2012年11月

 

 さて、人が他者に与える印象、イメージについてであります。

 「嘘つき泥鰌」と言われてきた野田佳彦首相は今回、衆院解散を表明するに当たり、なんと小学生のころのエピソードまで持ち出して自分のことを「バカ正直」だと強弁し、それに呼応するように玄葉光一郎外相も今回の解散を「バカ正直解散」だと名付けてみせました。

 で、実際、テレビのコメンテーターや評論家などの反応を見ても、「野田さんは約束を守った」「意外にまともだ」などと評価する声が出ています。まあ例によって予想された範囲というか、ありがちな展開ですね。

 「自爆解散」や「自己愛解散」、「嘘つき逃れ解散」などと皮肉る声もありますが、野田氏の作戦勝ち、とみる向きの方が多いように感じます。そうした受け止めがあることもある程度、理解はできます。

 ただねえ、天の邪鬼の私はこうした世間の反応について、二つの点で違和感を覚えているのです。

 一つは、「近いうち」と約束した人が、3カ月以上もたってからそれを実行したからといって、果たして嘘をついていないと言えるのかという問題です。私の常識では、もう「近いうち」には入らないだろうと感じるのですが、まあ、これは人によって感覚が違うものかもしれません。

 そしてもう一つは、今回、野田氏がテレビなどで妙に称賛されているのをみて、一時期けっこう好きで読んでいた長寿漫画「こちら葛飾区亀有公園前発出所」の確か割と初期のころに出てきたエピソードを思い出したからです。

 正確には覚えていませんが、だいたいこんな話です。昔かなりグレていて悪かった不良少年が、更正してまともに働き出したのを、周囲の人たちがみんな褒め称えました。それを皮肉な目で眺めていた両さん(両津勘吉)が、

 「そんなの褒めることないの。もともとダメだった奴がいま普通になっただけで、あくまで普通に過ぎない。それで当たり前なんだから、褒めることはないよ!

 と突き放すのです(うろ覚えなので実際のセリフはだいぶ違うかもしれません)。長寿漫画すぎて、これを読んだのが私が少年のころだったか成人してからだったかも思い出せませんが、全くだと同感したのを記憶しています。

 野田氏にしても、消費税増税一つとっても野党時代と政権の座に就いてからでは言っていることが全然違い、それを意図するしないにかかわらず、たくさん嘘をついてきたことは紛れもない事実です。マニフェストの実行なんかもそうですね。今さらいちいち数え上げることはしませんが。

 なので、そういう嘘つきが、さんざん遅延させた上で一つ約束を守ったからといって、「よくやった」と言うのは筋違いであると思うのです。普通の人は、別に「更正」を必要とするまでもなく、基本的に正直に真っ当に生きていて、それで特に他者から褒められるわけでもないのですから。

 私にしてみれば、今回の野田氏が約束を守ったと言えるかどうかも怪しいのですが、仮に嘘つきが一回約束を守ったとして、それで普通の正直な人たち以上に称賛するのは倒錯以外の何物でもないと思うのです。

 まあ、どうでもいい、つまらない話ですが。

 

祝・解散!!

 これまで長かった。本当に長かった。いやになるほど、もう勘弁してくれというほど長かった。でも……

 

今日ですべてが変わる

今日ですべてが報われる

今日ですべてが始まるさ

万歳。

  ……今、テレビで民主党の輿石東幹事長が、自ら陣頭指揮をとる衆院選の勝敗ラインについて「比較第一党になること」と答えています。心に深く刻みたいと思います。決して忘れません。

 

 ようやく衆院解散・総選挙という朗報がもたらされ、日本の将来に少し明るい展望が見えてきた昨日、政治評論家の三宅久之氏が逝去されたとの訃報に驚愕しました。大変残念であります。つい最近、退院されたと聞いたばかりだったのに。

 三宅氏とは、ちょうど1カ月前の1015日にある会合で同席し、親しく謦咳に接する機会がありました。日本の政治の今後の課題や、自民党総裁選のエピソードなど、さまざまな話をうかがいました。同席されていた奥様との仲睦まじい様子も素敵でした。

 話に興が乗ると、酸素吸入のための鼻チューブを自ら外し、「大丈夫だから」と言って熱く持論を展開されていました。閣僚経験のある著名議員を、「あいつはこれこれの理由でけしからん!」と切って捨てる様子はお元気そうで、そのときは、まさかわずか1カ月後にこのような悲報を聞くとは思ってもみませんでした。

 三宅氏とは、実は小泉政権時代に一度名刺を交換し、「自分は毎日出身だけど、産経が一番スクラップする記事が多い」と声をかけてもらったことがありました。その後、あまり縁はなく、その時の印象も薄かったようでしたが、その後、私の署名記事をときどき読んでくれているらしく、レギュラー出演されていたテレビタックルの関係者から「三宅さんは、名前を見て阿比留さんのことを女性だと勘違いしているよ」と聞いたこともありました。

 私はただの太り気味の中年男なので、がっかりさせては悪いなとも思っていたのですが、先日は改めて挨拶し、「実物はこんなのですみません」と笑い合い、楽しい会話をしたのでした。

 日本の政治がこれから変わろうというときに、新しい時代を見ることなく逝かれたのが残念でなりません。政界のご意見番として、はっきりとものを言うお姿をもう見ることができないかと思うと寂しくもあります。

 心よりご冥福をお祈り申し上げます。

 

 

 一日千秋の思いで待ちわびた衆院解散がとうとう、やっと、ようやく、どうにかこうにか来月16日と決まったようです。33カ月近くたって、衆院選で民意を示す機会が訪れました。国民がこの数年間で何を学んだかを、堂々と訴える機会が到来しました。日本がこれ以上破壊されてしまう前に、この局面がやってきたのは幸いでした。

