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  さて、国民の大きな期待を背に受けて出発した民主党政権も2年余が過ぎ、かつては政権のたらい回しを批判していたにもかかわらず、3代目の首相が今、政権の座に就いていますね。

 

 鳩山由紀夫元首相、菅直人前首相については、おおよそどういう人物であり、どういう方向性を持っているのかある程度つかめているという思いもあり、好き勝手書いてきましたが、野田佳彦首相に関しては、まだ「この人はこうだ」と明言、断言できる材料が十分私の中に蓄積されていないので、どうも論じにくい状況が続いています。

 

 この人は、来年秋の民主党代表選で再選されるまでは、ひたすら大人しく頭を低くしてやりすごそうと考えているフシもあり、政局はなんだか「凪」となっています。もちろん、ある意味多士済々の民主党政権のことですから、このまま何事もなく無事に済むとは思いませんが、世間にも少々、批判疲れがあるように感じます。

 

 というわけで、本日は久々に読書シリーズをアップします。まずは、ここの常連、堂場瞬一氏の「異境」(小学館、☆☆☆★)からです。相変わらず、この人の作品の登場人物はアクの強い狷介な人物ばかりで、そこが少し疲れますが、おもしろい。

 

 

     

 

 上司との対立で本社社会部を追われ、横浜支局に赴任した中年記者が、失踪した嫌われ者の後輩記者を捜すという仕事を命じられ、あれこれ足跡をたどるにつれ、ある事件にぶつかり……というストーリーです。主人公が左遷された中年記者である点に関心を覚えました。

 

 奥田英朗氏の短編連作小説「我が家の問題」(集英社、☆☆☆★)はもっと軽妙なタッチというか、重苦しくはありません。でも、タイトルが示すように家族の問題というのは、それはそれでいろいろと考えさせられます。

 

 

     

 

 特に、帯「どうやら夫は仕事ができないらしい」とある「ハズバンド」という作品は、あくまで淡々とした描写ながら、切ないというか胸にどしんとこたえるものがあります。他人事とは思えないというか……。

 

 お気に入りの今野敏氏の「隠蔽捜査シリーズ」第4弾、「転迷」(新潮社、☆☆☆★)は相変わらず見事な黄金パターンというか読ませます。サラリーマンのニーズに実にうまく応えていて、帯に池上彰氏の推薦文が入るところが何とも……。

 

     

 

 まあしかし、この作品の主人公も、警察庁の中堅キャリアでありながら、降格人事で警視庁大森署の署長となっています。官僚は人事がすべてといいますが、一般企業のサラリーマンでも、それは似たようなものでしょうね。ちなみに、私は社会部で警視庁を担当しているとき、大森署管内で起きた殺人事件で走り回ったことがあるので、その意味でも感慨深い読み物でした。

 

 宇江佐真理氏の「髪結い伊三次捕物余話」シリーズ第10弾「心に吹く風」(文藝春秋、☆☆☆★)を読んで、改めてこの作者はつくづく上手い書き手だなあという感を深くしました。人生いろいろ、だけどみんな懸命に生きているのだなあという当たり前のことを、しみじみ味わうことができました。

 

     

 

 シリーズも10巻目ですから、登場人物はそれぞれ齢を刻み、状況も生きる環境も少しずつ変化していき、だけどそれぞれ真っ当に暮らしている。静かな感動があります。

 

 井上荒野氏の作品は初めて読んでみました。この「キャベツ炒めに捧ぐ」(角川春樹事務所、☆☆☆)は、洒脱(?)な題名に惹かれて手に取ったのですが、総菜屋で働く3人の中年というか初老の女性の人生がけっこう重く迫ってきました。

 

     

 

 といって、暗いわけでもなく、人生そんなに捨てたものじゃないという気分にはなるのですが。いやもっと、料理を中心とした明るい話かと勝手に想像して読み始めたもので、現実はこういうものだと突きつけられたような印象がありました。

