2011年10月

 

 本日は、いわゆる「記者ぶらさがり取材」について、思うところを記します。野田佳彦首相は、菅直人前首相のやり方を真似て、毎日の記者ぶらさがり取材を「受けない」としています。主に失言を避けるためとされ、ネットなどの反応をみると「マスゴミのぶらざかり取材など受ける必要はない」という肯定的な見方と、「記者ぶらぐらいさばけないで逃げてどうする」という否定的な見解の双方があるようです。

 

 私自身は、国民がときの首相と政府の考え方を知る機会を確保する意味で記者ぶらさがり取材は継続した方がいいと考えています。ただ、ここで長年(8年余)、官邸担当記者をやっていたものとして「本音」を語ろうと思います。

 

 マスコミ各社がほぼ一致して継続を求めているこのぶらさがり取材ですが、正直なところ、われわれ記者にとってない方が楽で有り難い部分もあるのです。

 

 例えば夜のぶらさがり取材は首相のキャラクターやそのときの政治状況、日程などで多少変わってきますが、ほぼ夕方の6時ごろから、夜8時ごろまでの間に行われることが多いのです。これは官邸報道室、担当秘書官などから予定時間が知らされます。

 

なのですが、そのときの首相の都合や急な来客などで、予定時間になっても始まらないことがしばしばで、特に菅氏は遅刻の常習者でした。約束の時間に20~30分遅れることは珍しくなく、その間、ぶらさがり要員の記者も、その報告を受けて記事にするかどうか判断し、デスクと打ち合わせて記事を書くキャップ、サブも待機を強いられます。ときにはそれが締め切りと重なり、一層いらいらが募るのでした。

 

 そういった場合、たとえ夜7時半から取材のアポイントがあろうと、取材相手から飲み会の誘いがあろうと官邸を離れるわけにはいきません。約束した相手にわびを入れたり、アポを変更してもらうなどしながらじりじりと「ぶら」が始まるのを待つしかありません。

 

 しかも、そうして「ぶら」が始まっても、ほとんどつまらないことしか言わなかった菅氏はともかく、常に素っ頓狂で正気を疑うようなことを言い出す鳩山由紀夫元首相などの場合は油断ができません。朝述べたことと夕には違うことを言い出す「食言上等!」の人だったので、ぶらさがり取材の結果を受けて、せっかく書き上がっていた記事を全面的に差し替えたり、他の記事も整合性上、微修正を加えたりと連日のようにてんてこ舞いでした。

 

 そうこうしているうちに、夜の取材どころか夕飯すら食べ損ねるということがたびたびありましたし、今年3月に菅氏が東日本大震災を口実にぶら拒否を始めた際は、内心、これで少し楽になったと思ったものでした。

 

 私はとにかく、できるだけ楽をしたいという気質、性質を持っているので、本来であれば、ぶらさがり拒否なんて渡りに船、と言いたいところなのですが、やはり国民に「情報」を伝えるという仕事上の立場を考えるとそうは言っていられないのです。

 

 繰り返します。ぶらさがり取材なんてなくても新聞紙面は埋まりますし、むしろない方が現場の負担は少なく、うれしいぐらいなのです。それでもなお、筋として、記者ぶらはあった方がいいと思うのです。

 

 以前のエントリで少し触れたらたくさんの反応があったTPP交渉参加問題にしろ、米軍普天間飛行場移設問題にしろ米国産牛肉輸入問題にしろ、また、原発輸出にしろ土壌除染にしろ韓国が主張する無理筋な慰安婦問題にしろ竹島問題にしろ、日々、世界は動いていて、たくさんのニュースが入ってきます。

 

 その中で、わが国のトップがどう考えていて、どう動こうとしているのか知りたい問題は枚挙にいとまがありません。官房長官が毎日、記者会見しているからよいのだという意見もありますが、やはり政治の世界では官房長官と首相とでは発言の重みが天と地ほど違うものです。なんだかんだ言って、日本国は首相という1個人が動かしている部分が大きいのです。そのトップの判断、考えはいくら問うても足りないくらいです。

 

