2010年10月

 

 さて、昨日、菅直人首相は中国の温家宝首相に会談をドタキャンされました。海上保安庁の巡視船に体当たりした中国漁船の船長を釈放し、そのビデオ映像を国民の目に触れないよう封じるなど、中国様の意向にひたすら従い、忖度し、お願いですから会ってくださいと懇願した揚げ句、これです。

 

 さすがは柳腰外交、実にたいしたものであります。鳩山政権以降、これからの日米中3国の関係は「正三角形」にしていかなければならないなどと、何の政治的・軍事的準備もなしに主張し、日米関係を戦後最悪にする一方、自称・野戦軍司令官、小沢一郎氏率いる総勢約600人の朝貢団を北京に派遣した成果が如実に表れていますね。

 

 何も大上段に振りかぶって「外交とは…」などと言わなくても、普通の対人関係でも何でも、常識で考えれば分かるだろうということが、菅政権の幹部らには理解できないようです。産経新聞も私も、多くの国民も、こちらが低姿勢に出るとつけあがるかの国に対して、焦って会談を求めると相手に主導権とカードを握られるだけだと、口を酸っぱくして言ってきましたが、ルーピー脳の人たちには通じません。

 

 中国と非公式な外交ルートを使って裏交渉し、中国語通訳も連れないまま温首相と立ち話をして、それで「すべてが元通りになるだろう」などと安堵していた菅首相ですから、今回の件もこんなものだという気もします。昨夜、政府高官は「分からない。分からない」と中国の対応に困惑しきっていましたが、やっぱり中国のことも外交も何も分かっていないようです。

 

 で、菅首相が会談実現の失敗に意気消沈しているころ、元祖ルーピーこと鳩山由紀夫前首相は、大阪市で開催された平野博文前官房長官のパーティーでこんなあいさつをしています。この人のことをいくら取り上げても、ご本人が「注目されている。また激励された」と受け取って喜ぶだけなのでどうしようかとも悩みましたが、やはりこのルーピーさ加減は記録として残すべきだと考えました。以下、抜粋です。

 

《私たちは、改革の途上です。今、ここで、その改革の炎を消すことはできない。私たちは、何のために、政権交代したんでしょうか。私は、二つの真の独立のために、政権交代したと思っている。

そのひとつは、あまりにも官僚に依存しすぎている日本の政治を官僚の手からはなして、独立させること。

もうひとつは、あまりにも国際問題、アメリカに依存しすぎたこの国を、国際的にも真に独立国だと認めてもらえるような立場にすること。この二つでございました。

この二つが菅政権に引き継がれていく中で、私たち民主党としても、せっかく政権交代をさせていただいた、皆さん方のお力に応えるべく、努力を続けていかなければならない、改めて、心にいましめしているところです。

しかし、なかなか改革は厳しい。独立を図ろうとすれば、独立を阻もうとする旧態依然の勢力が、大変強く残っているわけなので、なかなか国内的にも国際的にも、真の独立を勝ち取る、本当に難しいことだと思っていますが、こういうときだからこそ、雨天の友として、厳しいときに、ご支援いただくことが、何より、私ども政治家にとって、ありがたい。

つい先日、私も総理を辞した後、何かお役に立てることはないかと、あまり国内におりますと、迷惑かけてしまうのではないかと、そのような思いの中で、努めて海外で行動することを、努力をしているところであります。》

 

 …政権交代は、真の独立のためであり、特に米国依存を改めるためだとのたまっています…ああ…はあ…ふぅ。この人は、今は国難の時期だから、国益のために引退を撤回するとか意味不明の寝言を繰り返していますが、あなたが招いた国難であり、あなたの存在が国益を損なってきたのだろうに。この人の発想・思考は、グロテスクにねじくれているのではないでしょうか。

 

 まあ、「国内にいると迷惑をかけてしまう」というのはその通りですが。もっとも、国外に行っても迷惑なので、やはり故郷の宇宙にご帰還いただくのが一番ですね。とにかくいなくなってほしいものです。

 