 

 一方、小路幸也氏の「カウハウス」(ポプラ文庫、☆☆☆)は、現代のファンタジーとでもいうべき明るい色調の本でした。主人公もそのパートナーも決して幸せな生い立ちではありませんが、それゆえに誠実に生きていて。

 

     

 

 ただ、この作品の主人公も、ばりばり働く商社マンだったにもかかわらず、上司とケンカしてわずか25歳にして社保有(死蔵)の豪邸の管理人に飛ばされます。なんか、心境にたまたま合ったのか、気がつくとそういう本ばかり読んでいますね。

 

 高田郁氏の「みをつくし料理帳」シリーズも第6弾を数え、今回の「心星ひとつ」(ハルキ文庫、☆☆☆)ではけっこう大きな展開がありました。主人公は、差し出された幸せを選ぶか大望を選ぶかの選択を迫られます。

 

     

 

 志の小さな小市民である私ならば、間違いなく身近な幸せを選ぶことでしょうが、主人公は結局……。女料理人とその親友をめぐる波瀾万丈、数奇な運命はいかに。地味な主人公と作品かと思ったら、けっこう派手な展開でした。

 

 小説で読む哲学入門と銘打たれた適菜収氏の「いたこニーチェ」(朝日文庫、☆☆☆★)は、まず題名にしぴれ、帯の「ある日、ニーチェが降りてきた」との単純明快な紹介に読まずにいられませんでした。いや実際これ、実に優れたニーチェの入門書となっています。

 

     

 

 主人公はある日、ある日高校時代の知人から現世否定の夢を操る「プラトン一味」と決めつけられ、知人に「降りて」きたニーチェに徹底的に説教され、罵倒され、早く洗脳から覚めろと迫られます。いやおもしろい。

 

 大石直紀氏の「グラウンドキーパー狂詩曲」(小学館文庫、☆☆☆)は、売れなくなったかつてのベストセラー作家が、生活のために暇そうなスポーツ公園管理事務所に務めたところ……というストーリーです。

 

     

 

 市役所から天下りしてきた全くやる気のなさそうな同僚たちと日々をぼんやりやり過ごしている間にも、主人公の身辺は少しずつ変化していきます。市政を牛耳るポス、公務員のあり方、それぞれの事情……といろいろ接しているうちに、主人公の気分、姿勢もまた変わっていく姿が読ませます。

 

 山本甲士氏はかなり好きな作家なのですが、この「バスのから騒ぎ」(双葉文庫、☆☆★)はうーん、正直いまひとつだと感じました。題名の通り、バス釣りをめぐる反対派と賛成派の対立や、それに巻き込まれて右往左往し、あるいは破滅を迎える人たちを描いた連作小説なのですが……。

 

     

 

 結局、好みの問題なのでしょうが、この人の他の作品で味わえたカタルシスが、この本では感じられませんでした。同じ釣りものでも、「あたり 魚信」はとても面白かったのですが。

 

 上田秀人氏の「闕所物奉行 裏帳合」シリーズも第5弾「娘始末」(中公文庫、☆☆☆)が出ていました。ストーリーは、まあもういいでしょう。

 

     

 

 ただ、身分の低い主人公が、上司である目付けの鳥居耀三にふだんは屈服しながらもときに厳しく対峙し、付かず離れず生き抜こうとする姿は、やはりサラリーマンには魅力的です。下手をすると左遷どころか切腹・暗殺の世界ですからね。

 

 ここ2年間は、激動する政局に追われ、常軌を逸した指導者たちの言動に振り回されていましたが、今後はしばらくおろそかになっていた「勉強」に力を入れようと思っています。あと、アルコールの量も減らさないとなあ。

 

 

 

 昨日、ひんやりとした風が心地よい北の大地から灼熱の(そうでもなかったけど)東京に戻ってまいりました。休みの間も、政治の世界ではいろいろあったようですし、一応ニュースはチェックしていましたが、離れた場所にいたことで、少しは冷静に、客観的に見る気持ちを取り戻せました。