 だいたい、これまで慣例的に、記者ぶらの質問事項はおおむね(全部ではありませんし、首相の答弁を受けての再質問などは事前通告のしようがありませんが)、事前に首相サイドに伝えてあるのです。なので、それでも失言を恐れて受けられないというのは、その政治家とスタッフの側の能力を疑問視せざるを得ないところです。

 

 もちろん、われわれメディア側の質問がつたないとか、揚げ足とりが多いだとかのご批判も分かります。マスコミは国民を代表してなんかいないし、その知る権利に奉仕もしていないというご指摘も承知しています。それらのご批判はもっともだと思いますが、たとえ聞き手が拙かろうと、聞く機会自体を減らした方がいいという理屈にはならないと愚考するのです。

 

 また、記者会見をやればいいという意見もあります。ただ、首相記者会見ではどの社のどの記者を指名するかはいくらでも恣意的に操作できますし、再質問は原則許されていないので、あまり突っ込んだやりとりにはなりにくいという性質もあります。さらに、菅氏がそうだったように、自分が何かアピールしたいときだけ緊急記者会見を開き、そうでないときはいくら重要問題が浮上しても知らんぷり、というやり方も常態化しかねません。

 

 昨今、マスコミによる印象操作やレッテル貼りが批判されています。それはどんどん批判すべきものだと思いますが、ただ、気をつけておかないといけないのは、印象操作もレッテル貼りもマスコミの専売特許ではないということです。政治家も官僚も、このところの世間のマスコミ報道への風当たりの強さを利用して、都合の悪い記事や報道について印象操作やレッテル貼りを通じてその価値や信憑性をおとしめることをします。

 

 当然ながら、マスコミが常に正しいわけでも公正なわけでもありませんが、それはその取材対象にも言えることなのです。マスコミは私も含め、しょっちゅう判断を間違えたり、見通しを違えたりするので信頼性が持てないといわれれば返す言葉はありません。ただ、だからといって、報道がすべてが嘘であるとか、歪んでいるということにはならないはずです。

 

 そして仮にマスコミというレンズを通すと実態がどうしても歪むとしても、たとえよく見えないレンズを通じてでも、はじめから何も見えないよりマシということは多いのではないでしょうか。

 

 昨今、民主党の輿石東幹事長をはじめ、政治家のマスコミ報道批判が勢いを増しています。繰り返しますが、マスコミのあり方や報じ方に多々、問題があることは十分認めます。それでもなお、警戒してほしいのは、こうしたマスコミ批判の背後には、情報発信を自分たちの都合のいいように操りたい人たちの意図と思惑もあるということです。

 

 もとより私はマスコミの代表でも代弁者でも何でもないし、食べていける別の職があるなら、この仕事にそれほど未練もありません。こういう人に嫌われ馬鹿にされる仕事よりも、接する人に喜んでもらえるような仕事を選びたかったなあとも思います。むしろ、この世界に20年以上、どっぷりつかってきただけに、問題点も限界も実感していますから、今後もそう状況がよくなるという楽観はしていません。

 

 おそらくこの先も批判され、馬鹿にされ続けるであろうマスコミではありますが、かといって、マスコミがなくなったら世の中がよくなるというような極論には、どんな根拠と見通しがあるのだろうと、不思議でなりません。

 

 同様に、ぶらさがり取材がふだん、冷静にみてばかばかしい内容が多かったり、見ていて歯がゆいことが多かったりするとしても、じゃあ、なくなった方がいいかというと大いに疑問なわけです。

 

 ただでさえ、民主党政権は情報隠蔽体質が強く、何かと不透明で密室を好む政権です。そういうときに、首相が密室に逃げ込み、国民への説明から逃げることを助長するようなことには、たとえその方がこっちも楽であったとしても反対せざるを得ません。マスコミはいくら批判されても仕方がない負の実績をもっていますが、政治家だって放っておけばどんな独善・独裁に陥るか分からない危うさがあります。

 

 牽強付会のそしりを覚悟で言えば、三権分立の原理だってそうであるように、互いに不完全で怪しげな存在だからこそ、互いに牽制し、監視しあう必要があるわけで、片方がひどいからといって、もう片方がひどくないということにはなりません。国民がマスコミを批判し、同様に政治家も厳しい目で見てこそバランスがとれるのではないかと思うのです。

