「国を憂い、われとわが身を甘やかすの記」のご愛読ありがとうございます。
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最近読んだ本について・「肉は正義だ」編
台風の接近で明け方から大雨で、外出もままなりません。このところ、暑さと積年の暴飲暴食で胃腸の調子が良くないので、きょうは自宅でゆっくりしようと考えています。というわけで、読書エントリです。
今回は、旬の作家である三浦しをん氏の「政と源」(集英社、☆☆☆)から。東京の下町で暮らす老境にさしかかった幼なじみ二人組の日常と波乱が、しみじみとしたトーンで描かれています。私は不覚にも、この本を読むまで「つまみ簪」なるものを知りませんでした……。
大倉崇裕氏の作品はおそらく初めて読みましたが、軽妙なタッチなのですね。この「問題物件」(光文社、☆☆★)は、大手不動産会社に入社した女子新入社員が、心ならずも巻き込まれた派閥抗争の中で「問題物件」担当となり、そこにとんでもない不思議な救いの手が……というストーリーです。面白いのですが、謎解きミステリーではありません。個人的好みでは、もう少し「犬神」がどうしたとか、土俗的・神話的エピソードがあった方が嬉しいのですが、まあこれはこれでいいのでしょう。
田中啓文氏の「こなもん屋うま子」(実業之日本社文庫、☆☆☆★)は、帯のコピーで損しています。この本は「謎解きと人情の味」なんかでは決してありません。「B級グルメミステリー」という文句にも大いに違和感があります。大阪・ミナミを舞台にした7つの連作短編は、確かに「コナモン」とそれをめぐる人間模様を活写したものですが、そんな枠には入らないと思います。
内容をばらすわけにはいかないので詳しくは述べられませんが、主人公の蘇我屋馬子なるオバハンが最後に叫ぶ「アテが◯×△▽や!」という異様な迫力のあるセリフがこの作品の主題であるように感じました。面白いです。お薦めです。
で、ここらでまた警察小説が読みたくなったので、久しぶりに乃南アサ氏の作品、それも単行本は3年前に出ていた「禁漁区」(☆☆☆、新潮文庫)を手に取りました。この本もそうですが、最近は「監察」など、これまでとは違う角度から警察を描いた小説が増えましたね。
今度はおなじみ堂場瞬一氏のスポーツ小説「8年」(集英社文庫、☆☆☆)で、これまた第1刷は2004年1月というけっこう前の作品です。五輪で華々しい活躍をして将来を嘱望されながら、ある事情でプロ野球へと進まなかった主人公が、8年もたってから大リーグを目指します。正当派の作品です。
で、この浜田文人氏の「崖っぷち チーム・ニッポンの初陣」(光文社文庫、☆☆☆)は、新聞記者たちが主人公です。本職の刑事には、刑事ドラマの現実とかけ離れた描写が気になって観ないという人が多いと聞きます。それと同様、私からみると「そうかなあ」「そんなことないけど」という部分もけっこうありますが、まあフィクションですからね。
やる気を失いかけていた主人公の社会部記者が、日本新聞社の特別取材班「チーム・ニッポン」のメンバーになるよう命じられ、他部出身の仲間たちと迷いながらも取り組んだのは……。しかしまあ、なんで物語に登場する政治家はこんなのばっかりなのか。
さて、前回紹介した子竜螢氏の「不沈戦艦『紀伊』」の2巻「血戦」と3巻「勇戦」(コズミック文庫、ともに☆☆☆)が相次いで出たので早速買い求めました。今回は、いよいよソ連が参戦してきました。米国の原爆の行方も気になります。4巻が楽しみです。
やはり時代小説も読みたいと、上田秀人氏の「表御番医師診療禄」シリーズの第2巻「縫合」(角川文庫、☆☆★)を手に取りました。ある意味、ワンパターンの話なのに、主人公の立場や設定を変えただけでこれだけ読ませる作者に脱帽です。
安心の宇江佐真理氏の人情もの「高砂 なくて七癖 あって四八癖」(祥伝社、☆☆☆)は、日本橋掘留町の会所の管理人になった又兵衛と、その内縁の妻、おいせが出会い、かかわる人々との日々を描き、ほろりとさせられます。
山本一力氏の「千両かんばん」(新潮社、☆☆★)は、いつもの意地と心意気の山本節でした。
さて、また忙しくなりそうです。アルコールは摂取しつつ、手っ取り早く体力をつける方法って何かないのかしらん?