 中国が「会談」をどう外交交渉で使うか、また、それにどう対処すべきか。ちょうど3年前に一つの記事を書いたので参考までに再掲します。外交は生き物だから、いつもいつも同じ手法でいいというものではないでしょうが、日本側の主張を通した一つの事例として意味はあるかと。

 

「李氏訪日」に反発 首脳会談中止通告[ 20071028  東京朝刊  1面 ]

 すり寄らぬ外交奏功 安倍氏一蹴中国折れ実現

 

 今年6月にドイツで開催された主要国首脳会議(ハイリゲンダム・サミット)での安倍晋三首相(当時)と中国の胡錦濤国家主席との首脳会談をめぐり、中国側がその直前の台湾の李登輝前総統の訪日を理由に会談を拒否していたことが27日、複数の関係者の証言で分かった。しかし、日本側が譲らず、中国側が全面的に折れるかたちで決着、会談は行われた。こうした安倍政権の遺産をどう継承できるかが、今後の対中外交の焦点になりそうだ。

関係者によると、サミット開催に合わせた日中首脳会談は、日中間の戦略的互恵関係の促進や北朝鮮問題などを話し合うため、早い段階で日本側が呼びかけ、中国も応じる構えだった。

ところが、中国側は、5月末になって会談中止を通告してきた。理由は、5月30日の李氏来日だ。中国政府は、28日の日中外相会談で楊潔外相が麻生太郎外相(当時)に李氏訪日への懸念を表明していた。それにもかかわらず、日本側が李氏の入国に何の制限も加えなかったことを問題視したのだ。

これに対し、日本政府は、「サミット正式参加国は日本だ。招待国の中国と無理して会談することはない」(当時の官邸筋)と会談の提案そのものを引っ込めた。

これにあわてたのが中国だった。すぐに「李氏は日本で講演を予定している。これを(マスコミなどに)完全クローズにするなら安倍氏と会談してもいい」とハードルを下げてきた。

それでも日本側が「会談開催に李氏訪日の件を絡めるならば、会う必要はない」という安倍氏の考えを伝えたところ、中国側は6月3日になって「条件はつけない。ぜひ会談を行いたい」と全面的に譲歩。8日の首脳会談が実現した。

李氏は7日に靖国神社参拝と講演を予定通り行い、講演では、「多くの人々が中国経済の高度成長に惑わされ、危機の存在を否定するが的外れだ」などとも語った。

日本側は「首脳会談で胡主席が、李氏に靖国を参拝させた日本を批判すると予想した」(官邸筋)。だが、胡主席は李氏の靖国参拝にさえ触れなかった。

中国側が強硬姿勢をあっさり転換したことについて、外務省幹部は「それが中国の交渉術」とした上で、「これまで日本は中国の機嫌を損ねることばかりを恐れ、相手の思惑通りに動いていた。しかし、このときは日本がぶれず、譲歩を引き出した」と振り返る。

外交筋は「安倍氏は靖国神社に行くとも行かないとも言わない『あいまい戦術』というかたちで靖国カードを保持していたので、中国も強く出られなかった」と解説する。中国としては、あまり日本を刺激すると安倍氏が反中国の姿勢を鮮明にし、結果的に、安倍氏の靖国参拝を招き、中国国内の暴動や反政府活動を誘発しかねない状況になるのを恐れたというわけだ。

政権交代後の今月11日に北京で開かれた東シナ海のガス田開発に関する局長級協議で、中国側は、改めて強硬姿勢をみせている。

こうした状況から、外務省内には「親中派の福田康夫首相に花を持たせる考えはない」との見方も広がり始めた。外交筋は、「福田首相は早々に『靖国には参拝しない』と述べ、靖国カードを手放しており、中国はくみしやすいとみている」と指摘している。(了。=簾の广を厂に、兼を虎に)

 

 

 きょうの産経は政治面で、「『恫喝』発言波紋 仙谷氏審議の火種に キャリア招致拒否→野党退席」という見出しの記事を載せています。昨日の衆院内閣委員会が、仙谷氏が15日の参院予算委員会で「(予算委出席は)彼の将来を傷つける」と恫喝した経済産業省の古賀茂明氏をめぐって紛糾し、野党が審議をボイコットしたことを報じたものです。