 

 結論は、首相にとっても記者にとってもめんどくさいことながら、やはりぶらさがり取材は続けた方がいいということです。もちろん、もっとうまいやり方、新しいルールが生まれたならばそれはそれでかまいません。ただ、現時点ではこう考える、ということをちょっと書いてみました。

 

 

 えー、というわけで18、19両日、野田佳彦首相の同行取材で韓国へと行ってまいりました。そして本日(20日)午前、自民党の外交部会・外交・経済連携調査会・領土に関する特命委員会が開かれ、この野田首相と李明博大統領との首脳会談について自民党議員から意見と質問が出て、外務省の石兼公博アジア大洋州局審議官が答えていましたので、その内容を報告します。テープ起こしではないので必ずしも文言は正確ではありませんが、大意は外していないはずです。

 

 

     

     18日夕、羽田空港で政府専用機に乗り込む記者たち。ソウルに着いたら気温は8度でした。

 

 

 平沢勝栄氏 野田首相は大統領に、韓国に残る日本の古文書について「アクセスの改善を期待する」と述べたというが、このアクセスの意味は何なのか。また、それに対して大統領の返事はどうだったのか。それと、竹島については一切、話が出なかったのか。外国人地方参政権も出なかったのか。

 

     

     日の丸が掲げられた青瓦台(大統領府)。入る際には1人ひとり、厳重なボディーチェックと持ち物チェックを受けました。

 

 石兼氏 韓国には対馬宗家文書などがあるが、マイクロフィルムだけの公開で原本は公開されていない。そのほかにもある文書へのアクセスを改善してくれというような意味だ。その首相の発言に対し、大統領から明示的な発言はなかった。しっかり聞いていたということだ。

 竹島については、明示的にこちらから話したことはない。参政権に関しては今回、向こうから提起はなかった。

 

 

     

     共同記者会見が始まる前の記者会見場。記者会見といっても、質問は日本側2問、韓国側2問と決められていて、質問者に選ばれなければテレビで見ていた方が回答もよく分かるかもしれません。

 

 稲田朋美氏 今回、野田首相から何か国益に合致するような発言はあったか。竹島の件では、私たちは入国拒否された。いろいろな意見はあったが、世界に対し、日韓に領土問題があることを発信したと思う。それについて、(野田首相が)国際司法裁判所へ進めるなどの話をしないのであれば、何のために外交をやっているのか。

 なぜ儀軌を引き渡してくるのか。これは慰安婦の問題とかかわってくる。いったん、日韓基本条約で解決したことを蒸し返して儀軌を引き渡すのは、解決済みの慰安婦問題が出てくるのと同じ構図だ。

 

 

     

     野田首相が持参した朝鮮王室儀軌など古文書。思いの外でかいと感じました。

 

 西野あきら氏 野田首相は今回、二国間外交で実質的なデビューだ。日韓首脳会談で「基本的価値を共有していることを確認した」などというが、こんなのは閣僚とかがメッセージを出していればいい話。現実には領土問題でも韓国の方が先行し、わが国は後手後手だ。我が国の主張がないように感じる。首相は我が国の主張をしてくるべきではないか。

 

 中谷元氏 スワップ(通貨交換)などによる韓国への資金支援枠を現行の130億ドルから700億ドルにしたが、これはウォンが下がっていることを助けるという意味か

 

     

     日本へ出発前、ソウル空軍基地に2機並んだ政府専用機とその予備機。よくマスコミはタダだと誤解されますが、民間旅客機と同様の運賃は(会社が)払っています。

 

 石兼氏 もちろん、竹島の入国拒否の話は、これは閣僚も私どもも常にやっているし、今後もやっていく。そういう前提の上で野田首相は取り上げなかった。稲田先生から国益としてどうかというお尋ねだったが、日米韓の立ち位置をどうしていこうか、日韓の首脳で腹を合わせてしっかりやってもらうことは間違いなくこの先の基礎となる。

 西野先生からは「そんなわかりきったことを」というご指摘があったが、新しい首相が先方のトップと少人数会合で確認するのは意味がある。

 儀軌の引き渡し慰安婦問題とかかわるという話があったが、慰安婦問題に関するわれわれの立場は一貫している。儀軌引き渡しが慰安婦問題でわれわれの立場に何か予断を与えるということはないと思う。