最近読んだ本について・疲労困憊編
約5週間ぶりのエントリ更新です。この間、参院選があり、衆参両院のねじれが解消したのはとりあえずよかったのですが、わが国の前途を考えると難問山積で、これからが大変ですね。あまりあれこれ考えすぎる煮詰まってしまうので、そういうときには軽めの読書が一番です。
というわけで、今回は誉田哲也氏の「増山超能力師事務所」(文藝春秋、☆☆☆)から。超能力の存在が公に認知された世界での、ある探偵事務所の物語です。最初は軽いタッチだなと思って読み進めていたのですが、さすがは「ジウ」の誉田氏、軽い一方ではありません。
超能力って、便利そうに見えて意外に不便で、何でもできるようでいて、実はたいしたことはできないという、SF小説では当たり前の設定が、ミステリ小説でふつうに出てくるというのも面白いところです。
次に、今野敏氏の「隠蔽捜査」シリーズの第5弾、「宰領」(新潮出版、☆☆☆)が出ていたので早速購入しました。相変わらず主人公の堅物キャリア官僚と、その余りの正論ぶりに困惑する周囲とのやりとりは楽しいのですが、この本でも政治家は「悪者」として登場します。
それが世間のイメージなのか、実際にそういう部分があるのか、とにかく警察小説に出てくる政治家はだいたい、否定的に描かれていますね。私の実感では、政治家は少し目立つのが好きではあるけれど、おおむね良くも悪くも普通の人、というのが実態だと思うのですが。
あと、この作品では警視庁と神奈川県警との確執が出てきますが、これも警察小説では定番ですね。あとで紹介する堂場瞬一氏の作品もそこに触れてありました。
お弁当の写真の表紙に惹かれて手に取ったのが、柚木麻子氏の「ランチのアッコちゃん」(双葉社、☆☆☆)でした。まあ、帯の文句に「元気が湧く、新感覚ビタミン小説」とある通りの内容で、4つの連作短編で構成されています。
その4本目、「アッコちゃん」はほとんど出てこない「ゆとりのビアガーデン」はいい味を出していました。私のようについ、気分が後ろ向きになりがちな人間は、定期的にこういう本を読んでポジティブ思考を取り入れないと……。
萩原浩氏の作品は初めてかな、この「家族写真」(講談社、☆☆★)はタイトルが気になって読んでみました。いろいろな「家族」の姿が、面白くも哀しく、軽妙に描かれています。いろいろあるけど、家族は家族だなと。
朱川湊人氏の「本日サービスデー」(光文社、☆☆★)は、冴えないサラリーマンである主人公が、神様が決めた「サービスデー」に何をするのか------というストーリーです。望むことはたいがいかなうというときに、自分だったらどうしようかと少し真面目に考えてしまいました。
で、堂場氏の「検証捜査」(集英社文庫、☆☆☆★)です。警視庁の花形、捜査1課である失敗を犯し、伊豆大島に「島流し」になっていた主人公が、ある日、神奈川県警の不祥事を検証する警察庁の特命チームに招集され……という設定も興味深いものですが、それより私は、出てくる女性刑事が、堂場氏の別のシリーズの女性と似たタイプだなあとヘンなところが気になりました。
気が強くてぶっきらぼうで、でも心根は実は優しくて……と、もしかしたら、堂場氏の好みかしらんと、どうでもいいことを考えたのでした。ともあれ、面白い。
参院選の期間中に、なぜか選挙をテーマにした小説に手を出してしまい、あまり息抜きや気分転換にならないなと苦笑したのが真保裕一氏の「ダイスをころがせ!」(講談社文庫、☆☆☆)でした。いい本なのですが、私のミスチョイスでした。
この本の登場人物たちの政治家や、政党政治に対する認識には少々、違和感を覚えましたが、徒手空拳で衆院選に出るという高校時代の友人に誘われ、秘書となった主人公たちが、選挙戦勝利に向けて一歩一歩前進する姿には、いろいろと考えさせられました。私自身、東京での取材がずっとメーンになっているので、もっと地方の現場を取材する機会をつくらないと、見方がいよいよ狭くなってしまうという反省も。
しばらく読むのはやめておこうと思っていたのに、やっぱり上田秀人氏の新シリーズ第1弾「表御番医師診療禄 切開」(角川文庫、☆☆★)に手を伸ばしてしまいました。相変わらず面白いエンターテインメントです、はい。
おおっ、こんな本が出ていたのかと嬉しくなったのが、子竜螢氏の戦記シュミレーション小説「不沈戦艦『紀伊』」(コスミック文庫、☆☆☆)でした。古い時代の遺物とされる大艦巨砲主義をあえて肯定し、航空機決戦主義を切って棄てる発想が楽しいですね。大和型をはるかに超える超巨大戦艦、紀伊の活躍やいかに……。気晴らしに最適でした。
