鳩山政権が「国際公約」として、2020年に温室効果ガス排出量を1990年比で25%削減することを掲げている問題について、今朝の産経は2面で「温暖化試算〝お蔵入り〟背景は… 有識者会議 数値めぐり『対立』『暗闘』」「政治迎合『学者生命かかわる』」という記事を掲載していました。25%削減が家計に与える影響を検討してきた政府のタスクフォース(有識者会議)が24日にまとめた試算報告書(中間とりまとめ)が、「非公表」とされた経緯について、産経の経済本部が入手した議事録などをもとに検証したものです。
この問題をめぐっては、麻生前政権は今年3月に「1世帯あたりの可処分所得が22万円目減りする一方で、光熱費が14万増え、計36万円の負担増になる」という試算を公表していました。これに対し、民主党側は「脅かしだ」と批判し、鳩山政権発足後、タスクフォースに再試算を依頼していたもので、それがなぜ非公表となったのか。
詳しくはイザ・ニュースにもなっているので記事を読んでいただければ分かりますが、要は5つの研究機関・大学が試算した結果の数値がバラバラで、しかも最大では前政権の試算36万円の倍以上となる76万5000円の負担増(野村浩二・慶大准教授の試算、国内で全部を削減した場合)という数字が出てきたため、国民にそのまま明らかにするのはまずいと判断したようです。
そこで私も、この「取扱注意」と記された議事録を経済本部からもらって読んでみたのですが、なかなか面白いやりとりなので、関心をひかれた部分を抜粋(全部ここで打ち直すのは大変なので)して紹介します。
植田和弘座長(京大教授) 政策パッケージについては、制度設計がどうなるか明確ではないため、今回は入れ込めなかった。そういう意味では試算に限界があった。いずれの試算においても25%削減でGDPは減少するが、国際協調によりその影響は緩和される。例えば、化石燃料の価格は低下する。オイルショックの際と同様、世界的に省エネが進むということ。石油価格が下がるが、そこで関税をかけて国内価格を維持すれば、国民負担の緩和につながる。
小沢鋭仁環境相(事務局長) 麻生政権下における、真水25%で国民負担が36万円という試算が誤りであったことがはっきりしたというだけでも、今回の試算は意味があった。77万円の負担についても、可処分所得が増えているので、トータルではプラス。世界全体で削減に取り組めば、その負担感も減少し、クレジット活用でさらに小さくなる。
福山哲郎外務副大臣 マクロフレームの設定が今回は見直されていない。われわれ(民主党)の政策を入れ込んだらどうなるかが示されなかった。このまま数値が出ていくと、国民にネガティブなイメージを与えてしまう。今後は、固定価格買い取りや新技術を入れ込んでいく必要がある。
植田氏 新技術をどういう根拠でどこまで入れるのか、R&D投資をどこまで入れるのか、その結果どのように変化するのか、これらは大変チャレンジングな課題。新しい依頼事項に応えられるように最大限努力したい。
松井孝治官房副長官 メンバーはどうするのか。
小沢氏 このメンバーでやった方がいいのか、一新した方がいいのか。
植田氏 一度リシャッフルした方が良いとは思う。
松井氏 では、そういうことで。
福山氏 結局、マクロフレームで計算すると、国民負担がマイナスになる。この数値だけを出していくと国民にいいメッセージにならない。われわれの希望もマクロフレームに織り込んで、たとえ「夢」と言われようとも、メッセージを出していく。次の検討では、前向きな話をきっちり入れていくべき。
小沢氏 中間とりまとめの発表の仕方はこのあと考えるとして、新しい試算については、2月ごろに何らかの結果を出すということでよいか(→了解)
松井氏 本日は植田先生からタスクフォースの中間とりまとめをいただいた。発表の仕方は、小沢事務局長に決めていただくこととする。
菅直人副総理・国家戦略担当相 試算がなかったことにするのは難しい。むしろ、これからイノベーションや新産業について入れ込んだ新しい土俵で、試算するように依頼したということを強調して言おう。
…このタスクフォースの会合終了後、小沢環境相は記者団に次のように語りました。
「今回で一区切りをつけてもらい、新たなもう一つの分析を、もっとポジティブな取り組みをしたときにどうなるのかという分析をしようじゃないかということになり、それについて私と植田先生で相談しながら、今後の方針を決めて、閣僚委員会に提案することになった。私のところでまたもう一回整理をして、発表の仕方を考えながら、きちっと整理して、これは客観性を損なうということではなく、みなさんに誤解がないような説明をしないといけない。次回は、われわれ政権が本当にやりたいと思っているものを仮想的に取り入れたときにどうなるか、そういう試算をしたい。民主党が、鳩山政権がこういうことをやりたいという話を本当に応援してくれるみなさんとやりたい」
デ、アルカ。記事は、タスクフォースの議論に加わった研究機関の一人の「政治に迎合するようでは、学者生命にかかわる」という言葉を紹介していますが…。
今朝の日経の世論調査結果では、内閣支持率は68%と高い水準を保っており、「本当に応援してくれるみなさん」はまだまだたくさんいそうです。民主党側はきょう、党首討論や「政治とカネ」をテーマとした衆院予算委員会での集中審議などに応じるよう求める野党側の主張をはね除け、国会を4日間だけの短期間、延長することを決めました。まあ、何がどうあろうと何をどうしようと、国民の一定の支持さえあればけっこう大丈夫なものだという政治の現実を示す一つの貴重な実例が現出しているのだなと感じています。