 スワップは現時点でのウォン安をどうするという話ではない。何か起こったときに韓国を中心として何らかの不安定化が起きないように抑止力として、制度としてつくるものだ。現時点でのウォン安をどうするというものではないと財務当局から聞いている(※阿比留注 韓国政府は、自国経済の表面上の調子のよさとは裏腹に実はかなり危機感を持っていると聞きます)

 

     

     帰国途上、政府専用機の窓から見えた日の丸と韓国の大地。やはり日本の山々、緑の方が優しいように思えました。

 

 今津寛氏 外務省のホームページでも竹島について「不法占拠」と記しているのに、松本剛明前外相も藤村修官房長官も「不法占拠」という言葉を絶対に使わない(※阿比留注 枝野幸男前官房長官も岡田克也元外相もそうでした)。その点をいくら国会で聞いても「竹島は法的根拠のない形で~」という言い方に終始する。ソウルの日本大使館の真ん前に慰安婦の記念碑が建てられるという問題もある。首相が入国拒否問題について一言も触れないというのはあり得ない。何をそんなにへりくだっているのか。

 

     

     和紙の繊維をたたいて敷き詰めたような雲。今回はたまたま窓際を割り振られたので、わずか2時間弱のフライトながら「翼に日の丸」の風景を堪能しました。

 

 小野寺五典外交部会長 おそらくこれらのことをいくら外務省に言っても仕方がない。われわれはみんな同じ思いなので、国会でぜひ政府を追及しましょう。

 

     

     機内食はプルコギと韓国風海苔巻き。ここでも韓流!とめくじら立てることなくおいしくいただきました。何せ、19日は昼食を取る時間などとてもなかったもので。

 

 新藤氏 外務省には、もう少しきちんと分析して回答してほしい。以前の外交部会で自民党からの宿題として、官邸に①儀軌を持っていくのは反対だが、もし持っていくなら韓国に残る日本文書の引き渡しの交渉を申し入れるべきだ②竹島の(ヘリポートなどの)工事中止を要求すべきだ③入国拒否の理由と今後の対応についてきちんと問いただすべきだ④慰安婦の記念碑建設をやめるよう申し入れろ……の四つを出した。回答ゼロのようだ。

 野田首相は国内でこれだけ反対がある中で儀軌をこれだけの思いをしてもっていったが、大統領は何か感謝したのか。フランスがかつて強奪した儀軌の韓国への期限付き貸与を実施した際には、韓国大統領はわざわざ見に行って、歓迎式典までやったのにだ。

 外務省の説明にはないが、今回の会談について韓国の連合ニュースは、日本からの大統領の来日招請に関し、懸案、つまり歴史問題が解決されなければ難しい部分があると大統領が述べたと報じている(※阿比留注 李大統領は共同記者会見でそうとれる発言をしています)。

 

 平沢氏 結局、野田首相はやっかいな問題は全部先送りして表向き仲がいいと演出しようということなんだろう。韓国にある日本文書へのアクセスの件だが、国民はアクセスを求めているのではないんで、日本に引き渡せというのが当たり前だ。屈辱外交、土下座外交というか、なぜ引き渡しと言わないのか。

 

     

まるで南極の雪原の上を飛んでいるかのような錯覚にとらわれました。実際は名古屋か三重のあたりなのですが……絶景でした。毎度のことですが、さまざまな形の雲がながれゆくさまを眺めるのは飽きません。

 

 石兼氏 大統領は訪日について、条件はつけていません。韓国報道は違うかもしれないが、われわれはそうではない。

 

 小野寺氏 外務省当局にいくら聞いても、最終的には政治判断なので、国会論戦でやりましょう。予算委員会で直接、野田首相に確認していくことが大事だ。

 

 高村正彦氏 (野田政権は)「政治主導」でやっているんでしょうから、国会で十分問いただしてほしい。

 

     

     19日夕、羽田空港に戻ってきたときの夕焼け空。左手は「赤富士」なのですが、何せ揺れるのと暗いのとでブレブレですみません。肉眼では空はもっと真っ赤に見えたのですが……。