 

 野党はこの日の内閣委に先立つ理事会で古賀氏の参考人招致を要求していました。ところが、委員会での自民党の平井卓也氏の質疑中、荒井聡委員長が「きょうの招致は取りやめる」と発言したため、「質疑はできないので退席させてもらう」と実際に退席し、他の自民党議員や公明党、みんなの党の議員も同調したという異常事態です。

 

 これについて産経は記事で《「陰の首相」といわれる仙谷氏が「国会運営のアキレス腱」になってきた》と書き、政府・与党が目指す補正予算案の11月上旬の衆院通過が危ぶまれるようになってきたことを指摘しました。ですが、民主党には本当に危機感がないのか、事態がけっこう深刻化していることが分かっていないようです。かのルーピー氏をはじめ、本当に自分のことが分かっていない人たちばかりです。

 

 きょうの産経は同じ政治面で、同じ委員会での蓮舫氏と自民党の小泉進次郎氏の質疑も取り上げ、蓮舫氏が小泉氏に「人を指さすのはやめた方がいい」と気色ばんだことを伝えています。

 

 で、ここからが本題なのですが、以前一度このブログに登場した産経研修生、石井映四郎記者が野党議員が退席した後の委員会の模様を観察し、メモにしてくれたので紹介します。いかに彼らに危機感も緊張感もなく、だらけているかが臨場感あふれる描写から伝わってきます。以下、メモからです。

 

15時11分 自民党、公明党、みんなの党の議員が退場。退場際に「野党の要求を飲んで下さい」、「真摯にやれよ」などと言い残す

 

15時13分 閣僚席で片山善博総務相と仙谷由人官房長官が談笑。海江田万里経済財政担当相と蓮舫行政刷新担当相が談笑。(※質疑時間経過中)

 

出席者が定足数に満たなくなるため民主党の議員が席を立てなくなる。委員会を成立させるため、マスクの議員が「誰も席を立たないでください」と声をかける

 

蓮舫氏「これって質問続いてるの?」

民主党議員「続いてます」

蓮舫氏「本当にそんなことしてるの。すごいことしてるね」

 

15時18分 三日月大造氏が来て定員+1になり、みんなに喜ばれる。

 

15時22分 荒井聡内閣委員長が休憩を宣言

 

15時24分 三日月氏とマスクの議員、荒井氏がロビーで話す。

 

荒井氏「時間を止めとかないと、(野党議員が)帰ってきたとき…。(三日月氏に対し)一度呼び込みをしてきて、それでもダメなら散会」

 

三日月氏「じゃあみんな(委員会室で待っている民主党議員)に説明してきます」

 

荒井氏「いい。よけいなこと言わなくても」

 

15時31分 片山氏、海江田氏、仙谷氏は事務方も交えて談笑

 

15時39分 海江田氏が委員長席に行って荒井氏に話しかける。荒井氏が事務方を呼んで、「もう泉(健太)君にいいって言ってきて」

 

15時43分 仙谷氏出る。出る前に玄葉光一郎国家戦略担当相と話し込む。

 

15時45分 蓮舫氏「30分以上経つね」

 

海江田氏が片山氏と話しながら、蓮舫氏を指さす(蓮舫氏を話題にしている様子)。

 

蓮舫氏最悪でしょ。このおやじ!」と立って海江田氏を指さし、爆笑して席に着く。(ダラダラ感100%)

 

15時48分 荒井氏が散会を宣言。泉氏「(野党側に)出席要請するもかなわず」と民主党議員らに説明 みんなばらける

 

 …どうでしょうか。閣僚たちがとても仲が良く、うち解けた間柄であることがよくわかり、とてもほのぼのとしていて、胸が温かくなってきますね。さすがに、わが国の前途を託すにたるいずれも高潔なお人柄だなあと感嘆し、なぜだが涙もこぼれそうです。

 

