ちょっと旧聞になりますが、23日には、衆院予算委員会で「政治とカネ」をめぐる集中審議がありました。民主党は松岡利勝農水相の「ナントカ還元水」問題を追及し、これに対して政府・自民党は「小沢不動産」を持ち出して反撃する、という構図でしたね。日経新聞や毎日新聞はこれについて「泥仕合」と書いていました。参院選を前に、互いにイメージダウンを狙って非難合戦をしているように見えた、ということでしょうね。
まあ、実際そういう部分は大いにあったのだと思いますが、私の注意を引いたのは、自民党の松浪健太氏が、民主党の小沢一郎代表が都心の一等地などに総額10億円以上の土地・建物を政治資金で買い求めていることについて、かなり詳細に追及した点です。また、松浪氏が小沢氏が小沢氏にあてた「この不動産資産は個人資産として扱わない」とする確認書について、「偽物の可能性がある」と指摘したことに対し、民主党が懲罰道義を出したことにも興味を覚えました。
朝日新聞の24日朝刊によると、民主党の平野博文国対委員長代理は「偽者と主張するなら証拠を」と述べたようです。また同日の毎日新聞には「民主党は『根拠のないひぼう中傷だ』と松浪氏の懲罰動議を衆院に提出した」とありました。この「偽物」という言葉の定義、意味は分かりにくいですが、松浪氏は集中審議で以下のように追及していましたので、紹介します。
《松浪氏 小沢代表の10億円の破格の不動産以上に政治不信に拍車かけているのが、小沢代表が記者会見で使った確認書だ。平成6年に取得したチェリス赤坂と17年の分。これを見て非常に怪しいと思わない人はいない。私はマスコミ出身で、記者の仲間、知り合いがたくさんいるが、これは後で作ったのではないかという声がほとんどだ。字が10年後に書いて似ているのはあやしい。文章も問題だ。内容がほとんど同じで不自然だ。
平成6年当時の状況は、法改正されていなくて、指定団体をいくつも持てた。今は企業献金は政党支部のみだ。小沢代表は、指定団体にいくらでもお金が入る時代に確認書をつくっている。確認書の意味だが、政治規制法上、何らかの規定があるわけではないのに、つくる動機は一体何か。どうして法的根拠のないものをつくる必要があるのか。陸山会(※小沢氏の資金管理団体)代表の小沢代表が不動産登記し、権利関係を規定している。どうしてこんなことをしているのか。法律上、何らかの規定を設けているのか。
菅総務相 政治資金規制法上はない。
松浪氏 陸山会の不動産は小沢の資産ではないと言っているようにみえるが、何の規制のないものを、平成6年の政治資金感覚がまったく違う時代にこれだけのことを認識してつくった。偽物の可能性があると思うが、本物だったら、確信犯ではないか。確認書の法的効果はどうか。
法務省民事局長 確認書は売買契約書のようだが、直接法的効果を示す性質のものとは異なるものだ。買い主が誰かは売り主との売買契約の枠内で決まる問題で、買い主がだれかは関係者と確認したということは法的効果を生じない。何らかの間接的な証明手段ではないか。
松浪氏 自分から自分への手紙にはまったく何の意味もない。偽物の可能性が高いといったが、ウインドウズ95導入以前のもので、特徴的だから、証明するなら原本を鑑定に出せば真偽のほどが分かる。確認書が偽物ならば私文書偽造だ、本物ならば法の抜け穴を知ってやった確信犯だ。どちらにしても退路ない。弁解の余地はあるか。わざわざこういう紙を出すことを世間ではやぶ蛇という。どっちにしても問題ある。真偽はみなさん(民主党)に任せる。
10億円はそもそも非常に大きい。ほかに3、4人、建物をもっている人はいるが、ほかは建物だけ。土地まで持っているのは小沢代表だけで、ほかは1000万円程度。100倍の10億円というのは問題ないのか。本当に使われているのか。使われていればいいが、写真も撮ってきたが、部屋へ行くとポストには何も書かれていないし、部屋にも何も書かれていない。書いてあってもわけのわからない会社名だ。確認書のチェリス赤坂もポストや部屋には何も書かれていない。これが政治目的で使われている物件なのか。さらに赤坂近辺に何軒もあるが、使われていないものもたくさんある。不動産屋でもないのに、こんなにたくさん物件を持つ必要がどこにあるのか。非常に大きな問題だ。看過できない。