 

 いよいよ本日、臨時国会が始まりました。ですが、政府・民主党のこのていたらくにもかかわらず、どうも自民党にもあまり期待感が持てません。自民党新執行部の顔ぶれとそれが決まる経緯をみても、国会対応の腰の定まらなさをみても、なんとなく野田政権がこのままズルズルいくような。

 

 あるいは全然そうではなく、例のTPP問題をはじめ大荒れに荒れるのか。まあ淡々と、でもしっかりと見ていこうと思います。

 

 ただいま、ちょっと韓国に来ていまして(野田佳彦首相の同行取材)、時間がないので簡単に記します。いま話題のTPPの是非についてですが、これについて少し思うところを述べます。

 

 TPPに一定の賛意や理解を示すと、よく「米国のポチ」であるとか、米国に取り込まれるという批判を受けます。まるで「踏み絵」のようで、なんだかなあと感じているのです。ただ、相手がある外交では常に最善は望めず、次善、さらにその次であっても選ばないといけないときがあると思います。

 

 で実際、TPPには米国の思惑が当然、反映されているわけです。当然、自国の利益が最優先であるのは当然だし、強欲で利己的な部分もあるでしょう。ただ、それでもそれは一面的なものではなくて、やはり多様な考えや意図が背後にあるのだろうと考えるわけです。

 

 その中で、私が特に関心を覚えることの一つが、これが対中国の政策であるという点です。中国とどう向き合うかは、これからの世界で最も大きな課題の一つだと考えます。その中で米国にしてみれば、これからますます台頭していく中国に対し、日本や東南アジアを巻き込む形で牽制、対抗していこうという動きがTPPでもあるわけです。で、これは日本にとってどうでしょうか。

 

 現に、中国は表向きははっきりと言いませんが、日本の政界にはかなりTPP反対の働きかけをしているようです。先日は官邸にも中国の公使が目的も明かさずに来ていました。中国大使館関係者があちこちに出没していると聞きます。

 

 また、TPPに反対・慎重論を展開している政治家(これもいろいろですが)の中に、東アジア共同体が必然だといまだに言っている鳩山由紀夫元首相ら親中派グループがいることを思うと、TPPにただ反対することは、中国を利することでもあるのだろうなと愚考します。

 

 私自身は、まがりなりにも唯一の同盟国と、我が国に何百発もの弾道ミサイルの照準を向けている国とどちらを選ぶかといえば、言うまでもありません。もちろん、本来はまず二国間協定が望ましいとかいろいろあるし、ことはそう単純なものではありませんが、そういう視点もあっていいかなと。

 

 もうそろそろ青瓦台に行かなければならないので、とりあえずここまでとします。

 

 さて、先日の自民党外交部会で6日の日韓外相会談でも、玄葉光一郎外相の李明博大統領の表敬の場でも、8月に韓国・鬱陵島を視察しようとした自民党国会議員3人が入国拒否に遭ったという信じられないような非礼について、話が一切出なかったことが確認できました。これが野田政権、というよりも民主党政権の外交姿勢の一端を表していることは間違いないでしょう。

 

 そこで私は昨日、入国拒否とされた1人である新藤義孝衆院議員(元外務政務官)に現在の日韓関係や、野田佳彦首相が18日の訪韓時に一部持参するとされる朝鮮王室儀軌など朝鮮半島由来の文書引き渡しについてどう考えるか聞いてきました。その内容について、新藤氏はブログ掲載を許可してくれたので紹介します。

 

     

 

  外交部会でも、首相の儀軌持参に反対していましたね

 

 新藤氏 今回の儀軌引き渡しの問題は、いわば日本外交の盲点を突かれたと考えています。日韓間ですでに解決済みの問題を、菅政権が日韓併合100年にあたってあえて蒸し返したところにも問題があります。

 

  というと具体的にはどこに

 

 新藤氏 まず、この「図書に関する日本国政府と大韓民国政府との間の協定」は、相互協定と言いながら、日本から韓国に文書を引き渡すばかりで、韓国側にも日本の歴史的文書がかなりいっていることを、昨年11月の協定署名の数日前まで、外務省も含め日本政府側は誰も知らなかったのです。

 

