ごぶさたしています。いよいよ参院選まで4週間を切りましたね。6年前の今ごろは、日本の将来を悲観して焦燥感に囚われていましたが、今回は割合、淡々と落ち着いて事態の推移を見守れそうです。

 

 というわけで、約2カ月ぶりに「読書エントリ」を投稿します。まずは、山本甲士氏の「俺は駄目じゃない」(双葉社、☆☆☆★)からです。下着泥棒に間違われて誤認逮捕された冴えない35歳の主人公が、被害者支援団体にそそのかされてブログで経緯を書いたことから事態は急転し……。

 

 なんというか、タイトルがいいですね。それまでひたすら目立たないように、余計なことはしないようにと生きてきた主人公が、ブログにかかわったばかりに、いつのまにかそれまでと違う人生を生きることになります。まあ、細かいことは読んでのお楽しみ、ということで。

 

     

 

 次は小路幸也氏の王道ホームドラマ小説「東京バンドワゴン」シリーズ第8弾、「フロム・ミー・トゥ・ユー」(集英社、☆☆☆)からです。堀田家のそれぞれの過去、あるいはいかにして家族の一員となったかが綴られています。

 

     

 

 まあ、このシリーズについてはいちいち中身を紹介することはありませんね。下町の大家族がごく真っ当に生き、いろんな事件に巻き込まれ、それでも仲良く暮らしていくという、安心して読める内容です。

 

 初めて坂木司氏の作品を手に取ったのが、タイトルにひかれたこの「和菓子のアン」(光文社文庫、☆☆☆)でした。高校卒業後、特にやりたいこともないままデパ地下の和菓子店でアルバイトをすることになったちょっぴり太めの主人公(通称アンちゃん)が、和菓子をめぐって繰り広げられる人間模様とミステリーに直面します。

 

     

 

 で、これまで私は和菓子にほとんど関心がなかった(というより甘いものが苦手)だったのですが、これを読んで急に和菓子の造形美や名前が気になるようになりました。勢い、出張帰りなどに和菓子を買って帰ることも増え、娘に喜ばれています。

 

 なので、続けて「坂木司リクエスト! 和菓子のアンソロジー」(光文社、☆☆☆)という本にも手を出してしまいました。これが北村薫、近藤史恵、柴田よしき、日明恩……各氏らけっこう豪華メンバーによって書かれており、SF作品まであって実際かなりできのいいアンソロジーでした。

 

     

 

 こうなると泊まらず、坂木氏のなんとクリーニング店を舞台にしたミステリー「切れない糸」(創元推理文庫、☆☆★)も読みました。ただ、これは主人公の異常に鋭い友人のキャラクターなどに、すんなりと納得できないものがあり、私にはいまひとつでした。

 

     

 

 そこで、やはりここはひとつ、時代小説に立ち戻ろうと、諸田玲子氏の「お鳥見女房」シリーズ第7弾、「来春まで」(新潮社、☆☆☆)を手に取りました。相変わらず、下級武士の世界がほのぼのとしていながら哀しく描かれ、楽しめました。

 

     

 

 続けて、「日本晴れの読み心地!」という帯の文句にひかれて葉室麟氏の「螢草」(双葉社、☆☆☆)を買い求めました。宣伝文句ほどすっきりしたわけではありませんが、いかにも時代小説の王道をいく内容でいいですね。ラストは、こうでなくてはいけません。

 

     

 

 堂場瞬一氏の筆の速さが怖ろしいほどですが、「警視庁失踪課・高城賢吾」シリーズの第10弾「献心」(中公文庫、☆☆☆★)が早くも出ました。この巻で、主人公の高城の人生を決めた家族の事件が、一応の決着をみます。ですがそれは……。

 

     

 

 巻末、主人公は迷いつつも新たな仕事へと向かっていくのですが、自分ならどうだったろうと考えさせられます。あるいは、仕事とは何かと。まあ、簡単に結論を出す必要も何もないのですが。

 

 そうこうしているうちに、高田郁氏の「みをつくし料理帖」シリーズ第8弾「残月」(角川春樹事務所、☆☆☆)も新刊が出ているのに気がつきました。こちらも、8巻目ともなると、いろいろ新たな展開が出てきます。物語も動き出したなあと、次巻が楽しみです。

