2011年10月

 

民主党の前原誠司政調会長は11日、韓国政府が賠償請求権交渉を求める慰安婦問題について、平成19年に解散した「女性のためのアジア平和国民基金」(アジア女性基金)を参考にした新たな基金創設を構想していることを明らかにしました。ソウル市内で記者団の質問に答えたものです。

 

 前原氏は「自民党政権の時もアジア女性基金が行われたことを考えた場合、何らかの人道的な仕組みを検討する余地があるのではないか」と述べました。また、同日の記者会見でも「韓国政府側は(かつてアジア女性基金に)否定的な考え方をしたが、それは以前の話であり李明博政権ではない」と語り、韓国側も正式賠償とは異なる基金形式を受け入れる可能性があるとの見通しを示しました。

 

 さて、前原氏は、というべきなのか野田政権は、というべきなのか、どちらにしろ民主党政権は相変わらずナイーブで逆効果な譲歩外交を続けているようです。ソウルの日本大使館前に慰安婦の記念碑を建てようという韓国側の嫌がらせに対し、相手にまた何とかしてお金を払いましょう、そうすればきっと機嫌を直してくれるんじゃないかなという話ですね、これは。

 

 藤村修官房長官や玄葉光一郎外相ら政府側からはまだ、前原氏に同調する動きを見せていませんが、首相候補でもあった民主党幹部である前原氏が韓国でこんなことを言えば、いろいろと波紋が広がるのは間違いありません。

 

 しかも、民主党外交はいつも、2国間外交しか視野に入らないようで、こうした対韓姿勢が他の国にどう受け取られ、波及していくかという視点が感じられません。慰安婦問題でアジア女性基金が一時金を支給したのは韓国だけでなく、フィリピンやインドネシアもそうであり、韓国対象に似たような基金を立ち上げた場合、他国がどう考えるか前原氏は少しは検討したのでしょうか。

 

 菅前政権下で仙谷由人官房長官(当時)が主導した対韓外交は、韓国併合百年に当たっては「謝罪は一度で十分」という国際常識に反し、日韓両国の請求権について「完全かつ最終的に解決された」「いかなる主張もすることができない」と定めた日韓基本条約にさからって、「菅謝罪談話」を発表しました。さらに、韓国に残る日本の文化財、歴史的文書は請求しないまま、日本に所蔵されている朝鮮王室関連文書の引き渡しを約束しました。

 

 こうした対韓傾斜は、仙谷氏の周辺によると「台頭する中国に対抗するには日韓がより親密に手を結ぶしかない」というもっともらしい理由説明がありましたが、政治も外交も結果がすべてです。こうして次々と日本が韓国に一方的に譲歩していった結果、日韓関係は前進しているでしょうか。

 

 逆に韓国側は、尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件での菅政権の国辱的な弱腰外交(これがロシア大統領の北方領土訪問にもつながっていると見ています)から日本の足下を見て、閣僚が相次いで竹島を訪問し、竹島付近の日本領海内で「海洋科学基地計画」を打ち上げるなど挑発的な行為を続けています。8月には自民党の国会議員3人の入国を拒否し、同月には憲法裁判所が慰安婦問題は解決していないと政府をけしかけています。

 

 日本国としての意思をきちんと示さないで譲歩を重ねたところで、相手になめられ、かえって押し込まれるだけだという自民党時代からのハト派政権が繰り返した「譲歩外交」の失敗をどうしてこうも再現したがるのか。何か得たものがあるというのなら、きちんと国民に示してほしいと思います。

 

 折しも韓国は来年、4月には総選挙、12月には大統領選が控え、国内事情から「日本たたき」は政治家にとって必須アイテムかつブームとなっていて、そこに新たな材料を投下してどうするのか。18日には野田佳彦首相が訪韓するわけですが、いったい何を言わされるのだろうかと心配です。

 

第一、アジア女性基金などの基金形式に対しては、韓国は「そういうものをもらえば、ことの本筋をすり替えることになる」(金大中元大統領)などと反発してきました。前原氏は「李明博大統領は違う」と考えているようですが、どこにそんな根拠があるのか。そもそも、来年には交代する政権に期待したところで、次の政権がひっくり返せば終わりです。外交は本来、政権が変わっても継続性を持つべきですが、民主党自体が外交の継続性を無視してきたのも明らかですね。