  随分とずさんな話ですね

 

 新藤氏 実は「対馬宗家文書」をはじめ10万点以上に上る日本の文書が韓国に残っていることが分かりました。それなのに、日本側はそれの引き渡しを求めていない。完全な片務条約であり、幕末期の不平等条約並みです。私がこの事実を外務省に知らせたとき、担当者は「本当ですか、まいりました」と言っていました。韓国にあるものも日本に引き渡すようでないと、「日韓両国間の文化交流及び文化協力の一層の発展を通じて、日韓両国及び両国民間の友好関係の発展に資する」という協定の趣旨が生かされません。

 

  結局、日本は韓国にも引き渡しを求めることをしませんでしたね

 

 新藤氏 ええ、問題はさらにあります。この韓国文書引き渡しはそもそも、昨年8月の菅首相談話で「日本が統治していた期間に朝鮮総督府を経由してもたらされ、日本政府が保管している朝鮮王室儀軌等の朝鮮半島由来の貴重な図書について、韓国の人々の期待に応えて近くこれをお渡ししたい」と表明したことに始まります。

 

  この菅談話に関しては、野田首相(当時財務相)は当初反対でしたが、仙谷由人官房長官(当時)に説得されて反対を引っ込めたのでしたね

 

 新藤氏 はい。それで、儀軌167冊を引き渡すことになったのですが、実はこのうち4冊は、古書店で日本政府が買ったものであり、由来が異なるのです。また、儀軌のほかに1038冊の文書も引き渡すのですが、これもおかしな話です。韓国国会はこれまで、昨年2月の「日本所蔵朝鮮王室儀軌返還要求決議」などで儀軌を戻せと求めてきましたが、それはあくまで儀軌だけなんです。

 また、韓国の連合ニュースによると儀軌以外の文書は、実は韓国統監府の初代統監、伊藤博文が日韓併合前に手に入れたもので、菅談話の枠に入っていないのです。これでは日本政府はおめでたいというしかありません。

 

  日韓間で受け止めも違いますね

 

 新藤氏 日本側はこれを善意の「引き渡し」としていますが、韓国側ははっきりと「返還」と位置づけています。今年513日には、ホテルオークラで大々的に「朝鮮王室儀軌 返還記念宴会」を開いているくらいです。しかも、この席には共産党や民主党の国会議員も出席しているのです。これを伝えた連合ニュースは「日本で儀軌返還に努めた笠井亮・共産党議員に感謝牌を与えた」と書いています。「与えた」ですよ。

 また、このときの韓国の権大使は「さらに多くの文化財が韓国に返還されるよう」とあいさつしています。韓国は国会決議では「『文化財の原産国返還』というユネスコ精神が責任感をもって実現されることを期待する」としています。そうであれば、韓国は日本から渡った文化財を返還しなければなりません。日本はその交渉を行うべきです。

 

  日本政府は一方的に譲歩を重ねるばかりで、ピントが完全にずれていますね

 

 新藤氏 この3月の東日本大震災以降をみても、韓国の閣僚が5カ月間で6人も竹島に上陸して式典などを行いました。それまで着工が延期されていた竹島のヘリポート改修工事は、なんと震災直後に着工されました。竹島沖合わずか1キロの海域に新たに建設される地上15階建ての海洋科学基地は4月に入札され、竹島には大桟橋もできます。昨年6月からは竹島に定期観光船も就航しています。

 

  日本の弱腰をみて、どんどん攻め込んでいますね

 

 新藤氏 8月にわれわれが入国拒否された件でも、われわれは韓国側に「その法的根拠と今後の運用について見解を示すように」と求めていますが、一切答えはありません。ことごとく韓国側は日本の国民感情をさかなでする行為を続けているのです。儀軌にしたって、日本は約束をきちんと履行しているのに、日本の主張には一切耳を貸さないという態度です。

 それなのに、野田首相が訪韓に際し儀軌を持参するとなれば、韓国側に「これでいいのだ」と誤ったメッセージを送ることになります。

 

  日本外交はこのところ負け続けです

 

 新藤氏 しかも、それが政権交代後のこの2年間に起きているのです。民主党政権は韓国に対し、まず竹島について「不法占拠」という言葉を使いませんというメッセージを送りました。前述のヘリポート工事の計画は2008年からあったものですが、自民党政権のときは一切触らせなかった。