 今までの国会であれば、野党が退席しても与党議員たちは席でじっとしたまま、静かに時間が経過するのを待っているというのが相場でしたが、政治の文化大革命が進むわが国では、議員たちはもっと自由と享楽を謳歌できるようになったのです。

 

 って、蓮舫さん、セクハラまがいの話でも出ていたんだか何だか知りませんが、あなたも人を指さしているじゃない。形式的には委員会が続いているのに、他の閣僚に対し、「このおやじ」と言い放つのもいかがなものかと。まあ、どうでもいい、バカバカしいことではありますが、なんだかなあ…。

 

 

 今朝の産経の2面に「那覇地検幹部の国会招致検討 西岡参院議長」というインタビュー記事が掲載されています。民主党出身の西岡武夫参院議長は産経のインタビューに対し、尖閣諸島沖の中国船衝突事件と船長の釈放問題についてこう明快に語っています。

 

 「参院議員運営委員長とも相談し、釈放を決めたといわれる検事を国会に呼んで、明快な話を聞かなければいけない」

 

 「(釈放は)検察が判断する事柄ではなく、政府の対応には全く納得できない。政府がきちんとするまで言い続けるべきだ」

 

 …いいですね。民主党は中国様のご機嫌を損ねることを心配して、中国人船長が中指を立てて海保を挑発しているシーンが映っているというビデオ映像の公開に二の足を踏んでいますが、西岡氏は気を吐いています。西岡氏は、今月5日の記者会見でもこう指摘しています。

 

 「『検察の判断だった』と政府が言い通そうとしているが、絶対言い通すことはできない。(政府が)放置するなら議長として何らかのことをしなければいけないという責任を感じている」

 

 …ぜひ検事を国会招致して、真実を述べさせてください。こういう西岡氏のような「正論」が、党内からなかなか出てこないところが、国民の民主党への失望を招いていることが、どうして菅直人首相らには分からないのか。西岡氏は、26日の記者会見でも再び下記のように訴え、政府にビデオ映像の公開を迫りました。

 

西岡氏:尖閣列島をめぐる一連の問題で、政府が検察が判断したことだと言い張るというよりも、それで通そうとしているわけで、間違ったことが、そのまま過ぎていっちゃうということは極めて今後のことにも影響するし、好ましいことではない。

政府の判断がどうだったのか、極めて政治的な問題だから、地方の検事が判断することは、あり得ないことだと確信するので、政府には改めて明快に国民に説明をしてもらいたい。そうでなかったならば、なかったと。これは明らかに法務大臣なり外務大臣なりそして総理大臣の判断だとされるべきであると思う。

非常に、問題がこじれるのを避けているようだが、こういう問題は、最初が肝心で、どんな姑息なことをやっても、問題になるときはなるわけで、現になっている

仮に、尾を引くことが分かっていても、日本の立場は明快に明らかにしておかなければ禍根を残すと思うので、私としては改めて政府に対して、そのことを明快に示されたいと要望をしたい。

 それからビデオの公開の問題だが、初めは間違いなくこれは公にすると言ったわけだ。その後、所管の委員会で理事会等でご相談になって、お決めになったことに対しては私はいろいろ口をはさむことは差し控えるが、やはりこれは明らかにしないのは、国民の皆さん方が納得されないんじゃないか。明らかにすると言われたわけだから、政府が。

 

 …三権の長である参院議長が、民主党の輿石東参院議員会長でなくてよかったと、心からそう思います。いや本当に危なかった。ただ、やはりこうした意見は党内ではごく少数派であるのか、民主党の中川正春衆院予算委員会筆頭理事は昨日、記者団とこんなやりとりをしています。

 

 記者 ビデオの一般公開、マスコミや国民への公開には否定的か

 

 中川氏 それをやって、マスコミも責任をとれるのか!