 

 もとより、私のような卑小な存在は、この世にいてもいなくても取るに足りなものであるので、優秀な後輩たちに仕事を丸投げしておいても、何の支障も生じません。組織の歯車の一片であることを自覚し、かつその立場を利用しつつ、淡々とぼちぼちやっていこうと思います。

 

 というわけで、本日は1カ月半ぶりの読書エントリとします。今回は割とバタバタしていたこともあり、比較的あっさり読める本が多くなりましたが、その中でも「ああ、こんな作品があったのか」という収穫はありました。読書には、まだ見ぬ出会いがたくさん残されているのがうれしいですね。

 

 まずは笹本綾平氏の「春を背負って」(文藝春秋、☆☆☆★)から。この人は警察小説もおもしろいのですが、山を舞台にした作品も実に味わいがあります。あっ、ずっと以前に紹介した「駐在刑事」なんて、その両方を兼ねていますね。

 

          

 

 この小説は、ある事情から脱サラして亡父の山小屋を継いだ主人公の身の回りにおきる出来事、小さな奇跡を描いたもので、しみじみと楽しめます。小泉元首相ではありませんが、「人生いろいろ」あっていいじゃないかと。

 

 で、次の奥泉光氏の作品「桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活」(文藝春秋、☆☆☆)は、題名と表紙をみて、おしゃれなイメージを持ったとしたら完全に裏切られます。これは、とことこんダメ人間である主人公が、最底辺をうろうろし、時に向上心の欠片を胸に抱き、すぐに現実に妥協し親しんでしまうというお話であり、表紙絵の登場人物はみんな著しく美化されています。

 

 この人の本は初めて読んだのですが、速射砲のように繰り出される言葉遊びというか、ユーモラスな表現に笑えます。ストーリーは…まあ、どうでもいいのですが、千葉の田舎にあるたらちね国際大学に職を得た筆者が、学生たちに馬鹿にされ、安月給に愕然としつつ、将来の展望も何もなく何とか生きているという基本に、ミステリがちょっと、というところでしょうか。

 

          

 

 澤田ふじ子氏の「血は欲の色」(☆☆☆)は「公事宿事件書留帳」の第19集目であり、もう何度も紹介してきたので、中身には触れません。そのときどきの時事テーマ、話題になった事件などを作品のテーマに取り込んでいて、あああの話かと納得させられるのですが…。

 

 人間の欲が際限のないことは、アレ(人間かどうかはともかく)の延命欲を見れば疑いようがありませんが、その欲の持ち方は人それぞれなのでしょうね。私は、食に対する諸欲はかなり強い方ですが、その他の物理的な欲は薄い方かもしれません。

 

 出世欲も金欲もあまり優先順位が高くなく、最近よく目にするキーワードである「利権」という言葉にも、感度が鈍く、よほど意識して注意していないと、そういう視点が抜け落ちそうになります。また、すべてを利権の観点から説明しようとする論調にも、世の中も人もそんな単純なものではないだろうという気がして、腑に落ちないのです。

 

          

 

 ヒキタクニオ氏の時代小説「影桜、咲かせましょう」(徳間書店、☆☆★)は、この人の現代物は割と好きだっただけに、少々、がっかりしました。シリーズものにする前提で書いているのか、主人公の背景も、登場人物との関係性も説明不足というか、実のところよく分からず、そのため、物語の説得力も弱い気がします。

 

          

 

 せっかく「贋屋」という風変わりな設定を用意し、興味深い生き方をテーマにしたのに、元武士だった主人公がそこに至った道程はおざなりにしか語られていません。うーん、よく分からない。

 

 いつもの上田秀人氏の「刃傷 奥右筆秘帳」(講談社文庫、☆☆☆)は、少し物語に展開がでてきてほっとしました。あとは略。

 