小沢さんは10億円の不動産資産があるのに、地代・家賃で毎年2461万円を計上している。10億円で感覚が狂っているので、2460万円は少ないのかもしれないが、1年間政治活動できる額だ。何を借りているのか。明らかにしないと、あんな釈明会見をしたって問題はまったく解決しない。こうした不透明な使い方が明らかになっているが、資金管理団体で不動産取得禁止を含めて与党で改正案を検討している。総理の考えを。
安倍首相 不動産を取得して個人の政治家の名義にすることには、どれくらいの大きな問題があるかはっきりしたと思う。政治献金として集めた額、あるいは場合によっては、政党交付金、税金からきたお金かもしれない。それが個人名義の不動産になってしまって、例えば相続権が発生した場合、個人のものに完全になっていくこともあるのではないかと思う。その観点から与党案で資金管理団体の不動産の取得等の制限等の内容としているのは当然ではないか。》
このやりとりをみると、松浪氏は、確認書はあとで作ったものではないかという意味で「偽物」という言葉を使っているようですね。それに対し、民主党側は反発しているようですが、両者とも私のブログを参考にしてくれればよかったのにと、ちょっと思いました。というのは、私は2月21日のエントリ「『小沢不動産』に関する各紙の報じ方と確認書」の中でこの問題について書いていたからです。
結論を言うと、小沢氏の不動産13物件中6件に関しては、確認書の作成日は平成18年9月14日となっており、明らかに購入時ではなく「あとで」作られています。この事情について、小沢氏の弁護士は「足りない分や紛失した分があったので、私から作成を勧めた」と説明しています。松浪が言うような「私文書偽造」というのとは、ちょっと違うようにも思いますが、かと言って民主党側が「小沢氏は私物化しないと確認書をつくっている」と威張って述べているようなきちんとしたものでもないようですね。
それと、松浪氏が実際に小沢氏(陸山会)が所有する不動産物件を見てまわり、「使われていないものもたくさんある」と指摘している点は重要だと思います。これは、小沢氏が政治活動上、買う必要のないものを買っているという実態を示す傍証だといえるでしょう。実際、政治資金で購入した物件を政策コンサルティング会社などに貸して家賃をとったりもしていますし。
また、松浪氏が疑問を示した「たくさんの不動産物件を持っているのに、何で年間2460万円も賃料を支払っているの?」という点は、私も不思議に思い、2月28日のエントリ「小沢氏の資金管理団体は家賃2400万円も計上」に書いていました。この問題については、小沢事務所にどこでどんな物件を借りているのかと取材を申し込み、なかなか返事がなかったのですが、約3週間かけて何度も督促して何とか回答してもらっています。いつか報告しなければと思っていたので、ちょうどいいからここで説明します。
小沢事務所によると、これは、世田谷区深沢の小沢私邸に隣接(小沢邸の敷地内)する「深沢事務所」といわれる土地・建物の賃料で、所有者は「まったく関係のない第三者」だそうです。登記簿によると、建物は昭和61年9月に新築された木造スレート葺2階建で、延べ床面積は約336平方メートルとなっています。なんであんなに不動産を買い続けている人が、自分の私邸の敷地内にある建物だけは借りているのか、月約200万円の家賃は相応なのかなどといろいろと疑問は残りますが、とりあえず説明ではそういうことのようです。
まあ、集中審議ではこんな質疑があり、小沢不動産に対する疑問点も新たに示されたのですが、報道はやはり松岡氏の問題の方に集中気味でしたね。それも無理からぬことだとは思いますが、安倍政権憎しのあまり、筆がすべった社もあるようです。朝日新聞の社説「踏みにじられた倫理綱領」は小沢氏が記者会見をして領収書を公開(コピー、撮影禁止で一社あたりわずか30分間)したことをもって「小沢氏は政治倫理綱領の精神に沿って行動したとはいえる」と持ち上げていました。そうかなあ。
東京新聞の社説「かばう首相の見苦しさ」に至っては、小沢不動産問題を追及した安倍首相について「(松岡氏について)内閣の最高責任者の認識を聞かれているのに、それにはほおかむりで他者の問題をあげつらうのは、見苦しい」とくさすばかりで、小沢氏の問題に対しては不問にする姿勢を貫いています。この社説は、全体にものすごく偉そうな書きぶりなのですが、「あなたたちはそんなに偉いのか」と素朴に疑問を感じます。安倍氏自身は東京の社説について、周囲に「のびのびサヨクしているね」と笑っているようですが…。