 

 記者 事実関係として、民主党は全面公開には慎重だと

 

 中川氏 そうだ。

 

 …責任をとれるのかって、一体なんなんでしょうね。おそらく日中関係が悪化したらどうするのか、という意味なんでしょうが、国民の知る権利など知ったことではないと言わんばかりの態度です。事実を知り、正しい判断の材料にしたいという国民の正当な望みなど眼中にはなく、愚民どもは黙って従えばいいという姿勢のようです。

 

 この中川氏の言葉で思い出すのは、森政権の末期、台湾の李登輝総統の訪日を認めた際のことです。あのとき、在京各紙のすべてが、社説で病気治療のため訪日する李登輝氏を受け入れるべきだと書いた際に、当時の福田康夫官房長官(親中派)は記者会見で記者達に「何かあったら、あなた方の責任だからね」と言いました。全くこの人は何を言っているんだかと呆れたのを覚えています。

 

 また、当時はまだ、自民党橋本派のバックアップがあったので力を持っていた外務省チャイナスクール(今はもう当時のような影響力、団結力はありません)の代表格だった槙田邦彦アジア局長も跳梁跋扈していました。槙田氏は、国会議員たちに盛んに「李登輝さんを日本に入れたら大変なことなる」と吹き込み、脅していました。

 

 でも、その後きちんと李登輝さんは訪日し、その後も何度も日本に来ていますが、それで日中関係は福田氏や槙田氏が恐れていたような取り返しのつかない事態になったでしょうか?全然、そんなことはありませんね。日本政府が世論の後押しを受けて進めたことに対し、中国だってそうそう口出しできないものです。

 

 外交で、相手がふっかける要求や主張を真に受け、額面通りに受け取るのは間抜けだと思います。それに慌てふためいて一方的に譲歩したり、下手に出たりすると、相手にくみしやすしとみられて付け入られるだけですね。今ごろ中国は、菅政権や民主党の対応を見て「なんて愚かな連中だろう」と腹を抱えて笑っていることでしょう。

 

 

 昨晩、都内某所で行われた安倍晋三元首相の講演を聴く機会があり、とても良いエピソードをそこで聞いたので紹介します。といっても、現在の政治の話ではありません。

 

 安倍氏が、父の故晋太郎元外相と二代で親しくしてきた日系2世の米国人に、ジョージ・リョーイチ・アリヨシという人がいるそうです。そう、1974年から1986年にかけて米ハワイ州知事を務めた人物です。安倍氏はアリヨシ氏から直接、こんな話を聞いたとのことでした。

 

 1946年(昭和21年)のこと。当時、連合国軍総司令部(GHQ)の通訳として東京・丸ノ内で働いていた20歳のアリヨシ氏は内心、葛藤を抱えていたそうです。自分は米国人であるという自覚は持ちながらも、同時に、敗戦で焼け野原となった父祖の地で働くことにすっきりしない感情を覚えていたのです。

 

 そして、それは自身へのコンプレックスとなり、白人の上司・同僚たちとすれ違うときはつい伏せ目がちになってしまったといいます。

 

 そんなときに、アリヨシ氏は靴磨きの少年と知り合い、仲良くなります。まだ7歳だという少年は身なりはボロボロで汚かったそうですが、とても礼儀正しく気持ちのいい働き者でした。アリヨシ氏はある日、その少年にちょっとしたプレゼントを贈ろうと考えました。

 

 アリヨシ氏はGHQが接収していたビルの食堂で、パン2枚にバターとジャムを塗ったサンドイッチをつくってもらいました。そして、靴磨きの少年に「お腹かがすいているんだろう。お食べなさい」と渡しました。

 

 すると少年は、丁寧におじぎをして礼を述べましたが、サンドイッチは袋で包んで道具箱にしまい、食べようとしません。そこでアリヨシ氏が「遠慮しなくていいんだよ。いま食べたらどうだい」と言ったところ、少年はこう答えたといいます。

 

 「ありがとうございます。でも、これは持って帰って3歳の妹と二人で分けて食べます。僕にはもう家族は妹しかいません。大切な妹なんです」

 