 それが政権交代後は、韓国が何をやっても「抗議しない」「抗議しても明らかにしない」「国民に知らせない」でどんどんつけ込まれています。領土や国家主権についてきちんと主張しない国は、誰からも信用されないのにです。

 尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件での中国の強硬姿勢も、私は民主党政権の竹島への対応を見てのことだというのは間違いないと思っています。ロシアも、これを見てメドベージェフ大統領が北方領土初訪問に踏み切り、さらに中国と歴史認識を共有すると言い出した。

 この前、韓国の国会議員が国後島へ行った際もロシアは特別な便宜を図りました。気がついたら、中韓露による日本包囲網ができている。にもかかわらず、野田首相がいそいそと儀軌を抱えて持っていくというのですから……。

 

 私 悪循環にはまっていますね

 

 新藤氏 儀軌の話に戻ると、日本にある儀軌は別に強奪したものではありません。そもそも総督府から宮内庁へと儀軌が渡ったのも、朝鮮王族を日本の皇族と同様に差別なく扱いたい、そのためにも朝鮮王族の儀礼を知るべきだという天皇陛下のお考えがあったといいます。

 一方、例えばフランスは韓国の儀軌を強奪したにもかかわらず、17年間もの韓国との交渉の後、返還はしないと決めました。期限付き貸与としたのです。

 

 私 日韓関係を正常にするにはどうしたらいいとお考えでしょうか

 

 新藤氏 実は、8月にわれわれが入国拒否された後、韓国の与野党代表団の竹島視察が「天候不良」により中止されました。その後、誰1人として閣僚も国会議員も竹島に渡っていません。少なくとも私の知る限り。やはり、それなりのくさびはきいているということでしょう。

 何も私たちはナショナリズムを煽ろうなどとは考えていません。ただ、韓国とはきちんともめるべきはもめて、本当の話し合いをしてこそ本当の友人になれるのだと考えています。今までは、ケンカをする前に贖罪意識をもたされ、謝罪しながら外交をしてきました。

 ですが、私たちは本気で韓国と付き合う、だから嫌なことも言うよ、という誠実な外交に切り替えていかなければならないと考えています。()

 

     

 

 ……以上、新藤氏の話をまとめてみました。これまでほとんど話したことのない人でしたが、理路整然と答えてくれました。正直なところ、自民党政権時代の外交にも多々不満はありますし、そのたびに批判してきましたが、日本の地盤が地滑りして崩れていくようなこの民主党外交のこの2年間を思うと空恐ろしくなりますね。

 

 昨日、ある政治評論家と話していたところ、その人は「それでも民主党が学ぶのを待つしかない。全共闘世代が消えたらだいぶマシになる。いま民主党がつぶれたら二大政党制が終わりになる。相互に監視・牽制する政党が必要だ」と語っていました。

 

 これも一理あると率直に思います。ですが、日本にそんなに余裕、残された時間があるかというと、大いに不安になるのでした。

 

 

   昨日は自民党の外交部会・外交・経済連携調査会・領土に関する特命委員会が開かれました。これについては、今朝の産経政治面に坂井広志記者が書いた「民主の対韓融和非難 自民『儀軌引き渡し反対』」という記事が載っているので参考にしてほしいのですが、記事に出ている部分以外でもいくつか興味深いところがあったので報告します。

 

 まず、民主党の前原誠司政調会長が11日に韓国で、アジア女性基金を参考にした韓国の元慰安婦への新たな人道支援基金の構想を表明したことについてです。前原氏は割と事前調整も根回しもせずに思いついたことを口にする方なので、たぶん、そんなところだろうと思っていましたが、外務省の石兼公博アジア大洋州局審議官は、自民党議員らの質問にこう明言しました。

 

 石兼氏「現時点で検討していることではない。いま新しいものをつくることを考えていることはない。前原さんから相談を受けたこともない」

 

 とりあえず、野田政権として正式に検討していることではないことが確認できました。だとしたら、前原氏の発言は日韓間にいたずらに悶着の種をまいただけの無意味な二元外交の典型といえましょうか。