          

 

 著者の立石勝規氏は元毎日新聞論説副委員長であり、「論説室の叛乱」(講談社文庫、☆☆☆)は同業他社の人が、どのように報道のあり方や自分たちの仕事を考えているのかという興味もあって手に取りました。

 

 結論は、まあ、同業者である身にとってはおもしろかったのですが、少々うちわウケというか、ある種鼻につくものもあります。それと、私より20歳以上年上である筆者の世代の新聞観、記者の社会的立場は、やはりわれわれの実感と異なるのだなと確認できました。おそらく、今の若い記者が見ている世界は、これまた私が体験し味わってきたものとは別世界なのでしょう。

 

          

 

  私の最近のお気に入りの作家の一人である山本甲士氏の「再開キャッチボール」(☆☆☆)は、さらっと読めるけれど、なかなか味わい深いものでした。いろいろと挫折を経験し、ホームレスを経て生活かつかつのフリーのライターとなった主人公に、絵に描いたような勝ち組人生を送ってきたはずの会ったこともない父から接触があり…。

 

          

 

 これはおもしろい!続編が一刻も早く読みたいという気分になったのが、恩田陸氏の「チョコレートコスモス」(角川文庫、☆☆☆☆)でした。私はあまり演劇に関心がないので、演劇を舞台にした小説といわれても…と最初は二の足を踏んでいたのですが、これがなかなか。

 

 読んでもらえばすぐに分かりますが、これは漫画「ガラスの仮面」を一つの下敷きにしています(紫のバラの人なんて出てきませんが)。二人の主人公がどこまで行くのか、現在連載中だという続編が早く刊行されることを祈ります。 

 

 

          

 

  この赤井三尋氏の「翳りゆく夏」(講談社文庫、☆☆☆☆)ものめり込むようにして読みました。2003年に江戸川乱歩賞を受賞したという作品を今さらのように読んだのですが、いやあ、期待以上のミステリの王道をいく作品でした。

 

 やはり、作品にリアリティーがあり、かつ展開が読めず、しかも登場人物に魅力があるという三拍子がそろうと楽しいですね。誘拐事件の後日談という決して明るくない話だし、実際、終わり方も救いがあることはあるけれどどうなんだろうという感じですが、お薦めです。

 

          

 

 …上の二作品については、電車の中で読んでいてとまらなくなり、駅についてからも歩きながら職場まで読み続けました。さて、これから月末にかけて、政界の動きはますますヒートアップし、熱い暑い日々が続くことになりそうです。でも、それはそれとして、日々、国民を不幸にするためまき散らされるアレの毒を解毒するためにも、読書を楽しみ続けようと思います。

 

 さて、本日は7週間ぶりに読書エントリとします。この間、政界はドタバタ劇を繰り返し、ルーピーとペテン師による三文芝居などをいやいや見させられたわけですが、口直しにしっかり読書は続けていました。今回は、割と「収穫」があり、ささやかながら楽しい読書時間を過ごすことができました。

 

 まず、久しぶりに万城目学氏の新刊「偉大なるしゅららぼん」(集英社、☆☆☆★)が出版されたので、早速読みました。この人の作品の舞台は京都、奈良、大阪ときて今回は滋賀であります。このあたりが好きなのだろうなあ。

 

 読後感は、一言でいうと「なんなんだ、これは」。相変わらずぶっ飛んだキャラが活躍(?)する万城目ワールドそのものですね。ストーリーを紹介する意味などないと思うのでそれはしませんが、続編の刊行を予感させる終わり方になっています。楽しみです。

 

     

 

 で、次に紹介する樋口毅宏氏は初めて読んだのですが、この「民宿雪国」(祥伝社、☆☆☆★)はいい意味で期待を裏切られました。この本も読みながら何度か「なんなんだ、これは」と驚かされました。実はこの作品の主人公の正体は恐ろしい…。