さて、現実社会に戻ると、安倍首相は内閣法制局長官に、生え抜きではなく外部から小松一郎駐仏大使を抜擢する人事を決めました。小松氏は集団的自衛権行使容認派であり、この問題での首相の不退転の決意がうかがえます。
当然、左派メディアや野党、また公明党あたりから激しく横やりが入るものと予想されますが、わが国の国防をどうするかという国家百年の計のために邁進してほしいですね。
最近読んだ本について・運否天賦編
ごぶさたしています。いよいよ参院選まで4週間を切りましたね。6年前の今ごろは、日本の将来を悲観して焦燥感に囚われていましたが、今回は割合、淡々と落ち着いて事態の推移を見守れそうです。
というわけで、約2カ月ぶりに「読書エントリ」を投稿します。まずは、山本甲士氏の「俺は駄目じゃない」(双葉社、☆☆☆★)からです。下着泥棒に間違われて誤認逮捕された冴えない35歳の主人公が、被害者支援団体にそそのかされてブログで経緯を書いたことから事態は急転し……。
なんというか、タイトルがいいですね。それまでひたすら目立たないように、余計なことはしないようにと生きてきた主人公が、ブログにかかわったばかりに、いつのまにかそれまでと違う人生を生きることになります。まあ、細かいことは読んでのお楽しみ、ということで。
次は小路幸也氏の王道ホームドラマ小説「東京バンドワゴン」シリーズ第8弾、「フロム・ミー・トゥ・ユー」(集英社、☆☆☆)からです。堀田家のそれぞれの過去、あるいはいかにして家族の一員となったかが綴られています。
まあ、このシリーズについてはいちいち中身を紹介することはありませんね。下町の大家族がごく真っ当に生き、いろんな事件に巻き込まれ、それでも仲良く暮らしていくという、安心して読める内容です。
初めて坂木司氏の作品を手に取ったのが、タイトルにひかれたこの「和菓子のアン」(光文社文庫、☆☆☆)でした。高校卒業後、特にやりたいこともないままデパ地下の和菓子店でアルバイトをすることになったちょっぴり太めの主人公(通称アンちゃん)が、和菓子をめぐって繰り広げられる人間模様とミステリーに直面します。
で、これまで私は和菓子にほとんど関心がなかった(というより甘いものが苦手)だったのですが、これを読んで急に和菓子の造形美や名前が気になるようになりました。勢い、出張帰りなどに和菓子を買って帰ることも増え、娘に喜ばれています。
なので、続けて「坂木司リクエスト! 和菓子のアンソロジー」(光文社、☆☆☆)という本にも手を出してしまいました。これが北村薫、近藤史恵、柴田よしき、日明恩……各氏らけっこう豪華メンバーによって書かれており、SF作品まであって実際かなりできのいいアンソロジーでした。
こうなると泊まらず、坂木氏のなんとクリーニング店を舞台にしたミステリー「切れない糸」(創元推理文庫、☆☆★)も読みました。ただ、これは主人公の異常に鋭い友人のキャラクターなどに、すんなりと納得できないものがあり、私にはいまひとつでした。
そこで、やはりここはひとつ、時代小説に立ち戻ろうと、諸田玲子氏の「お鳥見女房」シリーズ第7弾、「来春まで」(新潮社、☆☆☆)を手に取りました。相変わらず、下級武士の世界がほのぼのとしていながら哀しく描かれ、楽しめました。
続けて、「日本晴れの読み心地!」という帯の文句にひかれて葉室麟氏の「螢草」(双葉社、☆☆☆)を買い求めました。宣伝文句ほどすっきりしたわけではありませんが、いかにも時代小説の王道をいく内容でいいですね。ラストは、こうでなくてはいけません。
堂場瞬一氏の筆の速さが怖ろしいほどですが、「警視庁失踪課・高城賢吾」シリーズの第10弾「献心」(中公文庫、☆☆☆★)が早くも出ました。この巻で、主人公の高城の人生を決めた家族の事件が、一応の決着をみます。ですがそれは……。
巻末、主人公は迷いつつも新たな仕事へと向かっていくのですが、自分ならどうだったろうと考えさせられます。あるいは、仕事とは何かと。まあ、簡単に結論を出す必要も何もないのですが。
そうこうしているうちに、高田郁氏の「みをつくし料理帖」シリーズ第8弾「残月」(角川春樹事務所、☆☆☆)も新刊が出ているのに気がつきました。こちらも、8巻目ともなると、いろいろ新たな展開が出てきます。物語も動き出したなあと、次巻が楽しみです。
シリーズものばかり紹介しているようですが、シリーズものが好きなのでご勘弁を願います。上田秀人氏の人気シリーズ「奥右筆秘帳」はこの第12弾「決戦」(講談社文庫、☆☆☆)で最終刊でした。あくまでエンターテインメントに徹しながら、将軍位とは、権力とは何かを考えさせるのが作者の力量ですね。素直に面白かったです。