 

 それと、実に興味深かったのが、韓国の憲法裁判所が8月、慰安婦問題をめぐる賠償請求権について「韓国政府が具体的な措置を取ってこなかったのは違憲」とする判断を示したという問題に関しのやりとりでした。以下、私がメモにとった範囲なので言葉は必ずしも正確でない部分がありますが、大意は合っているはずなので紹介します。まず、石破茂前政調会長がこう尋ねました。

 

 石破氏「韓国の憲法裁判所で、個人請求権に基づいて韓国政府が日本に賠償を請求しないことは憲法違反だと判断したとされる。これによって、韓国政府はどういう立場に立つのか?」

 

 石兼氏「韓国の憲法裁判所の件は、慰安婦と原爆被害者が原告となり、韓国の外交通商部を相手取り起こしたもので、韓国政府に日韓請求権の解釈の違いについて協議しろという決定です」

 

 …もちろん、日韓間の請求権問題に関しては、14年間にもわたる難航を極めた交渉の末、昭和40年に締結された日韓基本条約とそれに伴う協定で「完全かつ最終的に解決」されています。ところが近年、韓国側はそれに含まれていない問題もあると言いだしているわけです。その点について石兼氏はこう説明していました。

 

 石兼氏「請求権に関する韓国政府の立場は必ずしもはっきりしない。以前は解決済みというスタンスだったが、2005年あたりから『解決していない』という立場をとっている」

 

 そして、韓国の憲法裁判所の判決についてさらにこう説明しました。

 

 石兼氏「韓国の憲法裁判所は『日韓で協議をしろ』と言っている。協議していない状態が慰安婦らの基本権を犯しているということだ」

 

 ここで、高村正彦元外相が面白い指摘を行いました。韓国政府は11日に国連の女性の地位向上について協議する第3委員会の場で、慰安婦問題を含む戦時性暴力に関するステートメントを出しています。その際、日本政府は「慰安婦問題についての請求権は協定で解決済み」と主張しました。これを踏まえ、高村氏はこう質問したのです。

 

 高村氏「向こう(韓国)が向こうの主張を言って、こっちは『解決済み』と言ったのだから、これは協議でしょ」

 

 これに対し、石兼氏は「先方はそうは受け取らないと思います」と答えたのですが、高村氏はさらにこう述べました。

 

 高村氏「日韓双方が主張したのだから、協議でしょ」

 

 石兼氏が「うーん」と言葉に詰まったところで。石破氏がこう引き取りました。

 

 石破氏(日本は解決済みだと言い、韓国は憲法判断に基づき協議しなければならないのだから)これは未来永劫続くんでしょう。(韓国政府としては)止めちゃったらダメなんでしょ」

 

 結局、韓国憲法裁判所の判決の正確な位置づけと、それに対する韓国政府の法的立場、何をもって日韓協議とするかなどについて、外務省として改めて自民党外交部会に提示することになりました。

 

 自民党の場合、こういう政策決定や意見集約の課程が民主党に比べはるかにオープンなのでわかりやすいですね。政策の党部会による「事前承認制」については、族議員の介入や政策決定の遅延を理由に否定的に見る議員もいますが、私はこの公開制は捨てがいと思います。特に、民主党の場合はかなりの部分、政策決定がブラックボックスの中で行われるか、トップの「思いつき」で方向付けられてしまうので、それに比較するとよいように思えます。

 

 昨日、自衛隊のPKO派遣がほぼ決まりつつある南スーダンに何度か行ったというジャーナリストの話を聞く機会がありましたが、現場はやはりとんでもなく危険なようです。

 

 こういうとき、自民党政権であれば、国防部会などで武器使用緩和問題や派遣条件などが侃々諤々の議論を呼び、それがまたオープンにされているので記事になりやすく、けっこう国民的議論を呼んだものですが、民主党政権ではほとんど話題にならないまま決まっていく怖さがあります。

 

 また、首相がぶらさがり取材を受けないので、こういう重要な問題について首相がどう考えているかを質す機会もありません。民主党政権が今後も続くのであれば、この非公開・情報隠蔽体質は何とかしてほしいし、そうでなければ非常に危険だと考えています。

 

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