 

 なんか地味なタイトルで、始まりも、ある画家の伝記風なので、しっとりと読ませる作品なのかと思うととんでもない。いやはや、作者は本当に好き勝手書いています。ド派手というか陰惨というか…面白い。

 

     

 

 高野和明氏の「ジェノサイド」(角川書店、☆☆☆☆)は、SF好きにはたまりません。うーん、久しぶりに素敵なSF小説を読ませてもらったという感があります。題名が表す通り、けっこう残虐な場面が多く、ストーリーも決して希望に満ちたものではありませんが、これはいい。

 

 人類の「次に来る者」の設定、描写、扱いがよく練れているなあと感心させられました。かなり没頭して読めたので、その間は官邸に巣くう「大ナマズ」の不景気で殺伐とした面を忘れることができました。感謝です。

 

     

 

 小路幸也氏の「東京バンドワゴン」シリーズ第6段となる「オブ・ラ・ディ・オブ・ラ・ダ」(☆☆☆)は、ホームドラマの王道を行き、安心して楽しめます。こういう家族がいたら…という憧憬を誘う内容で、ちょっとテレビドラマ風すぎる気がしないでもないですが。

 

     

 

 山伏、陰陽師、忍者…その他が入り乱れて出てくる独特の世界を描く荻原規子氏の「レットデータガール」シリーズも4作目の「世界遺産の少女」(角川書店、☆☆☆)が発売されました。だんだん物語の謎が解き明かされてきました。主人公も成長し、これからどうなるのか早く続きが読みたいところですが、5巻が出るのは1年後かなあ…。

 

     

 

 こちらは有名な夢枕獏氏の陰陽師シリーズの第11作「醍醐ノ巻」(文藝春秋、☆☆☆★)です。シリーズ累計500万部を超したそうですが、相変わらず2人の主人公の掛け合いというか、友情がいい味を出しています。これも、ストーりーの解説は無用ですね。

 

     

 

 大沢在昌氏の新宿鮫シリーズの第10弾「絆回廊」(光文社、☆☆☆★)が5年ぶりに出たのはうれしい驚きで、かつ、帯に最高傑作と銘打ってあるだけあって、かなり面白い内容でした。

 

 詳しくはかけませんが、主人公をめぐる人間関係を含む環境に大きな変化が訪れます。次回作がイヤが応でも楽しみです。今回、作中に出てくるしつこい記者が、主人公のまきぞえを食らって銃弾を受け、重傷となるのですが、ざまを見ろという気にすらなりました。

 

     

 

 毎度紹介している佐藤雅美氏の物書同心居眠り紋蔵シリーズもこの「ちよの負けん気、実の父親」(講談社、☆☆☆)で第11弾だそうで、相変わらずしみじみ楽しめます。わが家の本が増えるはずです。読み返さないと判断したら古書店に売りにいくのですが、佐藤氏の作品はいつか読み返すだろうと思うし…。

 

     

 

 さて、この銀行小説の名手、池井戸潤氏の文庫版書き下ろし短編集「かばん屋の相続」(文春文庫、☆☆☆)は、前回の読書エントリの時点ですでに読了していたのですが、紹介し忘れていました。帯の「いろいろあるさ、でも、それが人生だ」というコピーがいいですね。

 

 表題作の短編には、こんなに類型的なイヤな奴がいるだろうかという人物が出てきますが、やっぱり現実にもいるのだろうなあ。わが国の宰相がそもそも人の心を持たない人モドキだし。

 

     

 

 最後に、浜田文人氏の「若頭補佐 白岩光義 東へ、西へ」(幻冬舎文庫、☆☆☆)です。これは、同じ著者の以前紹介した「捌き屋」シリーズの特別(兄弟)編といえるかもしれません。義理堅く、女好きで、それでいてストイックなインテリ極道の活躍が痛快です。

 

     

 