 

 で、ここからは思い出話です。私は平成12年に当時のアジア女性基金理事長だった村山富市元首相にインタビューしたことがあります。村山氏が、韓国に同調してやはり基金形式はダメだという声が強かった社民党内の反対論を押し切って理事長となったことに興味を覚えたからでしたが、インタビューにはなぜか理事の和田春樹氏(左翼的活動家として有名ですね)が同席しました。

 

 私は、ヘンだなあとは思いましたが、理事長となったばかりの村山氏では答えられないこともあるかと考え、気にしないことにしました。それで、私がこう質問したときでした。

 

 「元慰安婦に一時金を払うというが、元慰安婦の大半は日本人女性だ。アジア女性基金は日本人元慰安婦についてはどう考えているのか」

 

 村山氏は「うっ」と詰まったきり絶句し、何か言葉を探しているようでした。私はじっとそれを待っていたところ、それまで黙って聞いていた和田氏がいきなり、

 

 「ちょっと待って! 今の質問はなかったことにして」

 

 と介入してきたのでした。私はそれはおかしいと思ったのですが、和田氏の不規則発言はとにかく、村山氏が「……」と何も答えないので、そのやりとり自体が成り立たず、短いインタビュー記事には経緯を載せられませんでした。

 

 一方で、村山氏に「国交のない北朝鮮の慰安婦問題についてはどう取り組むか」と、やはり基金の対象外の北朝鮮のことを聞くと、

 

 「日朝国交正常化の最大の課題は過去の清算だ。単に植民地支配に対する請求権だけではなく、強制労働や慰安婦の問題などがある。北朝鮮の場合は、国の体制からいっても、問題はすべて一括して政府間の正常化に向けた話し合いの中で解決するんじゃないか」

 

 などとスラスラ答えるので、ああ、この人たちにとって自国民である日本人慰安婦の存在はタブーになっているか、あるいははなから何も考慮していないのだなということが分かりました。前原氏の、安易に韓国にだけ何らかのサービスをしておけばそれで済むというかのごとき論調を聞いて、ふと10年以上前の記憶がよみがえった次第です。

 

 この問題は引き続き注視したいと考えています。

 

 

 ちょっとご無沙汰しました。首相官邸キャップ業務を終えての10月からの新担当についてのご報告が遅れましたが、別に管理職にしてもらったわけでも昇進したわけでもなく、政治部で現場記者のまま「外交・安全保障統括」という自分でもよく分からない立場となりました。

 

 要は、外務省と防衛省担当の後輩記者を助けて、後は自分でネタを見つけてこい、そして結果を出せというわけで、これはこれで非常に望むところでありました。上司には、以前から遊軍的な立場にしてほしいと願い出ていたので、ある意味、希望をかなえてもらったとも言えます。自分で仕事を見つけて自分で取材に行くという記者として当たり前のことが、煩わしい手続きの多いキャップ業務(管理職もどき)の後ではけっこう新鮮です。

 

 多いときには1日100本近い携帯の連絡メールのチェックに追われ、打ち合わせや会議が多く、じりじりとする待機時間ばかりが長く、自分で取材するよりも後輩記者に指示してやらせなければならない前職に比べ、自由に動けて自分で現場に行く機会が増えるのは単純に嬉しいものです。

 

 10月に入り、2日には日帰りで高知に、4日、5日は福岡にと出張に出ていたほか、挨拶回りやら何やらでパソコンの前に座る時間があまりなかったのでご報告が遅れました。歩く時間も増えそうなので、官邸時代にストレスと趣味からの暴飲暴食でふくれあがったメタボ体型についも、ついでに少し改善したいと。

 

 近く、海外への同行取材の機会もありそうなので、いろいろとこのブログでも報告できるかと思います。とりあえず今は、あれこれと新たに勉強しなければいけないことと、思い出さないといけないこととがあってバタバタしています。それではまた。

 

 ※エントリの主題からは外れますが、きちんと手続きを経て始まった初公判の場で、無罪を主張するのはいいとしても「直ちに裁判を打ち切るべきだ」と主張する被告の傲慢不遜さはいかばかりか。こういう人の口から出る「民主主義」という言葉の何と安っぽいことか。結局、「オレがすべての基準であり、オレがすべてを決める」と思い上がっているだけだと思います。

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