 これを聞いた若き日のアリヨシ氏は衝撃を受けました。おそらく戦災孤児である幼い兄妹が助け合い、しかも正々堂々と誇りを持って生きている。それまで自分がアジア系であること、日系であることにコンプレックスを感じていたのが、自分はこんなに立派な日本人の血を引いているのだと心底誇りに思えるようになり、白人の上司や同僚にも全く引け目を感じることがなくなったというのです。

 

 そしてそのときの体験、得た自信が、後のアリヨシ州知事をつくったのでした。

 

 ちなみに、少年の妹の名前はマリコと言い、後に再来日した際などにアリヨシ氏はずいぶん探したそうですが、見つけることはできなかったようです。

 

 …講演のエピソードはこんな内容でしたが、私は不覚にも目が潤んでしまいました。そして、現在の情けなくみっともない我が身を恥じ、反省させられた次第です。こういう兄妹をつくった昔の「教育」はやはりたいしたものだったのでしょうね。今は…。

 

    

 

 

 きょうはちょっと目先を変えて、今朝の在京各紙のベタ(1段見出し)記事・ミニ記事の中で、私が興味深いと感じたものをいくつか適当に見繕って紹介します。その日のニュースの多寡や編集幹部の価値判断、社内の方針・都合その他で、重要な内容だったり、面白い事象だったりしても、載らなかったり、ベタ記事として扱いが小さくなったりするものですから。

 

 まずは、朝日新聞の政治面の19行の記事からです。これは、私も昨日の参院予算委員会を聞いていて、一つのポイントだと感じたところでした。

 

 「対外関係考慮『先例はない』 船長釈放めぐり法務省」

 《尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件の処分をめぐって那覇地検が日中関係を考慮したと説明している点について、法務省の西川克行刑事局長は25日、参院予算委員会で「この事件以外に外国との関係を考慮した例は承知していない」と答弁した。中国人船長の釈放を決めた地検の判断が前例のないものだったことを法務省が認めたのは初めて。草川昭三氏(公明党)の質問に答えた。

菅内閣は19日、検察官が刑事処分を判断する際に「国際関係への影響などについても考慮できる」という答弁書を閣議決定していた。》

 

 …これについては、産経は記事として見出しを立てるスペースがとれず、参院予算委詳報の中で、以下のように一問一答を紹介しています。

 

 《草川昭三氏(公明)「過去に国際関係への影響を考慮し、刑事事件への処分を判断した例はあるか」

西川克行法務省刑事局長「この事件以外での例は承知していない」》

 

 これは極めて重要な部分だと考えます。仙谷由人官房長官らは、船長釈放は「地検独自の判断だ」と言い張り、かつ、刑事訴訟法の手続き上、それはごく普通のことであるかのように強弁してきました。さらには、それを質問主意書で質問されると、政府答弁書で「検察は国際関係に考慮して刑事処分できる」という内容を閣議決定さえして既成事実化したのです。

 

 この卑怯で姑息なやり口と、なんでもかんでも地検など現場の責任に押し付ける菅内閣の姿勢に、おそらく法務省側がぎりぎりの抵抗を示したのがこの「前例はない」という答弁だったのではないかと推測します。今回の事例が、いかに異例かつ異様な事件処理であったかが分かりますね。もちろん、西川刑事局長に直接そう聞いても、「そんなことはない」と否定するでしょうが。

 

 次に、産経のもっと短いミニ記事を掲載します。上記の問題と関係があるような気がするからです。

 

 「首相、検事総長の罷免を否定」

 《菅直人首相は25日の参院予算委員会で、一連の検察不祥事などを理由に大林宏検事総長を罷免する可能性について「検察に人事権を行使することは考えていない」と否定した。(以下略)》

 

 …言うまでもなく、検察は現在、大阪地検特捜部の大不祥事に揺れています。今回の中国船衝突事件での船長釈放について、検察が「自分たちの判断だ」と泥をかぶったのも、大林検事総長のクビを守るため、官邸側と「暗黙の取り引き」に応じたのではないかと言われていますね。だからこそ、普通であれば検察トップの責任に言及するはずの菅首相らが、前代未聞の不祥事にもかかわらず、妙に大林検事総長をかばっているのではないかと邪推したくもなります。あるいは、本当にそうだったりして。