 …政界の権力争い、足の引っ張り合い、醜いエゴ、結局は「俺が俺が」ばかりの打算的な人間関係を日常的に見ていると、つくづく読書の時間は貴重です。本を読むことで心の平衡感覚を取り戻さないと、すぐに頭が煮詰まってしまいそうです。

 

 まあ、こんな小理屈をこねるまでもなく、ただ読書が好きなだけですが。今夜は何を読みながらビールを飲もうかと、今からその時間を待ちわびているのでした。

 

 きょうはゴールデンウイークの最中なので、震災後で初めて、久しぶりに読書エントリとします。私も本日は休み(といっても、明日以降はまた仕事)をもらったので、少しのんびりとした気分を味わっています。

 

 さて、きょうまず紹介するホーガンの「星を継ぐもの」(創元SF文庫、☆☆☆☆)3部作は、第1巻は1980年初版の古いSF小説であり、私も最初に読んだのはおそらく高校生のころだったと思います。

 

 この古い本を本棚から引っ張り出して今回、再読(というか再々々読ぐらい)したのは、この英国出身で米国で活躍した小説家の、驚くほどあっけらかんとした科学信仰、人類賛歌、楽観主義を再確認したからでした。震災発生直後、猛烈にこの小説を読みたいという気分に襲われたのでした。

 

      

 

 この作品の中で、準主役として登場する生物学者のダンチェッカーは例えばこう述べます。何度読んでもほとんど脳天気とも言える前向きさですが、そこから元気をもらいたい気分だったのかもしれません。

 

 「たいていの動物は、絶望的状況に追い込まれるとあっさり運命に身を任せて、惨めな滅亡の道を辿る。ところが、人間は決して後へ退くことを知らないのだね。人間はありたけの力をふり絞って、地球上のいかなる動物も真似することのできない粘り強い抵抗を示す」

 

 …おっとストーリー紹介をすっかり忘れていました。裏表紙の紹介分をそのまま写すと《月面で発見された真紅の宇宙服をまとった死体。だが綿密な調査の結果、驚くべき事実が判明する。(中略)彼は五万年前に死亡していたのだ!一方、木製の衛星ガニメデで、地球の物ではない宇宙船の残骸が発見される…。》

 

 で、次は古書店で未読のヘミングウェイ作「インディアン部落・不敗の男」(岩波書店、☆☆☆)を見つけたので、これまた実に久しぶりにこの作者の本を読んでみました。

 

     

 

 まだ開拓時代のにおいが残る米国の自然と、人間の暮らしが、ありありと目に浮かぶようでした。にしても、パンチドランカーってこの時代からいたのか…。まあそりゃそうか。

 

 その後、なぜか将棋に関係する小説を続けて2冊読みました。私自身は、子供のころにちょっとかじったことがある程度で、特に将棋に思い入れがあるわけでも何でもありませんが、そういえば将棋漫画なんかもよく読むなあ。ちなみに、最近は「王狩り」がいい。

 

 ともあれ、貴志祐介氏の「ダークゾーン」(祥伝社、☆☆☆)から。この人の「新世界から」は心底、面白かったというか衝撃的でしたが、こっちは、うーん、あまり読後感はよくありません。カタルシスがないというか。

 

     

 

 ストーリーは、主人公をはじめ登場人物たちが、気がついたら異形の姿となって、将棋によく似たルールの下、相手の「キング」を倒すまで意味も目的も分からぬ殺し合いを続けさせられ、その果てに…というものです。確かに、物語世界はよくできているし、面白いのはそうなのですが、あまりに救いがないように思えて。いや、この結末はこれで一つの救いではあるのですが…。

 

 もう一つの将棋関連の塩田武士氏の「盤上のアルファ」(講談社、☆☆☆★)は、二人の主人公の設定がともに「性格が悪い」というある意味、痛快な設定です。

 

     

 