 もとより、政権交代前の自民党もいろいろと行き詰まり、制度疲労を起こし、あるいは昔ながらの自民党に戻れば票が得られるとカン違いして迷走していました。離党者も相次ぎ、党内ガバナンスも怪しく、古い既得権益層との癒着も指摘されていました。

 なので、一見、目新しいように感じられた民主党に、多くの有権者が何かを期待したのは不思議ではありません。また、政権交代によって、国会・国政・霞が関のさまざまな問題点や不合理な点があぶり出された部分もなしとはしません。

 そうではあるけれど、この3年間は長すぎました。能力も覚悟も資格もない民主党政権の限界は鳩山政権の最初の数ヶ月でほとんど克明に明らかになっており、その後の菅政権や野田政権はただ失政を重ね、諸外国の侮りを招き、日本の停滞や後退を推進しただけの余計なものだったような気がします。というかそう確信しています。

 民主主義のコストとリスクを、イヤというほど思い知ったこともまた、今回の政権交代の数少ない効果だったかもしれません。人間のつくる制度やシステムに、もとより完全なものなどありえず、だからこそ、不断の点検・見直しが必要となるわけですね。いろいろと考える材料を与えてくれた、ということもできるかもしれません。

 民主党政権がわれわれ国民に見せつけた無能、不能、虚偽、欺瞞、誤魔化し、言い逃れ、おためごかし、傲慢、卑怯、怯懦、増長、勘違い、嫌味…は忘れようがありません。彼らが国民をいかに軽蔑し、軽視し、またバカにしてきたかはこれまで散々書いてきました。許すわけにはいきません。

 野田佳彦首相も民主党幹部も、政権を他党に渡す気はないと言っています。それは多分に強がりでしょうが、同時に彼らのまだまだ根強い思い上がりの表れとも受け取れます。

 日本国民の、有権者の意志を、今こそ「これでもか!」と突きつけるべきときですね。ノーモアハトヤマ、ノーモアカン、そしてノーモアノダを、彼らが己自身を初めて知ることになるくらい、投票行動で見せてほしいと、今はこんなささやかな希望を持っています。

 衆院選後も当然、すべてがうまくいくわけではないし、まだまだ困難は常につきまとうことでしょう。どんな枠組みで政権が運営されるかもはっきりしません。だとしても、言葉も常識も法規もルールも良識も通じない民主党政権よりはマシだと、これは断言できると思っています。

 万歳。

 

 

 さて、唐突ですが本日は南鳥島の話です。日本最東端に位置するこの南鳥島をめぐっては今年6月、東大の研究チームは周辺の排他的経済水域(EEZ)内の海底に、ハイテク製品にかかせないレアアースを多く含む泥が大量に存在すると発表しましたね。埋蔵量は日本のレアアース消費量の約230年分に相当するとみられるという、非常に喜ばしいニュースでした。

 中国は、日本との間で摩擦や衝突があるとレアアースの対日輸出を一時停止するなどの圧力をかけてきた経緯もありますし、メタンハイドレートと同様、わが国の領土・領海内から資源が見つかるというのは、対外的にも非常に有効なカードとなりえますね。

 で、ここからが本題なのですが、話は昨日の衆院経産委員会へと飛びます。こうした新資源活用の所管大臣である枝野幸男経産相の答弁が、何とも心許ないというか、なんだあなたもやはりその程度だったのか、やはり民主党議員だけあるな、と変に納得させてくれるものだったので紹介します。自民党の高市早苗氏とのやりとりです。

 高市氏 今回、高濃度のレアアースを含む泥が見つかったという南鳥島ですけれども、南鳥島の住所はどこになるのか。周囲76キロほどの小さな島だが、日本人は駐在しているのでしょうか。

 枝野氏 南鳥島は、東京都であることまでは承知していますが、何町、何村に属するかまでは承知していません人は住んでいなかったんじゃないかと思います。

 高市氏 東京都の小笠原村ですけども、一般の住民は住んでいません。ただ、自衛隊と気象庁、関東地方整備局の職員が交代で駐在しています。(中略)ちなみに、南鳥島の南西310キロメートルという地点で泥が発見されたわけですが、ここは日本の排他的経済水域内に当たるでしょうか。

 枝野氏 排他的経済水域であるかどうかという確認はしてきておりません。申し訳ありません。(中略)わが国が何らかの権能を有している地域であるというふうに思います。

 高市氏 では、排他的経済水域というのは領海基線から何キロですか

 枝野氏 すみません、領海基線からだったか、200海里と言われています。今、事務方がメモをくれましたけれども、排他的経済水域の中に入っているかどうかの方ではありませんでした。200海里というふうに承知しています。

 高市氏 1海里が1852メートルですから、かけ算をすれば200海里だったら370.4キロメートルですので、今回の東大の加藤教授が発表された地点については、紛れもなく排他的経済水域内に入ります。(中略)枝野大臣は、資源にも非常に大きな権限を持たれる大臣ですので、ちょっとこの排他的経済水域だとか国際法上の権限ですとか、そういったものにもう少しご関心を持っていただければと思います。(後略)

 ……まあ、高市氏も指摘・要望していますが、枝野氏はもう1年以上も経産相をやっているし、官房長官も務めていたのに、日本にとって死活問題でもある資源問題に関心が薄いのかなと疑ってしまいます。非常に頼りない印象です。思想傾向や人間性はともかく、能力的には民主党内ではましな方かと思っていましたが、それも怪しいか。

 民主党政権はもう長くは続かないとはいえ、政権の座にいる間は少しでもしっかり務めを果たしてほしいと思うわけですが、それもないものねだりの一種であり、八百屋で魚を求めるような愚かな話かもしれませんね……。

 

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