 

 次に、同一人物の発言をめぐって、新聞によってとらえ方が分かれた事例を紹介します。これはどちらかが間違っているというより、話者がわざと多義的な話し方をして、自分の意見をあいまいにしているように思えます。まずは毎日新聞のミニ記事からです。

 

 「鳩山氏進退問題『他人は口出し無用』」

 《民主党の岡田克也幹事長は25日の記者会見で、鳩山由紀夫前首相が政界引退の方針を事実上撤回したことに関し「議員の身分に関することは他人が何かコメントすべきではない。自らの言葉については自らが責任を持つのが基本だ」と述べ、鳩山氏の判断に委ねる考えを示した。(以下略)》

 

 …「コメントすべきではない」という言葉に「口出し無用」という見出しをつけるのはちょっとどうかな、という気もします。まあそれはともかく、この岡田氏の同じ発言について産経はこう対照的な見出しをつけて書いています。

 

 「引退撤回の鳩山氏に苦言 岡田氏『言葉に責任を』」

 《(前略)岡田克也幹事長は、同日の記者会見で「自らの言葉については、自らが責任を持つのが基本だ」と述べた》

 

 …よく新聞報道は一部を切り取って恣意的に報じると批判されます。その指摘はもっともだと思いますが、見出しが一本しかつけられない場合、発言のどの部分を重視するかで、結果的に全く印象の違った記事になるという現実は、なかなかいかんともし難いものがあります。

 

われわれは、先輩記者に耳が痛くなるほど「見出しが大事なんだ」と教わってきましたが、特に短い記事の場合、複数の見出しを立てることや、記事内で補足説明を加えることは不可能なので、自己の判断に従って、「これはこの部分がニュースだ」「こっちが重要だ」と感じた方を生かすしかありません。それがネットで配信された場合、紙面のバランスや他の記事との関係が目に見えないだけに、余計に読者の不信を招くことになっているところは否定できず、悩ましいのですが…。

 

 ちなみに、この鳩山氏の引退撤回に関しては、東京新聞のベタ記事内にあった自民党の大島理森副総裁の発言が目を引いたので引用します。

 

 

 「鳩山氏引退撤回 『国民は失望』野党から批判」

 《(前略)大島理森副総裁は記者団に「これはもう『国会議員発言責任法』をつくらなければならない。本当にけしからん」と述べた。(中略)公明党の山口那津男代表も記者団に「自らの政治とカネの問題でうそを重ねてきた。前言を撤回して政治活動を続けることが国民の不信を増加させるのではないか。その点の自覚が乏しいと言わざるを得ない」と批判した。(以下略)》

 

 …国会議員発言責任法はいいですね。大賛成です。ぜひ成立させて、鳩山氏だけでなく仙谷氏にも適用してほしい。鳩山氏に関しては、産経もミニ記事で自民党の谷垣禎一総裁の言葉を載せているのでそれにも触れておきます。

 

 「谷垣氏『現政権にウソ許される思想』」

 《「今の政権は国会答弁を甘く見ている。学生当時に新左翼だった友人は『権力と戦うのだから多少のウソぐらいは許される』と言っていた。非常にシニカルな思想が今の国会運営から現れてきているのではないか」》

 

 …まさか、この新左翼だった友人って、東大の同級生だったという仙谷氏じゃないでしょうね?この小さな記事を読みつつ、そんなことをふと思った次第でした。実際、ありえないことではないし。いずれにしろ、現在はその「ウソつき」たちが権力を握っているわけで、そりゃ大変なわけですねえ。やれやれ。

 

 あと、ベタ記事ではありませんが、今朝の朝日の鳩山氏批判は突き抜けていましたね。社説「新たな役割期待したのに」で、「あれれ、と思う」と書き、政治面トップで精神病理学者のコメントまで引いて「辞めるのや~めた 軽すぎる 鳩山前首相 地元も不信」と突き放し、署名解説記事で「資格なし、政界引退を」と改めて断じています。もっとやれ!やれ!

 

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