 で、この作品は著者のデビュー作というわけなのですが、著者は神戸新聞の33歳(だったかな)の記者なのですね。他紙ではありますが、自分よりかなり年下の記者の作品ということで、当初はどこか原稿をチェックするような気持ちで読み進めていましたが、やられました。

 

 途中、随分と不自然な場面がいくつかあるので、まだ粗いのかなと思っていたら、ラストでこれらがみんな盤上に置かれた重要な「布石」であることに気づかされました。脱帽します。

 

 有川浩氏の「県庁おもてなし課」(角川書店、☆☆☆)は、題名を見た瞬間に「買うか」と手に取りました。知らなかったのですが、これ、新聞小説だったのですね。

 

     

 

 高知県庁で働く地方公務員たちが、いかにお役所仕事のぬるま湯から脱して「おもてなしマインド」を身につけるかという話で、とてもさわやかな読後感があります。読むと高知県観光に出かけたくなること請けおいます。

 

     

 

 堂場瞬市氏の警視庁失踪課シリーズは何度も紹介しているのでストーリーはあえて触れませんが、今巻「波紋」(中公文庫、☆☆☆)では新たな展開がありました。物語がいよいよ動きだしそうです。今巻の最後の一文、しびれます。

 

     

 

 高田郁氏のみをつくし料理帖シリーズも第5弾の「小夜しぐれ」(ハルキ文庫、☆☆★)となりました。こっちも少しずつ物語が進み出しました。このシリーズを読むといつも思うのは、主人公が働く料理屋が近くにあれば、毎日通うのになあ、ということです。

 

     

 

 相変わらず、現実逃避がしたくなると山手樹一郎氏の世界に没入することにしています。この「世直し若さま」(コスミック、☆☆★)にしても、現実にはありえない一つの桃源郷を描いているわけですが、それが心地よい。勧善懲悪はいいなあ。

 

     

 

 上田秀人氏の闕所物奉行シリーズ第4弾の「旗本始末」(中公文庫、☆☆★)は、相変わらず宮仕えのあれこれに悩みもだえるサラリーマンの心に寄り添っています。しっかし、菅直人首相を見ていても不思議に思うのですが、これほど集中砲火を浴びてもしがみつきたくなるほど、そんなに地位や権力って、うまみなり面白みがあるものなのでしょうか。

 

 ただのヒラ記者には理解ではない世界です。まあ、別に理解したくもありませんが。

 

 本日は約2カ月ぶりに読書シリーズのエントリとします。実はこのところ、どうも集中力が途切れがちなのと、なぜだか「これだ」という本(特に小説)に巡り会わないのとで、読書があまり捗っていませんでした。なので、2カ月ぶりにしては、こじんまりとした紹介になりますが、まあ、もともとどうでもいいシリーズなのでご勘弁ください。

 

 まずは、久しぶりに読んだ宮部みゆき氏の「小暮写真館」(講談社、☆☆☆★)からです。高校生が主人公の700ページ以上あるけっこう分厚い作品なのですが、読後感は爽やかです。

 

     

 

 元写真館という中古住宅に引っ越してきた主人公の身の回りで起きる不思議なできごとと、いわゆるひとつの青春事情が鮮明に描かれていて、どこかノスタルジアを覚えました。私は、高校生など若者が主人公の物語には共感を持ちにくいのですが、この作品はいいです。あと、鉄道好きの人にも興味深いかもしれません。

 

 次は、今野敏氏の警視庁科学特捜班シリーズのさらに伝説の旅シリーズ第3弾「沖の島伝説殺人ファイル」(講談社、☆☆★)です。これは私の地元・福岡県の「海の正倉院」とも呼ばれる沖ノ島を取り上げた作品です。

 

     

 

 まあ、その土地土地のタブー、因習と警察捜査という切り口は面白かったし、地元ゆえの関心もあったのですが、とりたてて盛り上がる部分もなく淡々と話が流れていき、ごく簡単に読み終わったというのが読後感でした。