 

     

 

 シリーズものばかり紹介しているようですが、シリーズものが好きなのでご勘弁を願います。上田秀人氏の人気シリーズ「奥右筆秘帳」はこの第12弾「決戦」(講談社文庫、☆☆☆)で最終刊でした。あくまでエンターテインメントに徹しながら、将軍位とは、権力とは何かを考えさせるのが作者の力量ですね。素直に面白かったです。

 

     

 

 最後は山手樹一郎氏の「世直し京介」(コスミック出版、☆☆★)です。いつもの痛快な山手ワールドなのですが、この作品の終わり方はちょっと中途半端なような……。まあいいか。

 

     

 

 ……今国会もあとわずか。あとはひたすら選挙、選挙ですね。でも本番、本当の仕事が始まるのは選挙後なので、ときに読書をのんびり楽しみながら政治を見ていこうと思います。

 

     

 

 本日、日本国憲法は施行から66年を迎えました。現在、政界ではかつてないほど憲法改正の機運が高まっていますが、それだけに旧態依然とした護憲勢力もなりふり構わず、必死になってきたという印象があります。

 

 参院選に向け、国民がどう判断していくのか、日本と日本人のあり方自体が問われる重大局面だと考えますが、それはともかく、今回は読書エントリです。

 

 まずは、「はずれ」のない池井戸潤氏の「ルーズヴェルト・ゲーム」(講談社、☆☆☆★)から。タイトルは、野球を愛したルーズヴェルト大統領が「一番おもしろい試合は、8対7だ」と語ったとされるのが由来で、要は逆転、また逆転の大接戦を表しています。

 

     

 

 長引く景気低迷の中で危機を迎えた会社と、その所属野球部の人間模様、ライバル企業との熾烈なやりとり、新製品開発に真摯な現場……などが、池井戸氏一流の手に汗握る筆致で描かれており、読み出すと止まりません。私はホント、「正義は勝つ」という予定調和、勧善懲悪の話が好きですね。現実は必ずしもそうではないだけに、物語の中ぐらいこうあってほしいと。

 

 次に、同じ企業小説ということで、久しぶりに江上剛氏の作品を手に取りました。この「銀行支店長、走る」(実業之日本社、☆☆★)がそれですが、この本は妙にタッチが軽いというか、軽妙さを狙うばかりにかえって感情移入ができないというか……。

 

     

 

 主人公の支店長が盛んに孫子を引用したり、銀行支店の「女番長」などというキャラクターが出てきたり、ヤクザだ政治家だのと悪役の設定も類型的で、なんだかなあ、という後味が残りました。以前けっこうまとめ読みした江上氏の小説は、必ずしもそうではなかったのですが。

 

 で、この読書エントリの「常連」作家である原宏一氏の「握る男」(角川書店、☆☆☆★)についてです。これは作者の意欲作というのか何というのか、帯に「これが本当に、原宏一の作品なのか」とあるように、今まで紹介してきたものとは作風がガラっと変わっています。

 

     

 

 タイトルは象徴的で主人公は両国の寿司店の小僧としてまず寿司を握り、やがて日本の「キン◯」を握ろうとするのですが、その過程の描写が「黒い」というかえげつないというか。読んでいくうちに気持ちが前向きになる作品が多かったこれまでの原氏のストーリー展開と全然違いますが、面白い。

 

 食べ物つながりで読んだ山本一力氏の「おたふく」(文春文庫、☆☆☆)は、いつもの「一力節」満開でした。それが分かっていて読んでいるのでもうあれこれ言いませんが、若干、本当にそうなるかなあ、これでいいのかなあ、という疑問は残りました。

 

     

 

 山本幸久氏の「渋谷に里帰り」(新潮文庫、☆☆☆)は、やる気の見えないサラリーマンである主人公が、ずっと避けてきた故郷・渋谷地区での営業を命じられ、旧友らに再開したり、過去をたどったりするうちに、仕事のおもしろさに目覚めます。

 

     

 

