 

ラヂオプレスによると本日、北朝鮮の朝鮮中央放送・平壌放送は「わが国が参加する6者会談は、これ以上必要がなくなった。6者会談はその存在意義を取り返しのつかないほど喪失した。そのような会談に二度と絶対に参加しないであろうし、6者会談のいかなる合意にもこれ以上拘束されないであろう。わが方はやむなく核抑止力を一層強化せざるを得ない」などとする外務省声明を流しました。

 

北朝鮮の言葉の一つひとつに反応するのは、相手の術中に自ら陥るようなものなので、あまり相手にする気にはなれませんが、いずれにしろ北東アジアの緊張状況は当分続きそうです。そういう中で、北朝鮮の言い分にもっともだと頷き平身低頭し、好んで利用されるような政権だけは勘弁してほしいですね。

 

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