最後は山手樹一郎氏の「世直し京介」(コスミック出版、☆☆★)です。いつもの痛快な山手ワールドなのですが、この作品の終わり方はちょっと中途半端なような……。まあいいか。
……今国会もあとわずか。あとはひたすら選挙、選挙ですね。でも本番、本当の仕事が始まるのは選挙後なので、ときに読書をのんびり楽しみながら政治を見ていこうと思います。
最近読んだ本について・ノーテンリーチ編
本日、日本国憲法は施行から66年を迎えました。現在、政界ではかつてないほど憲法改正の機運が高まっていますが、それだけに旧態依然とした護憲勢力もなりふり構わず、必死になってきたという印象があります。
参院選に向け、国民がどう判断していくのか、日本と日本人のあり方自体が問われる重大局面だと考えますが、それはともかく、今回は読書エントリです。
まずは、「はずれ」のない池井戸潤氏の「ルーズヴェルト・ゲーム」(講談社、☆☆☆★)から。タイトルは、野球を愛したルーズヴェルト大統領が「一番おもしろい試合は、8対7だ」と語ったとされるのが由来で、要は逆転、また逆転の大接戦を表しています。
長引く景気低迷の中で危機を迎えた会社と、その所属野球部の人間模様、ライバル企業との熾烈なやりとり、新製品開発に真摯な現場……などが、池井戸氏一流の手に汗握る筆致で描かれており、読み出すと止まりません。私はホント、「正義は勝つ」という予定調和、勧善懲悪の話が好きですね。現実は必ずしもそうではないだけに、物語の中ぐらいこうあってほしいと。
次に、同じ企業小説ということで、久しぶりに江上剛氏の作品を手に取りました。この「銀行支店長、走る」(実業之日本社、☆☆★)がそれですが、この本は妙にタッチが軽いというか、軽妙さを狙うばかりにかえって感情移入ができないというか……。
主人公の支店長が盛んに孫子を引用したり、銀行支店の「女番長」などというキャラクターが出てきたり、ヤクザだ政治家だのと悪役の設定も類型的で、なんだかなあ、という後味が残りました。以前けっこうまとめ読みした江上氏の小説は、必ずしもそうではなかったのですが。
で、この読書エントリの「常連」作家である原宏一氏の「握る男」(角川書店、☆☆☆★)についてです。これは作者の意欲作というのか何というのか、帯に「これが本当に、原宏一の作品なのか」とあるように、今まで紹介してきたものとは作風がガラっと変わっています。
タイトルは象徴的で主人公は両国の寿司店の小僧としてまず寿司を握り、やがて日本の「キン◯」を握ろうとするのですが、その過程の描写が「黒い」というかえげつないというか。読んでいくうちに気持ちが前向きになる作品が多かったこれまでの原氏のストーリー展開と全然違いますが、面白い。
食べ物つながりで読んだ山本一力氏の「おたふく」(文春文庫、☆☆☆)は、いつもの「一力節」満開でした。それが分かっていて読んでいるのでもうあれこれ言いませんが、若干、本当にそうなるかなあ、これでいいのかなあ、という疑問は残りました。
山本幸久氏の「渋谷に里帰り」(新潮文庫、☆☆☆)は、やる気の見えないサラリーマンである主人公が、ずっと避けてきた故郷・渋谷地区での営業を命じられ、旧友らに再開したり、過去をたどったりするうちに、仕事のおもしろさに目覚めます。
最後に、おそらく初めて読んだ真山仁氏の「プライド」(新潮文庫、☆☆☆★)を紹介します。7編の短編集が収められた短編集なのですが、それぞれが事業仕分け、農家の戸別補償制度など民主党政権の批判になっている部分があって楽しめました。
特に、わずか3ページの短編「歴史的瞬間」は、ある人物をモデルにしているのが明らかで、ニヤニヤしながら読みました。例えば、こんな描写が出てきます。
《総理大臣になるのが夢だった。そのためには、あらゆる卑怯な手段も躊躇なく選んできたし、どんな顰蹙を買っても目立つことは何でもやった。そして俺は総理の座を手に入れたのだ。夢は叶った。だが、まだ物足りない。歴史に名を刻むような実績がないからな。それどころか、このままだと汚名を残しかねない。閣僚の舌禍が続き、内閣支持率は10%を切ろうとしている。でも俺は辞めない。この粘り腰こそが身上だからだ。そして起死回生のチャンスが巡ってきた。》
……どう考えてもモデルはアレですね。アレは望み通り、歴史の教科書に「原発対応の不手際」で名を残しました。一個人の人生としてはある意味、完結しており、立派なものです。国民にとっては大迷惑で、いい加減にしてほしいのですが。