 最後に、おそらく初めて読んだ真山仁氏の「プライド」(新潮文庫、☆☆☆★)を紹介します。7編の短編集が収められた短編集なのですが、それぞれが事業仕分け、農家の戸別補償制度など民主党政権の批判になっている部分があって楽しめました。

 

     

 

 特に、わずか3ページの短編「歴史的瞬間」は、ある人物をモデルにしているのが明らかで、ニヤニヤしながら読みました。例えば、こんな描写が出てきます。

 

 《総理大臣になるのが夢だった。そのためには、あらゆる卑怯な手段も躊躇なく選んできたし、どんな顰蹙を買っても目立つことは何でもやった。そして俺は総理の座を手に入れたのだ。夢は叶った。だが、まだ物足りない。歴史に名を刻むような実績がないからな。それどころか、このままだと汚名を残しかねない。閣僚の舌禍が続き、内閣支持率は10%を切ろうとしている。でも俺は辞めない。この粘り腰こそが身上だからだ。そして起死回生のチャンスが巡ってきた。》

 

 ……どう考えてもモデルはアレですね。アレは望み通り、歴史の教科書に「原発対応の不手際」で名を残しました。一個人の人生としてはある意味、完結しており、立派なものです。国民にとっては大迷惑で、いい加減にしてほしいのですが。

 

 もうすぐ新年度ですね。何か定かな理由があるわけではないけれど、こういう節目があると気分一新が果たしやすく、妙に有り難く感じます。諸行は無常なので、とらわれず、また新たに前を向いて進んでいこうという気に、ちょっとだけなれます。

 

 で、そろそろ紹介する本がたまってきたので、本日は恒例の読書エントリとします。今回は、またまた警察モノに手を出しました。まずは、笹本稜平氏の「突破口 組織犯罪対策部マネロン室」(幻冬舎、☆☆☆★)からです。

 

 政官財界で巨大な影響力を持つフィクサーに、刑事達が身内の裏切りに遭いつつ挑戦を続けるというストーリーです。それ自体、面白いのですが、感心したのは、作者が意図したわけではないでしょうが、奇しくも北朝鮮に対する金融制裁がどのように効くかの解説にもなっている点です。

 

 

     

 

 《売買代金をアンダーグラウンドで決済する手段が違法薬物の密貿易にとっていかに重要かは、1995年に米国による金融制裁で営業停止を余儀なくされた、マカオに本店を置く北朝鮮系の銀行----バンコ・デルタ・アジアの事例が示している。

 北朝鮮で印刷された成功な偽ドル紙幣の流通に関わる疑惑も指摘されたが、いちばん重要な点は、密貿易の上がりのマネーロンダリングに関与してきたことだった。そこには北朝鮮で製造された覚醒剤の密輸代金も含まれていたはずだった。

 金融制裁の発動後、北朝鮮ルートの覚醒剤の摘発量が激減した。(中略)日本の当局は、バンコ・デルタ・アジアの閉鎖で代金の決済に不自由をきたし、覚醒剤の密輸がビジネスとして成立しにくくなったことが大きいとみている。》

 

 などの説明がはさまれ、新聞も分かりやすく書かなければなあと改めて反省させられました。暴力団担当刑事や、生活安全部が癒着の温床の悪役のように描かれている部分には、ちょっと極端かな、という気もしましたが。

 

 次は、今野敏氏の「東京湾臨海署安積班」シリーズの新刊「晩夏」(角川春樹事務所、☆☆☆)です。周囲の評価は非常に高いのに、自己評価は低く、どこか自信を持てずにいる安積が、今回は生意気な若手刑事の教育係の役割も果たします。

 

     

 

 これは、警察小説であると同時に、やはりサラリーマン小説なのですよね。私ももういい年なので、会社組織やそこにいる同僚、後輩のことをつい思い浮かべなから読んでしまいました。

 

 この本で勢いがついたので、もう一冊、今野氏の「同期」シリーズの第二弾「欠落」(講談社、☆☆☆)も読んでみました。この本では、当初、公安部が「悪役」として描写されていますが、途中から中国の諜報機関などと戦う「公安の正義」も描かれています。

 

     

 

 それにしても、堂場瞬一氏の執筆のこのハイペースぶりは何なのか。前回の読書エントリで「警視庁失踪課・高城賢吾」シリーズの第8作を紹介したばかりだというのに、もう第9作「闇夜」(中公文庫、☆☆☆★)が出ました。しかも重厚な内容です。