 

 大人の意識を持ったまま、小学5年生時代に行きつ戻りつして当時を追体験、改変できたら…という珍しくはない設定なのですが、それが自分だけではないとしたらどうなるか。そこに3億円事件がからんで…。小路幸也氏の「カレンダーボーイ」(ポプラ文庫、☆☆☆)はそんなお話です。

 

     

 

 読みながら、自分だったらどうだろうかと考えてみたのですが、私は恥の多い人生を生きてきた(現在進行形ですが)ので、あまり昔に戻ってアレを繰り返したくないなあと。主人公が最後になくすものに、少し切なくなりました。

 

 山本甲士氏の「迷わず働け」(小学館文庫、☆☆☆)は、ありていに言って「迷わず働け」という内容です。…これでは何の紹介にもならないので少し付け加えると、怠け者でカネのない主人公が、自分とそっくりの友人になりすましてある会社に潜り込んでみたものの、状況・環境は予想をはかるかに超えて厳しく、嫌が応にも智恵を絞り、死力を尽くして頑張らざるをえず、その結果…というストーリーです。

 

      

 

 なんというか、山本氏の小説は確かに痛快です。「とげ」「かび」などの作品は、日頃の鬱憤晴らしにぴったりでしたが、この「迷わず--」はもっと軽い気持ちで楽しめます。

 

 さて、次は浜田文人氏の「CIRO 内閣情報調査室 香月喬」シリーズの第2弾「機密」(朝日文庫、☆☆☆)です。私はずっと以前の読書エントリで、浜田氏の作品が山梨県を取り上げているにもかかわらず、山梨県教職員組合について触れていなかった点をちょっと残念だと書きました。それと関係はないでしょうが、今回の作品は日教組ならぬ「日教連」が重大な役割を果たします。日教連による公選法違反事件なんて舞台装置も出てくるところが楽しいです。

 

     

 

 しかも、新聞社の政治部が犯罪がらみでできたり、例の官房機密費がどうしたこうしたという話がでてきたりで、興味深い内容でした。まあ、当然、小説(フィクション)なので、そのまま実際のところが描かれているわけではありませんし、私の実感とは異なりますが、面白く読めました。

 

 で、ここらで時代小説が読みたくなり、いつもの上田秀人氏に手を出し、「関東郡代記録に止めず 家康の遺策」(幻冬舎、☆☆★)を読みました。

 

      

 

 関東郡代の伊奈家を主人公に持ってきたところは目新しいと感じましたが、あとは、いつもの徳川の秘密もので、特にオチは「うーん」と首をひねりました。たくさん書き続けるというのは大変だなあと、改めて思った次第です。

 

 そうなると、時代小説の原点に戻りたくなり、これまた久しぶりに山手樹一郎氏の「恋染め浪人」(コスミック、☆☆★)を手に取りました。実は山手氏の作品は10年ぐらい前にけっこうまとめて読んでいました。

 

     

 

 内容は…タイトルと帯にある通りです。まあ、リアリティーを重視して「ありえない」と思うよりも、一つの物語世界に遊び、憂き世を忘れる効果を楽しむのがいいですね。で、これは書店で買ったのですが、さらに自宅の本棚から同じく山手氏の「遠山の金さん」シリーズ3冊も引っ張り出して読みふけりました。殺伐とした時代、日々だからこそ、春風駘蕩とした予定調和の世界に憧れてしますます。

 

     

 

  …本日の南関東はいい天気で、日差しも温かく、まるっきり春のようです。そんな日曜日に、菅直人首相は現在、写真スタジオに写真撮影のため出かけています。

 

 衆院選のポスター用の写真撮影だったらいいなと、ふとそんなことを思います。菅氏は、明日で鳩山由紀夫前首相と在任日数が並ぶそうですが、それでもういいだろう、もはや思い残すことはないだろうと…。  

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