 

     

 

 ストーリーは……まあ、これは細かく述べても仕方がないので省略します。帯の「高城は絶望から甦る」がすべてですね。改めて、犯罪被害者の家族が直面する苦しみや絶望について考えさせられました。

 

 だいぶ以前に集中して読んでいた真保裕一氏の「ローカル線で行こう」(講談社、☆☆☆)は、帯の文句通り「読めば元気が出てくる」を目指した作品です。

 

     

 

 廃線も近いとみられている宮城県の赤字ローカル線立て直しの切り札として送りこまれたのは、新幹線のカリスマアテンダント、という設定が楽しいですね。それに当初は反発を覚えながらも協力していく県庁からの出向者……上手い!

 

 私は漫画の「コンシェルジュ」(原作いしぜきひでゆき氏、漫画藤栄道彦氏)が好きなので、題名にひかれて買い求めたのがこの門井慶喜氏の「ホテル・コンシェルジュ」(文藝春秋、☆☆★)でしたが……。

 

     

 

 うーん、登場人物の設定も物語もなんか地に足がつかないというか、軽すぎて感情移入できませんでした。やはり、好みに合う合わないというのはあるようです。

 

 お気に入りの川上健一氏の「月の魔法」(角川書店、☆☆☆★)も出ていたので早速読みました。「大切なことは、言葉にしないと伝わらない」という当たり前のことが、つくづく大事なのだと改めて感じました。舞台が小笠原というのもいいですね。登場人物が愛おしくて、ちょっと泣けました。

 

     

 

 川上氏と言えば、以前当欄で紹介した名作「渾身」がせっかく映画化されていたのに、近くの映画館では上映されず、観ることができませんでした。残念でなりません。

 

 三上延氏の「ビブリア古書堂の事件手帳」の第四弾「栞子さんと二つの顔」(メディアワークス文庫、☆☆☆)も出ていました。まあ、本の方はなかなかよいのですが、テレビドラマの主人公役は明らかなミスマッチですよね。原作のイメージとまったく重ならない(すみません、観ていません。配役を聞いて観る気にもならなかった)。

 

     

 

 浜田文人氏の「情報売買 探偵・かまわれ玲人」(祥伝社文庫、☆☆☆)は、元SPの私立探偵で、実は非常勤の内閣官房特別調査官という設定の主人公が、政権再交代前夜の永田町で活躍します。舞台が私の職場に近いし、主人公の友人として政治記者なんかも登場するので楽しく読めました。物語の中で、政治記者がこう語ります。

 

 「俺たちに守秘義務はない。酒場で聞く政治家のオフレコ話には裏があって、大抵の場合は、政治家が外部に漏れるのを望んでいるのだ」

 

 これは全くその通りだと、うんうんと頷きながら読みました。政治家に限らず、官僚の場合もそうであることが多いのですが。

 

     

 

 一方、「(政治家から)祝儀や車代を受けとらない記者など相手にされない」というセリフには、ちょっと違うなあと感じました。田中角栄元首相の時代やその後しばらくは、そういう時代もあったやに聞きますが、今はそんなにカネを持っている政治家もいないし、世間の目もそういう悪弊に厳しくなっているし、そういう慣習はなくなっていると思います。まあ小説の話なのだから、いいのですが。

 

 瀧羽麻子氏の本は、この「株式会社ネバーラ北関東支社」(幻冬舎文庫、☆☆☆)が初めてです。いろいろあって東京の証券会社を退職した主人公の女性が転職先に選んだのは、納豆がこよなく愛されている某地方だった……。

 

     

 

 納豆がやたらと出てくる割に、さらっと読めます。帯のいう通り、疲れている時の読書にぴったりかもしれません。それにしても、もう転職なんてそう簡単にはできない年齢になってしまったなあ。

 

 話は飛びますが、昨日の参院予算委員会の民主党の小西洋之氏の「クイズ質問」は下品でひどかったですね。どうして民主党の人たちは、あんなやり方は自分たちの評判を下げるだけだと気づかないのか。それが不思議でなりません。

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